上 下
62 / 113

62.本当にやってそうだ……

しおりを挟む

 テーブルを挟んで、俺たちはソファに座った。

 俺、チワワのままのウィルット、人の姿に戻ったティーイラットが並んで座って、向かいのソファに副所長とファンデッル。

 重たい空気の中、副所長は、ため息をついて口を開いた。

「それで、うちのちょっとダメな新人脅したのはなんで?」
「おい! ダメな新人って、俺のことか?」

 即座に声を上げる俺。副所長は「ちょっとダメな新人には後で話を聞く」って言い出した。

 こんなことになって、もちろん悪いと思っているが、ウィルットだけが責められるのは納得いかない。しかし、当のウィルットはまるで気にしていないようだ。いつも俺と話す時と全く変わらない様子で、副所長と話している。

「だって、心配だったんだよ。デトズナーには砂の力がある。魔物扱いされて、連れていかれるかもしれないじゃない?」
「……」

 副所長が黙ってため息をつく。そいつに向かって、俺は立ち上がって言った。

「おい! 待てよ!! なんで俺が連れてかれるんだ!?」
「デトズナー君、君の話は後で聞くから」

 再び副所長に、鋭い目を向けられて、俺は大人しく座った。

 俺も、魔物を売り飛ばす奴らには会ったことがある。だけど、あいつらが俺を狙ったりするのか??

 けれど副所長は、重い口調で口を開いた。

「まあ……そうだね。ウィルットの言うとおりなんだけど……だけど、だからって、見逃すわけにはいかないんだよ」

 それを聞いて、俺は立ち上がった。

「待てよ!! こいつばっかり責めるのはおかしいだろ!! ウィルットは」
「ファンデッル。デトズナー君黙らせて」

 ついに冷たく拘束を命令した副所長に応えて、ファンデッルが、俺にかけた魔法を発動する。すると、光る鎖が現れて、俺を縛り上げた。

「うわ!!」

 全身ぐるぐる巻きにされたまま、ソファに転がる俺。もちろん、これで黙れるはずないし、それどころか闘志が湧く!

「おい! ファンデッル!! 今すぐ魔法解け! 副所長!! ずるいぞこれは!! 鎖を解けーーっっ!!」
「副所長!! これはあんまりです!!」

 ティーイラットが、副所長に抗議の声を上げてくれて、それに加勢するようにサファイアとフレイムがキャンキャン鳴き始めて、ファンデッルが「黙れ! 副所長の話が先だ!」と俺たちを怒鳴りつけ、犬のままのウィルットまでもが面白がって吠えて、リビングはすごい騒ぎだ。

 ついに、副所長はテーブルを殴りつけ、立ち上がった。

 テーブルが破壊されそうな音がして、全員が黙り、動きを止める。ソファに転がったまま副所長に振り向いたら、副所長は今にも俺を殺しそうな顔をしていて、けれども口調だけは落ち着いた穏やかなもののまま、言った。

「静かに。まずはウィルットに話を聞く。デトズナー君の話はそれから。鎖は解いてあげるけど、次に口挟んだら口枷つけて吊るす。いいね?」

 あまりの迫力に、すぐに頷いてしまいそうになるけど、それでも、先に聞いておきたいことがある。

「わ、分かった……だ、だけど、話の前に一つ……一つだけ教えてくれ!」

 すると、副所長は、少し驚いたようだった。

「……君はすごく度胸があるね……いいよ。お仕置きは増やすけど、聞いてあげる。なに?」
「……こいつ……ウィルットは、一体何をしたんだ!? なんで、こいつが指名手配なんてされてるんだ!?」
「……話しただろ? 魔物を売り飛ばしてる」
「でもっ……こいつは、フレイムを助けることに協力してくれたんだ! 俺が連れて行かれた廃ビルでも……!! ウィルットがいなきゃ、フレイムだって俺だって、あの魔物どもに食われてたかもしれないっ……! そんな奴が、そんなことするのか!?」
「……魔物っていうのは、拘束した場合は、俺たちが魔物討伐機関に送って、そこから首都に送られることになってる。それを勝手に連れて行ったらダメだよ」

 すると、テーブルの上のウィルットが、皮肉げに続けた。

「よく言うよー。お前らに魔物退治させてる討伐機関は、魔物を力の塊だと思ってる。それを使って、武器まで作ってるらしいじゃん。お前たちの雇い主だって、魔物を勝手に連れて行っていることには変わりないんじゃない?」

 冗談のように言うウィルットだけど、副所長は否定しない。ウィルットの言ってること、本当なのか?

 何も言いかえさない副所長に、ウィルットは微笑んだ。

「あの討伐機関とやらの上、首都にいる……魔物と砂の管理と力の担当機関だっけ?? あいつらになんとかするように言った方がいいんじゃない?」
「そんなの、俺がずっとやってる。君みたいなのがいるから、このまま竜族が魔物を兵器化するのを手をこまぬいて見てるのか、みたいな話になるんだよ!!」
「僕、魔物を武器になんかしないもん。竜族はそんなことに興味ない。売り物にもしてない。フレイムみたいなのは、向こうで力を安定させて、知り合いの竜たちにあげてる」
「……どんなものでも飼っちゃうからびっくりするよ……竜族は……」

 睨みつけて言う副所長の言葉を笑い飛ばして、ウィルットはミルクのマグカップに前足を当てて、温度を確かめてる。

 こいつ、チワワのくせに、魔物をペット化してるのか……
 なんとなく、チワワのままのこいつが、水路で見た光の魔物に首輪つけてニコニコしてるところを想像してしまう。本当にやってそうで怖い……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

近親相姦メス堕ちショタ調教 家庭内性教育

オロテンH太郎
BL
これから私は、父親として最低なことをする。 息子の蓮人はもう部屋でまどろんでいるだろう。 思えば私は妻と離婚してからというもの、この時をずっと待っていたのかもしれない。 ひそかに息子へ劣情を向けていた父はとうとう我慢できなくなってしまい…… おそらく地雷原ですので、合わないと思いましたらそっとブラウザバックをよろしくお願いします。

僕は社長の奴隷秘書♡

ビビアン
BL
性奴隷――それは、専門の養成機関で高度な教育を受けた、政府公認のセックスワーカー。 性奴隷養成学園男子部出身の青年、浅倉涼は、とある企業の社長秘書として働いている。名目上は秘書課所属だけれど、主な仕事はもちろんセックス。ご主人様である高宮社長を始めとして、会議室で応接室で、社員や取引先に誠心誠意えっちなご奉仕活動をする。それが浅倉の存在意義だ。 これは、母校の教材用に、性奴隷浅倉涼のとある一日をあらゆる角度から撮影した貴重な映像記録である―― ※日本っぽい架空の国が舞台 ※♡喘ぎ注意 ※短編。ラストまで予約投稿済み

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

猫が崇拝される人間の世界で猫獣人の俺って…

えの
BL
森の中に住む猫獣人ミルル。朝起きると知らない森の中に変わっていた。はて?でも気にしない!!のほほんと過ごしていると1人の少年に出会い…。中途半端かもしれませんが一応完結です。妊娠という言葉が出てきますが、妊娠はしません。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

【R18】奴隷に堕ちた騎士

蒼い月
BL
気持ちはR25くらい。妖精族の騎士の美青年が①野盗に捕らえられて調教され②闇オークションにかけられて輪姦され③落札したご主人様に毎日めちゃくちゃに犯され④奴隷品評会で他の奴隷たちの特殊プレイを尻目に乱交し⑤縁あって一緒に自由の身になった両性具有の奴隷少年とよしよし百合セックスをしながらそっと暮らす話。9割は愛のないスケベですが、1割は救済用ラブ。サブヒロインは主人公とくっ付くまで大分可哀想な感じなので、地雷の気配を感じた方は読み飛ばしてください。 ※主人公は9割突っ込まれてアンアン言わされる側ですが、終盤1割は突っ込む側なので、攻守逆転が苦手な方はご注意ください。 誤字報告は近況ボードにお願いします。無理やり何となくハピエンですが、不幸な方が抜けたり萌えたりする方は3章くらいまでをおススメします。 ※無事に完結しました!

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...