上 下
92 / 113

92.これから

しおりを挟む

 集まった奴らは、普段行けない辺りまで回って砂をかき集めてくれた。何しろ、今回は魔物は対策所の奴らに任せて砂取り放題だ。チャンスとばかりに集まった奴らは、副所長も驚くほどの人数で、廃墟街に溜まっていた砂は、すっかり姿を消した。

 見上げれば、魔物もいなくなった空に、太陽が出ている。一晩中砂を集めて、さすがに疲れた。

 フィッイたちは朝食を買いに行き、俺は車の外で、ホットコーヒー飲みながら、ボーッと空を見上げていた。

 すると、上機嫌の男が、パンパンに詰まった袋を担いで、俺に話しかけてくる。

「よう、デトズナー。珍しく集まってんじゃねえか」

 俺の会社の奴ではないが、砂集めしているとたまに見かける奴だ。多分、ウオリヴが声をかけて集まったんだろう。

「珍しいな。ここが晴れるなんて」

 言いながら、そいつは砂が詰まった袋を、仲間のトラックに積み込んでいる。荷台はすでに砂の袋でいっぱいだ。かなりの収穫だったらしい。

「じゃあな。またこんなことあれば、俺を呼べ」
「…………こんなこと、そう何回もあってたまるか……」
「何言ってんだ。砂が集まるんだぞ! 絶対呼べよ!!」
「わかったわかった」
「それと、空で魔物狩ってた奴ら。お前の知り合いなんだろ? 会ったら、礼言っといてくれ。あいつらのおかげで、砂が集まった!」
「砂かよ! 街を助けたことじゃねえのか!?」
「砂だ! これで今日は豪華に飲める! じゃあなー!!」

 そいつは手を振りながら車に乗り込んで、大通りを去っていく。

 対策所の奴らがこうして感謝されると、俺まで嬉しい。

 手を振って、俺も自分が集めたものに振り向いた。
 大きな袋が五つ。他に、すでに会社の方に運んだぶんも合わせれば、俺が集めた砂は、これまでで一番多い。その上、かなり力も持っている。こんな時じゃないと、こんなもん、絶対に集まらなかっただろう。これだけあれば、かなりの金になる。目標額、達成だ。

「これだけあれば……首都へいけそうだな」

 空を見上げて呟いていたら、サンドイッチを買ったフィッイが戻ってくる。混乱の中にあった町も、夜が明ける頃には、いつもの街に戻り始めていた。とりあえず、この街はもうしばらく、この街のままでいられるようだ。







 寮に帰ると、俺たちを出迎えた副所長はよくやってくれたって言って、それだけで、作戦は成功したって分かった。

 リビングに通された俺とフィッイに、副所長はコーヒーを入れてくれる。

「よくやってくれたよ……君たちのおかげで、砂は回収された。魔物も、全部砂に帰ったよ」
「……力を吸う奴はいなかったのか?」

 俺が、ずっと心配していたことを聞くと、副所長はうなずいた。

「うん。全部、砂が暴走しただけだ。それでも、永遠に砂で力を補給されたら、抑え切れなかったかもしれない。デトズナー君の案を聞いた時は、うまく行くとは思えなかったけど……感謝してるよ」
「……存分に感謝しとけ」

 なんだか照れ臭い。そんな風に、手放しで褒めるとは思わなかったから。

 だいたい、俺たちより、空を飛び交う数多の魔物を破壊していたここの奴らの方が、よほど魔力を使ったはずだ。

 ソファの上では、ファンデッルが寝込んでぐったりしている。

「副所長。あまりそいつを褒めないでください。図に乗ります」
「てめえ! 誰が図に乗るだって!?」

 言い返すけど、そいつはよほど辛いのか、ソファから起き上がらずに、俺から顔をそらす。

 そんなに弱ってる姿を見ると、心配になる。こいつだって、テュオトのビルの地下では、俺らをずっと守ってくれたんだ。その後で町中に散った魔物狩りしてるんだから、動けなくもなるだろう。

 俺はそいつに、コーヒーを持って行った。普段喧嘩しかしないこいつが相手だと、照れ臭さも一入だ。

「……ほら。コーヒー」
「耳と尻尾は?」
「……ほらよ」

 こいつ、相変わらず俺が耳と尻尾つけてねえと態度が最悪だ。だがまあ、今日くらいはサービスしてやろう。犬扱いは気に食わないが。

 渋々魔法をかけると、そいつは早速笑顔になる。

「ありがとう。クリスティーナ」
「だから、クリスティーナじゃねえって」

 こうやって答えんのも、いつものことだ。こいつにも、絡まれたり絡んだりしたが、それにも慣れてしまった。

 するとそいつは、ソファでコーヒーを飲みながら、こっちに全く振り向かずに、ボソッと、聞こえるか聞こえないかくらいの声で言った。

「お前が下で、俺たちが逃した魔物を破壊するのを見ていた……」
「……あ? なんだよ。文句あんのか?」
「……少しは使えるようになったじゃないか……砂の力も…………」
「え……」

 どうしたんだ。こいつがこんなこと言うなんて。

 しかも今、ほんの少しだけそれを素直に喜んでしまった。

 俺の勘も、鈍ったのかもしれない。何が来たって、いつだってすぐに応戦できるように構えていたはずなのに。

「……あれなら、試験も受かるかもな」
「か、かもってなんだ!! 受かるに決まってるだろ!! 俺が落ちるわけねえんだ!!」
「……随分な自信で言っているが、お前、一番先に、この町で筆記試験があるんだぞ。お前は砂の力は多少使えるようになったとは言え、そんなものは前例がない。魔力がほとんどないと言うだけで、かなり減点される。分かっているのか?」
「…………当然だ。バーカ……そのための対策だって、考えたんだよ。俺だって、今度は……マジだからな……」
「…………デトズナー?」

 珍しく名前を呼んで、俺を見上げるファンデッル。俺にだって、わかってる。このままじゃ、俺が試験に受かることって、ないんだろう。

 俺にはほとんど魔力がない。それでも、この砂の力で、対策所の一員としてやっていけることを示すには、試験の前に、実績を作るしかないんだ。

 大事なことを考えていたのに、ソファで寝ていたウィルットが、あくびをして目を覚ましてしまう。

「デトズナー。おやつー」
「あ? うるせーな……」

 ウィルットの横に、サファイアとフレイムまで飛び乗って来て、俺に向かってきゃんきゃん吠え始める。加勢でもしてるみたいだ。すっかりウィルットに懐いてる。真ん中にいるウィルットは、まるでボスだ。

「わかったよ……」

 渋々、俺がダイニングテーブルに置きっぱなしだったお菓子を差し出すと、みんな嬉しそうに食べ始める。だけど、ウィルットだけは食べずに、俺を見上げて言った。

「……砂、いっぱい集めてたね」
「あ? だからなんだよ……」
「お金、稼げたんじゃない? どうするの? あれ」
「……首都に行く」

 答えたら、ソファにいたファンデッルも、俺に振り向いた。
 なぜかサファイアたちまで静かになって、俺を見上げている。

 金を貯めて、その金で首都へ行く。そこで実績を積んで試験に挑む。砂を集めている間、俺が考えていた計画だ。俺みたいに力のないやつが、本気で対策所を目指すなら、それしかないんだろう。

「このままだと落ちること、俺だってわかってる。俺みたいに力の使えない人族だと、魔物とも戦えない。このままだと、筆記試験どころか、書類の時点で落ちる。だが、俺は本気だ。向こうへ行って、先に向こうで手柄をあげる。それしかないんだろ?」

 振り向いたら、キッチンでずっと、書類を書いてくれていた副所長が、顔を上げた。

「わかって来たね……ちょっと前までただの無鉄砲だったのに」
「俺は今も昔もちゃんと考えてるよ!」
「……そんな計画立ててたんだ……上から見てたら、死ぬ気で集めてるなーって思ってたけど……」
「お前ら、上から俺のこと、そんなに見てたのか!?」

 聞くと副所長は、相変わらずの笑顔で「え? そうだけど、何が問題なの?」って言うし、ファンデッルの方は、開き直って「監視してやっただけだ」って言い出した。

「やっぱ見てたんだな! どうりで上からしょっちゅうなんか降ってくると思った!」

 怒鳴る俺に、ウィルットがやけに恩着せがましく言う。

「デトズナーくん、危なっかしいんだもん。後ろに気をつけたほうがいいよ。突っ込んでいくのは得意だけど、不意打ちに弱いみたいだから」
「うるせーよ!! 余計なことすんな!! バーカ!!」

 くっそ! 結構やれたと思ってたのに、こいつらの過保護付きかよ!! 首都に行ってもやれそうだって思ってたのに!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる

佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます 「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」 なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。 彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。 私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。 それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。 そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。 ただ。 婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。 切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。 彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。 「どうか、私と結婚してください」 「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」 私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。 彼のことはよく知っている。 彼もまた、私のことをよく知っている。 でも彼は『それ』が私だとは知らない。 まったくの別人に見えているはずなのだから。 なのに、何故私にプロポーズを? しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。 どういうこと? ============ 番外編は思いついたら追加していく予定です。 <レジーナ公式サイト番外編> 「番外編 相変わらずな日常」 レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。 いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。   ※転載・複写はお断りいたします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

すきなひとの すきなひと と

迷空哀路
BL
僕は恐らく三上くんのことが好きなのだろう。 その三上くんには最近彼女ができた。 キラキラしている彼だけど、内に秘めているものは、そんなものばかりではないと思う。 僕はそんな彼の中身が見たくて、迷惑メールを送ってみた。 彼と彼と僕と彼女の間で絡まる三角()関係の物語

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...