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96.可愛い……
しおりを挟むあっさり答えたティーイラットに、ウィルットは不正だーーって叫んで、その腕から逃げ出す。
「邪魔な狼が邪魔するから、ルール変更っっ!! 先に罰ゲーム決める! 答えられなかった人には……犬になってもらう!」
「おい! なんだそれは!!」
即座に異を唱えるティーイラットに、ウィルットはバカにしたように言った。
「お前はもう犬だから、参戦できないよー!!」
「黙れ!! そんなの、認めないからなっ!!」
怒鳴るティーイラットを無視して、ウィルットは俺に向き直る。
「じゃあ、次のもんだーい!」
こいつ、さっきのスモークチキンのピザの件、めちゃくちゃ根に持ってる。だけど、俺だって負ける気はないっ!!
「言っとくけど、さっきのは、たまたま忘れてただけだからな!!」
「はいはい。じゃあー……砂漠にいる魔物の数は?」
「………………は?」
「砂漠にいる魔物の数は? 一の位まで正確に」
「んなもんわかるか!! 次々砂から出てくんのに!! そんなの絶対教科書に書いてなかった!! 不正はお前だ!!」
「問題は僕の自由だもーん」
「……てめえ、正解わかるのかよ!?」
「もっちろーん。わかるよ?」
「嘘つけ! じゃあ答え言ってみろ!」
「答え言ったら問題にならないじゃん」
絶対嘘だ!! 周りからも、特にティーイラットから不正だと声が上がるが、ウィルットは聞いていない。それどころか、俺に答えを急かしてくる。
「デトズナーくん、答えはー?」
「…………いっぱい?」
「ぶーー!! デトズナー君の負けー!!」
「おい待て! ずるいぞ!! だったら答え言ってみろ!」
怒鳴りつけた俺は、急に眩暈がしてきて、目を開けていられなくなった。
それが治まり、目を開けると、すぐそばに巨大なソファがあった。魔法で小さくされたのかと思ったが、ウィルットが、わざわざ魔法で出した鏡を俺に見せてきて、その中にいたのは、いつもの俺じゃなくて小さな犬だ!!
なんだこれ!! ほ、本当に俺が柴犬になった!! しかも子犬……赤毛の柴犬の子犬になってる。ウィルットより小さい。これじゃ牙も爪も、武器にならないじゃないか!
「おい!! なんだよこれ!!」
ウィルットに向かって牙を剥き出しにして抗議するが、そいつはニコニコ笑って自分だけ人の姿になる。
「かわいーー。柴犬くん、おいでー」
ウィルットは俺に手を伸ばしてくるけど、そいつより先に、背後から俺を抱き上げた奴がいた。
愛おしそうに俺を抱いて、恍惚の表情を浮かべているのは、犬バカのファンデッルだ!!
「可愛い…………なんて可愛い……クリスティーナ」
「うるせーよ!!!! 離せ!!」
死ぬ気で暴れるけど、子犬を前にしたファンデッルからは逃れられない。強く抑え込まれているわけではないのに、なぜか逃げられない。
それどころかファンデッルは、小さな俺の頭を、気味が悪くなるくらい優しい手つきで撫で始める。
「こっちが本当の姿だったんだね……クリスティーナ……俺がずっと、愛してあげる……」
「ざけんな! キメエ! 離せっつってるだろ!!」
「………………そんな冷たい態度も……可愛い……」
何言ってんだこいつ!!
暴れていたら、気味悪いことを言うそいつの腕から、副所長が俺を抱き上げて取り上げてくれた。
「ファンデッル、だめだよ。嫌がってるじゃないか」
「副所長!! それは至高です!! 返してください!!」
抗議して俺を取り返そうと手を伸ばすファンデッル。
けれど、さすが副所長、俺をそいつから隠すように遠ざける。
助かった……あー……怖かった。
「さすが副所長だな!! 下ろしてくれ!! あいつに噛み付いてやる!」
「やめなさい」
そんなことを言いながらも、喧嘩さえ回避できれば下ろしてくれるんだと思った。だけど、副所長はいつまでも俺を離してくれない。
不思議に思って見上げれば、副所長は、じーっと俺を見下ろしていた。
「副所長? どうしたんだよ……下ろしてくれ……」
「……確かに……かわいい……」
「はあ!??」
「もう、デトズナー君はこのままでいいんじゃない? 柴犬のままでいようよ。うちで飼ってあげるから」
「はあーー!? ざけんな! 離せーー!!」
こいつまで何を言い出すんだ!! 俺は犬じゃねえんだぞ!!
暴れていたら、今度は人の姿になったウィルットが、副所長から俺を取り上げる。
「みんなずるい! 僕が魔法かけたんだから、僕が抱っこする!!」
「ウィルット!! 今すぐ魔法解けよ!! 聞いてんのか!? おいっ!! クソ竜がっ!!」
危機を感じて、元凶のそいつを怒鳴りつけるが、そいつはまるで聞いてない。
「その格好で暴れても憎まれ口言っても可愛いだけ。柴犬君」
「デトズナーだ!!!!」
暴れていたら、一瞬の隙をついたファンデッルが、ウィルットから俺を取り上げる。
「クリスティーナ……もうどこへもやらないよ……」
「クリスティーナじゃねえっつってるだろ! きめえんだよ、バカ!! 離せっ……何してんだお前!」
俺を抱っこしたまま、魔法で犬用の首輪だのリードだの服だのを出し始めるファンデッル。
俺は震え上がった。
あれ、まさか俺につける気じゃないだろうな!!
いつもなら、そいつを止めてくれるはずの副所長まで、こっちにちょうだいって言い出した。こいつら、目がこわい!!
「これでいい。クリスティーナはうちの犬だ……」
ファンデッルの奴、何言ってるんだ? いくつも魔法で首輪を出さないでほしい。怖いから!
そして、所員が一般市民を飼おうとしているのに、呑気な様子の副所長まで、俺をなんだかおかしな目で見下ろしている。
人を人とも思わない奴らを、唯一フィッイが止めてくれた。
「何言ってんだ! デトズナーは犬じゃないぞ!! ウィルット! デトズナーを戻せ!! 今すぐにだ!!」
けれど、ウィルットはあっさりそっぽを向く。
「嫌。君だって、さっき抱っこしたがってたじゃん」
「そ、それは……」
言い淀むフィッイに、ウィルットが、にいーっと笑って詰め寄っていく。
「可愛いと思うんだよねー? このままじゃ、デトズナー君、遠いところにいっちゃうんだよー? いいのー?」
「そ、それは……」
「本当は飼いたいくせにー」
「俺がそんなこと考えるわけねえだろ!! 邪竜がっ!! 寄るな!!」
「でも、可愛いと思うんだよね?」
「それは……」
言葉を切って黙り込むフィッイ。
まさか……フィッイまで!?
全員俺を犬にして飼う気か!? こんなの嘘だ!!
「フィッイ……」
「ち、ちがっ……違うっ! デトズナー! 俺は……ただ、ちょっと……柴犬のお前可愛いって思っただけで……」
「フォローになんねえよ! 馬鹿!!」
なんだそれ!! どいつもこいつも俺を犬扱いしやがって!!
ファンデッルの腕の中で暴れていたら、乱暴に別の手が俺を奪い去った。
人の姿になったティーイラットだ。
「……ティーイラット? ……っ!」
急に、体が熱くなって、俺の体が黒い霧のようなものに包まれた。目を開ければ、俺は元の姿に戻って、犬の時と同じように、ティーイラットに抱きしめられていた。
背中に回った手で、包むように抱きしめられて、俺の頬がそいつの胸板にあたってる。体温を感じ取れるくらいティーイラットがそばにいて、焦る俺。
だけどティーイラットは俺を離さず、リビングの一同に鋭い目を向ける。まるで、威嚇しているみたいだった。
「……これは………………俺のですっ!!」
そいつは俺の手を握って、強引に引っ張っていく。突然のことで、どうしていいか分からず、されるがままについていく俺。
「お、おいっ……ティーイラット!?」
振り向かないティーイラットの後を、部屋に残されたファンデッル、副所長、フィッイ、ウィルットが追ってきた。
「副所長! あいつ、独り占めする気です!!」
「ティーイラットー! 返してー!!」
「デトズナー!! 違うっ! 俺はっ……!!」
「狼が柴犬連れていったーー!!」
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