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83.気にすんな!

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 フィッイは、砂嵐の向こうに、微かに見える扉を指差した。それは開けっぱなしになっていて、周りに砂が積もり、ドアが半分くらい埋まってしまっている。

「あの向こうに、砂の力が溜まっている……このままだと爆発するっ……あいつら、ここにためた砂の力で、この街もろとも吹っ飛ばすつもりだ」
「はあーーー!? 無茶苦茶だろ!!」

 驚いて俺は叫ぶけど、フィッイは悲痛な顔で続けた。

「ここに街がなかった方が、奴らにしてみれば砂の力を独占できるっ……!! もしもここが魔物の巣になれば、政府の連中も、兄貴に頼らざるを得なくなる。砂の力だけでも厄介なのに、魔物まで集まってきたところへ、わざわざ派遣されてやるのは兄貴くらいだ」
「ちっ……! 狂ってやがる!! あ、わ、悪い……」
「……気にすんな……兄貴はずっと、ああだったんだ……そんな兄貴に頼った俺も俺だけどな」

 自嘲気味に笑うフィッイを見たら、俺まで苦しくなりそうだった。こんなことになって、一番辛いのはこいつだろう。世話焼きだし、どうしようもない奴でも見捨てられないの、俺が一番よく知っている。

「……俺のためにやったんだろーが……バーカ……俺なら自分で何とかするっつっただろ…………バーカ」
「二度も馬鹿っつってんじゃねーぞ!! お前が普段からどうしようもない馬鹿だから俺が苦労すんだよ!!」
「…………悪かったと思ってるし……お前には感謝してるよ……」

 そいつが今まで俺にしてくれたことを思い出して、そいつを引き寄せる。気づけば俺はフィッイのことを抱きしめていた。もう一回、こうやって口喧嘩ができて、本当によかった。

 だけど、俺がこんなことするのは初めてで、フィッイは相当びっくりしたようだ。

「お、おい……何すんだよっ!!」
「うるせーよ。どんだけ心配したと思ってんだ!!」
「それはこっちのセリフだ! この馬鹿っ!! どうしようもない馬鹿!!」
「てめえ何回バカって言ってんだ!! いちいち世話焼くな!! 心配すんなよ!! 対策所でも……うまくやってっから!!」
「……お前が? 三歩歩いたら喧嘩売るお前が?」
「そんなに売ってねーよ!!」
「売ってるから俺が苦労してんの!!」

 やっぱり言い合いになる俺たち。

 後ろから、呆れたようにファンデッルが言った。

「クリスティーナ。再会を喜ぶのは、無事にここを抑えてからにしろ。砂の力が爆発するぞ」

 こいつにしてみれば、俺を犬扱いすることはいつものことなんだが、突然全く違う名前で俺が呼ばれているのを見て、フィッイは首を傾げる。

「……クリスティーナ?」
「あ……いや……な、何でもねーよ!! 気にすんな!!」
「……」

 フィッイ、すごく疑っている顔でファンデッルを睨んでる。ファンデッルは、そんなものに動じるような可愛い奴ではないが。

 今度はティーイラットが、背後からパクッと俺の服を咥える。

「あ、ああ……おい! 咥えるなって!! いつも言ってるだろ!!」

 叫ぶ俺を、ティーイラットは離してくれた。

「背中に乗れ。魔物も、フィッイも見つかった。これから砂の力を抑えながら、外へ出る」
「だったらそう言えよ!」

 こんなやりとりもいつものこと。だけど、体高だけで俺の二倍以上ある狼が、俺の服を咥えるのを初めて見たフィッイは、相当驚いたようだ。

「お、おいっ……! やめろ!! デトズナーは餌じゃねえぞ!!」
「待てよ! フィッイ!! ティーイラットはそんなことしねえ。こいつも対策所の奴だ!」
「……狼が? 何の種族だ?」
「あ、あー……まあ、そのことに関しては後で話すよ。だから、心配すんな!」
「……心配しかねえよ……馬鹿……」

 フィッイがティーイラットを見上げると、その背中から、ウィルットが顔を出した。

「ねー。急ごうよーー。地下の砂が爆発しても知らないよー」
「今行く。フィッイ、お前も乗れよ」

 俺はティーイラットに飛び乗って、フィッイに向かって手を伸ばした。
 だけどフィッイは、突然狼の背中から顔を出したチワワが、俺に向かって話すのを見て、不思議そうな顔をする。

「何でチワワが……」
「僕、デトズナーに一番可愛がられてる子犬だもーーん」

 ウィルットは胸を張って答える。誰がいつ、お前を一番可愛がったんだ。不満はあるが、今喧嘩するわけにもいかない。

 俺がもう一度フィッイを呼ぶと、そいつも、ティーイラットの背中に飛び乗った。

「だ、大丈夫か……? 思ったより揺れるぞ」
「慣れるって。こいよ。ウィルット」

 つい、いつもの調子でウィルットを呼んでしまった。突然出てきた指名手配犯の名前に、フィッイは目を丸くする。

「は……!? うぃ、ウィルット!?」
「い、いや、違うんだっ!! た、たまたま名前が同じだけだよ!」
「……お前、やっぱり帰ったほうがいいんじゃないか?」
「だ、大丈夫だって!!」
「……」

 まだ心配そうなフィッイを煽るように、ウィルットは俺に飛びついてくる。

「デトズナー! 抱っこ!!」
「お前を抱っこしてたら、敵が飛んできたとき応戦できねえだろーが!!」
「えー。いつも抱っこしてくれるじゃん。わんわん」
「うるせえよ!」

 すると、今度は俺たちを乗せているティーイラットが、やけに低い声で言った。

「ウィルット……貴様だけ降りろ」
「は? 嫌。なに? またやきもち? 僕がデトズナーに抱っこしてもらえるからって、妬かないでよ。うざー」
「降りろ!」

 怒り出したティーイラットは、何を思ったか、体を揺すり出す。こいつ、俺たちも乗ってること、忘れたのか!?

「おい!! ティーイラット!! や、やめろっ……! 落ちるっ……!」
「やっぱりお前っ……! 対策所やめた方がいいぞーー!!」

 叫ぶ俺とフィッイ。

 しがみついて何度か「やめろ」って言ったら、やっと冷静になったのか、ティーイラットは、すまんと言ってやめてくれた。
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