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後日談

11.何してるの?

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 それから屋敷の片付けを手伝い、庭にも屋敷にも魔物が残っていないか確認して、相談所に戻ったのは夕方近くになってからだった。

 相談所に戻る途中で、先輩がハンバーガーを奢ってくれて、俺はそれを食べながら相談所で始末書を書くことになったが、全然終わらない。

 小さなビルの一室にある狭い相談所に、ずらっと並んだ隅っこのデスクで、俺はずっと始末書を書いている。

「何でこんなことになるんだ……」

 魔物がいないのに勝手に強化の魔法を使った件と、ゼライトの屋敷の部屋をぐちゃぐちゃにした件と、あの後ゼライトの屋敷で始末書の件で騒いでいたらゼライトに笑われて腹が立って殴ろうとしたから、依頼人に乱暴しようとした件と、今朝の魔族たちとの乱闘の件の始末書を書きながら、俺は頭を抱えてしまう。

 何で俺はこんなことをしているんだ。

 だけど隣では、ティーイラットがお座りして心配そうに俺を見上げている。せっかく彼がきてくれたのに、心配かけたくない。

 もう一度書類に向き直るけど、今度は飛びかかってきたウィルットに「まだ終わらないのー?」と言われてしまう。

 この野郎……他人事だと思って!!

 もう犬でいる必要はないのに、二人ともまだ犬の姿のまま。

 だいたい、さっきからウィルットが邪魔するから終わらないんだ!
 しかもこいつ、隣のデスクの先輩が遅めの昼ごはんに買ったチキンナゲットをもらったのに、あっという間に食べ尽くしたらしく、今度はまだ食事中の先輩に飛びついて行く。

「そっちも美味しそう!! 僕にもちょうだい! わんわん!」

 あいつ、本当に犬になっちゃったのか?

 お昼ご飯をほとんど取られて、怒るかと思いきや、先輩はウィルットを抱き上げて、優しく言った。

「少しだけですよ」
「いいの!?」
「夜の飲み会は、チキンの美味しいお店です。どうかあなたもいらしてください」
「本当!? 行く!」
「……あの……本当に邪竜ですか?」
「喉乾いた! ミルク!!」

 楽しそうだな……あいつ、もう邪竜はやめてチワワになればいいのに。先輩も、断ればいいのにオフィスの隅の冷蔵庫からミルクを取り出している。

 俺は始末書で忙しいのに、ウィルットばっかり楽しそうでずるい……

「先輩……始末書、終わったんですか?」

 俺がふりむくと、先輩は終わりましたってあっさり言う。先輩だって、今回のゼライトの件で始末書かくことになったのに、この違いはなんだ!!

「何でそんなにすぐ終わるんですか!!」
「私は仕事をしただけですから。始末書は、あなたが危険な目にあうことを知りながら報告が遅れたことに対するものです」
「だからって早すぎです!! 俺まだ書いてるのに……俺が政府の高官殴って、対策機関の人に掴みかかって、対策機関の中で砂破裂させた時に比べたって、あっという間に終わりすぎです!! ずるいです!!」
「……ずるくはありません。当然です」
「なんで!?」
「何でじゃありません。早く書かないと、夜の飲み会に間に合いませんよ」
「……終わりませんんん」

 終わる気がしない……デスクに突っ伏してみても、やっぱりそれは変わらない。

「そういえば、先輩……ゼライトはどうなるんですか?」
「厳重注意です。これからは魔物を放置しないように約束させられていました。どうしても、あなたの力を見たかったようで……」
「喧嘩したかったってことか!」
「違います」
「違うのかっ!!??」
「……そんなに驚くようなことですか? 街中でみだりに砂の力を使うことは禁じられています。ですから」
「せ、先輩!! 今日は説教はなしです! 俺、始末書だけで泣きそうなんで!」
「……わかりました。では、みだりに力を使わないことだけ約束してください」
「はーい……」

 仕方なく、また書類に向き直る。そしたら、今度は向かいのデスクからムカつく声がした。

「馬鹿な人族がまた迷惑かけてるぞ。うるせえんだよ」
「あ??」

 このムカつく声の主は、俺に何かと突っかかってくる魔族のファイギトルだ。今朝、俺に絡んできたのもあいつ。いちいち俺に喧嘩を売ってくる、金色の長髪の男だ。

 俺は、そいつのデスクの方を睨みつけた。

「なんだよ……なんか文句あんのか?」
「てめえのせいで俺たちまで始末書かかされてんだぞ!」
「はあーー? てめえらが先に喧嘩売ってきたんだろうが!!」
「俺は親切でてめえに声かけてやったんだよ!!」
「ふざけんな!! 何が親切だ!」

 怒鳴り合う俺を、隣の先輩が止める。

「デトズナー、やめておきなさい。あなたたちも、デトズナーをからかわないでください」
「そいつが先にやったんだ!」

 ファイギトルが怒鳴ると、ティーイラットが俺のデスクの上に飛び乗って、彼らを睨みつけた。

「こいつをからかわないでやってくれるか?」
「ティーイラットさん……」

 なんだあいつら!! 俺だとからかったくせに、ティーイラットだと黙るのか!??

「くっそ……」

 苛立ちながら、書類に向かう。やっぱり、こういうのは苦手だ。

 だけど飲み会は行きたいし、できるだけ早くここから離れたい。副所長が来る前にここから逃げたいんだ。

 副所長のことを思い出したら怖くて、俺は珍しく本気で始末書を書き始めた。

 そしたら、デスクの上に乗ったティーイラットが、俺の頭の近くまで顔を近づけてくる。何かと思えば、彼は丸まった書類をくわえていた。ティーイラットが止めてくれなかったら、俺の頭にぶつかっていただろう。

「ティーイラット? なんでそんなもんくわえて…………」

 って言いながら、なんとなく想像がついた。向かい側のファイギトルが投げたんだ。あいつはたまにそういうことをする。この前も、それで俺と喧嘩になったばかりなのに。

 野郎……俺だけならともかく、ティーイラットを巻き込むとは。

 俺は、ティーイラットが俺のデスクに置いた丸まった書類を握った。そして、砂の瓶の蓋を開ける。丸めた書類に砂を纏わせて、丸くて柔らかいボールを作る。
 砂だけでもこのボールは作れるんだが、もらったものは返す!!

 俺の様子に気づいたティーイラットが、俺に振り向いた。

「おい……デトズナー、やめろ!」

 彼が止めてくるがもう遅い。俺はすでにファイギトルに向かってボールを投げている。

 だけどそれはファイギトルの頭にぽこっとぶつかるはずが、簡単にそいつに受け止められてしまった。

「てめえ……喧嘩売ってんのか!?」
「そっちが先に売ったんだろーが!! 止めてんじゃねえぞ!」
「俺は! てめえの下手くそな始末書添削してやったんだよ! そんなんじゃまたやり直しだぞ!! 魔物が出た時の状況はちゃんと書けってラッフィトールから言われてるだろ!!」

 そいつが、俺が投げ返した砂まみれの書類を広げて見せてくる。俺が今朝提出した始末書だ。そしてそれは、付箋や鉛筆で添削されている。

「だったらそう言えよありがとうございます! だけどムカつくんで投げましたー!!」
「ああ!?? もうてめえは一生、始末書かいてろ!!」

 怒鳴りつけたそいつが投げた書類を今度は俺が受け止めて投げたけど、それもティーイラットに咥えられてしまう。

「ティーイラット! 今は邪魔すんじゃねえ!」
「……お前は普段からこんなことをしてるのか?」

 ティーイラットが呆れて言って、そこでラッフィトール先輩が俺を止め、ファイギトルの方も仲間の魔族が止めるけど、今度はファイギトルがデスクにあった書類を丸めて投げてくる。しかも連続で。

 キレたのか、ガキみたいにポンポン投げてくるけど、そんなもんに当たってやる俺じゃねえ。

 避けながら俺はそいつに向かって丸めた書類を投げつけた。だけど避けるのに夢中で隣の席のやつにぶつかってしまう。

「あ、悪い」
「デトズナー……いい加減にしろよ!」

 そう言って、隣の席のやつが立ち上がり、それをその隣の席のやつが止めてる。
 ファイギトルの方は、他人の書類まで取って丸め出して、そっちはそっちで喧嘩になってる。

「ふざけんな! てめえ!! それ今俺が書いたやつだぞ!!」
「ああ!? そんなとこに置いとく方が悪いんだろーが!!」

 その喧嘩を止めようとした奴が喧嘩に加わって、俺の方は俺の方で隣の席の奴と止めにきた他の連中を巻き込んで揉み合いになる。
 誰かが丸めた書類を投げたことを皮切りに、その辺にある物の投げ合いがはじまって、相談所の中はすごい騒ぎだ。

 もうこうなると、ラッフィトール先輩やティーイラットが止めても誰も聞いてないし、ウィルットは面白がってキャンキャン鳴きながら部屋をぐるぐるまわって、いつもの喧嘩の数倍の大騒ぎ。

 だが、そんな中でも、あの人の声は聞こえるからすごい。

「デトズナーくーん……何してるのー?」

 決して怒鳴りつけるようなことはせずに、冷静そのものなのに、その声だけで、誰もが凍りついたように動きを止める。そして誰もが、声のした方に振り向いた。

 そこに立っていたのは、この事態を見て真っ青になっている相談所の所長と、笑顔でいる声の主、砂の街の対策所の副所長。笑ってはいるけど、目は全く笑ってなくて、視線だけで俺の心臓は凍ってしまいそうだった。
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