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後日談
9.頼むよー
しおりを挟むゼライトともう一人を縛り上げて、俺は、先輩に振り向いた。
「先輩、ありがとうございました」
「……デトズナー……」
「あ!! 今回の件なら、気にしないでください! 後で殴らせてもらって始末書かいてもらったら、それで十分なんで!」
「……これは少しやりすぎです」
「え?」
俺は、部屋の中に向き直った。そこは天井も壁も壁紙が剥がれ、ソファとテーブルは見る影もないほどに破壊され、他の家具まで原形をとどめていない。
これは……さすがにだめだったか? いや、そんなことない!
「向こうが先にやったんです!!」
「それにしても、被害は最小限に留めるのが原則です」
「はあ!? めんどくせえ……え!? じ、じゃあ、また始末書……? 強化の魔法の件と、ここの件…………昨日だって大変だったのに……」
「恐らく、そうなるでしょう」
「ま、また……? また、始末書……?」
「……落ち着いてください。とりあえず、涙を拭いてください」
「泣いてません! 泣きたいけど……だって今日は先輩が手伝ってくれるんですよね!?」
「……ここの件のものだけは手伝います。あとは自分で書いてください」
「なんでですか!! あれ書くのめちゃくちゃ時間かかるのに……夕方までに多分また増えるし……」
「増やさないでください!!」
「んなこと言ったって……もうすでに……」
「……デトズナー? まさか既に始末書を書かなければならないようなことをしでかしてきたんじゃないでしょうね?」
「……」
「……デトズナー……」
「……ここくる前に……相談所寄ったら魔族の連中に絡まれて、喧嘩したら相談所がちょっと壊れました……」
「……」
先輩は黙ってしまう。ティーイラットたちまで冷たい目で俺を見ている気がした。だって「また始末書かいてるのか」って言われて、腹が立ったんだ。
そして、先輩はその冷たい目のまま言った。
「やっぱり全部自分で書きなさい」
「はあーー!? 約束が違います!! ケチなこと言わないで全部手伝ってくださいよーー!!」
そろそろ涙目になってきて、俺はゼライトに振り向いた。
「てめえのせいだぞー!! 一回死なない程度にぶん殴る!」
「で、デトズナー!! やめなさい!!」
先輩が止めに入るけど、俺は怒りが治らない。こいつが変な真似しなかったら、俺の始末書だって増えなかったんだ。
しかも、ゼライトは全く悪びれる様子もなく、むしろ呆れたように言った。
「えー……八つ当たりは困るなぁ。僕は結界は張ったけど、それだけだよー? このままだと、そっちが依頼人の僕に突然飛びかかってきたことになるよ?」
「お前が先にやったんだろーーが!!」
「そんなの、魔法で偽造できちゃうよ。君が砂の力を使うって知ってたから、あんな魔法使ったんだし。そもそも部屋もこんな状況だから、好きなだけ君のせいにできちゃいそうだなー」
「はあ!?」
すると、先輩が首を横に振って言った。
「やめてください。私が見ていました。先に彼を拘束しようとしたのはあなたです。結界だって、彼を拘束するために、砂の力を押さえ込むためのものでした」
「えー。ラッフィトール君裏切りー? ひどいなー……」
「裏切ってません。あなたこそ、デトズナーに手は出さないと、そう約束したのに」
「そうだったかなー?」
「……私に話した、魔物が出て困っているというのも、全部嘘だったのですか?」
「そんなことないよー。それはほんとー」
「…………本当なら、こんなことをしている場合ではないのでは?」
「だってー、せっかく魔物が出て、君たちに会えるからー、ついでに君の後輩と砂の力を見せてもらいたいなーと思ってー」
「……魔物はどこですか?」
「庭だよー。困ってるんだー。なんとかしてほしーなー」
「……呑気な方ですね」
先輩がそう言った時、窓をガンっと叩くような音がした。
振り向けば、窓の外を砂の塊が飛んでいる。それも、一つや二つじゃない。数十はありそうな群れだ。あんなの放っておいて、街に出て行ったら大変なことになる。
「お前……本当にこんなことしてる場合じゃないだろうが!!」
俺が怒鳴りつけても、ゼライトには全く危機感がない。
「だからー君たちを呼んだんだよー。頼むよー。なんとかしてー」
「……調子のいい野郎だな……」
ぶつぶつ言いながらも、俺は爪を構えた。
すると、俺の隣に先輩が並んで、ティーイラットとウィルットも俺のそばで俺を見上げてる。なんだか嬉しくなって、俺はゼライトに振り向いた。
「あの程度の魔物でビクビクすんな! 最近始末書ばっかで嫌になってたんだ。全部ぶっ壊してやるよ!!」
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