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62.本当にやってそうだ……
しおりを挟むテーブルを挟んで、俺たちはソファに座った。
俺、チワワのままのウィルット、人の姿に戻ったティーイラットが並んで座って、向かいのソファに副所長とファンデッル。
重たい空気の中、副所長は、ため息をついて口を開いた。
「それで、うちのちょっとダメな新人脅したのはなんで?」
「おい! ダメな新人って、俺のことか?」
即座に声を上げる俺。副所長は「ちょっとダメな新人には後で話を聞く」って言い出した。
こんなことになって、もちろん悪いと思っているが、ウィルットだけが責められるのは納得いかない。しかし、当のウィルットはまるで気にしていないようだ。いつも俺と話す時と全く変わらない様子で、副所長と話している。
「だって、心配だったんだよ。デトズナーには砂の力がある。魔物扱いされて、連れていかれるかもしれないじゃない?」
「……」
副所長が黙ってため息をつく。そいつに向かって、俺は立ち上がって言った。
「おい! 待てよ!! なんで俺が連れてかれるんだ!?」
「デトズナー君、君の話は後で聞くから」
再び副所長に、鋭い目を向けられて、俺は大人しく座った。
俺も、魔物を売り飛ばす奴らには会ったことがある。だけど、あいつらが俺を狙ったりするのか??
けれど副所長は、重い口調で口を開いた。
「まあ……そうだね。ウィルットの言うとおりなんだけど……だけど、だからって、見逃すわけにはいかないんだよ」
それを聞いて、俺は立ち上がった。
「待てよ!! こいつばっかり責めるのはおかしいだろ!! ウィルットは」
「ファンデッル。デトズナー君黙らせて」
ついに冷たく拘束を命令した副所長に応えて、ファンデッルが、俺にかけた魔法を発動する。すると、光る鎖が現れて、俺を縛り上げた。
「うわ!!」
全身ぐるぐる巻きにされたまま、ソファに転がる俺。もちろん、これで黙れるはずないし、それどころか闘志が湧く!
「おい! ファンデッル!! 今すぐ魔法解け! 副所長!! ずるいぞこれは!! 鎖を解けーーっっ!!」
「副所長!! これはあんまりです!!」
ティーイラットが、副所長に抗議の声を上げてくれて、それに加勢するようにサファイアとフレイムがキャンキャン鳴き始めて、ファンデッルが「黙れ! 副所長の話が先だ!」と俺たちを怒鳴りつけ、犬のままのウィルットまでもが面白がって吠えて、リビングはすごい騒ぎだ。
ついに、副所長はテーブルを殴りつけ、立ち上がった。
テーブルが破壊されそうな音がして、全員が黙り、動きを止める。ソファに転がったまま副所長に振り向いたら、副所長は今にも俺を殺しそうな顔をしていて、けれども口調だけは落ち着いた穏やかなもののまま、言った。
「静かに。まずはウィルットに話を聞く。デトズナー君の話はそれから。鎖は解いてあげるけど、次に口挟んだら口枷つけて吊るす。いいね?」
あまりの迫力に、すぐに頷いてしまいそうになるけど、それでも、先に聞いておきたいことがある。
「わ、分かった……だ、だけど、話の前に一つ……一つだけ教えてくれ!」
すると、副所長は、少し驚いたようだった。
「……君はすごく度胸があるね……いいよ。お仕置きは増やすけど、聞いてあげる。なに?」
「……こいつ……ウィルットは、一体何をしたんだ!? なんで、こいつが指名手配なんてされてるんだ!?」
「……話しただろ? 魔物を売り飛ばしてる」
「でもっ……こいつは、フレイムを助けることに協力してくれたんだ! 俺が連れて行かれた廃ビルでも……!! ウィルットがいなきゃ、フレイムだって俺だって、あの魔物どもに食われてたかもしれないっ……! そんな奴が、そんなことするのか!?」
「……魔物っていうのは、拘束した場合は、俺たちが魔物討伐機関に送って、そこから首都に送られることになってる。それを勝手に連れて行ったらダメだよ」
すると、テーブルの上のウィルットが、皮肉げに続けた。
「よく言うよー。お前らに魔物退治させてる討伐機関は、魔物を力の塊だと思ってる。それを使って、武器まで作ってるらしいじゃん。お前たちの雇い主だって、魔物を勝手に連れて行っていることには変わりないんじゃない?」
冗談のように言うウィルットだけど、副所長は否定しない。ウィルットの言ってること、本当なのか?
何も言いかえさない副所長に、ウィルットは微笑んだ。
「あの討伐機関とやらの上、首都にいる……魔物と砂の管理と力の担当機関だっけ?? あいつらになんとかするように言った方がいいんじゃない?」
「そんなの、俺がずっとやってる。君みたいなのがいるから、このまま竜族が魔物を兵器化するのを手をこまぬいて見てるのか、みたいな話になるんだよ!!」
「僕、魔物を武器になんかしないもん。竜族はそんなことに興味ない。売り物にもしてない。フレイムみたいなのは、向こうで力を安定させて、知り合いの竜たちにあげてる」
「……どんなものでも飼っちゃうからびっくりするよ……竜族は……」
睨みつけて言う副所長の言葉を笑い飛ばして、ウィルットはミルクのマグカップに前足を当てて、温度を確かめてる。
こいつ、チワワのくせに、魔物をペット化してるのか……
なんとなく、チワワのままのこいつが、水路で見た光の魔物に首輪つけてニコニコしてるところを想像してしまう。本当にやってそうで怖い……
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