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53.早く行くぞ!

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 ファンデッルたちとはそこで別れ、俺とティーイラットは、誰もいない街で、魔物を探し始めた。

 だけど、街には人の気配がないし、魔物なんて、影も形もない。空き家ばかりが並んで、砂があちこちに積もっている。砂は、ほとんど力のないもののようで、さすがにこんなものを集めにくる奴はいないのか、あちこち砂が積もり放題になっていた。

 地図を見たら、副所長が目撃証言があったって言ってたのは、だいたいこの辺りみたいだけど、魔物なんて、どこにいるんだ?

 魔物の気配を探して、緊張しながら歩く俺だけど、俺たちについて歩く犬たちは楽しそうだ。フレイムは、散歩のつもりなのか、俺たちの周りを駆け回っている。ファンデッルは、自分が連れて行きたそうにしていたが、地下の逃げ場のないところで襲われたら、フレイムが砂の力に反応して暴走するかもしれないらしい。

 ウィルットの犬も俺たちといる。ファンデッルと副所長の方について行って、正体がバレるよりはいいと思ったが、ずーっとキャンキャン鳴いて尻尾を振っている様子を見ていると、からかわれているような気になってくる。

 あのクソ犬……精一杯尻尾振って可愛い子犬のふりしやがって!!

 ウィルットの犬が何をするかわからず、それを警戒しながら、空き家だらけの街を歩く。隣には、久しぶりに人の姿をしたティーイラット。こいつのこの姿、ずっと見てなかったな……犬じゃないこいつといるのは、久しぶりだ。なんだか緊張する。犬姿のこいつとは、長く一緒にいたし、昨日は一緒にファンデッルの部屋に忍び込んだりもしてるのに。さっきも、犬の姿でじゃれつかれていたのに。

 ……さっきのことを思い出したら、こいつの顔を見ているのが気まずくなってきた。それなのに、そいつも俺に振り向いてしまう。

「……デトズナー? どうした?」
「は!? い、いや……な、なんでもねえよ……それより、魔物探すぞ!」
「……ああ」

 俺が立ち止まって地図を広げていたら、そいつはいつもの大きな狼の姿に戻って、地図を見下ろした。

「ど、どうしたんだよ?」
「こっちの姿の方が、力を感じやすい」
「そうか……分かるか? 魔物がいる場所」
「……いいや……この辺りにいそうなんだが……」
「この辺りって言っても……いないぞ?」
「そうだな……」
「なあ……そもそも、あんな光ってる奴がいたら、すぐ見つかるんじゃねえか? 本当に、こんなところにいるのか? やっぱり地下くらいしか、隠れられそうなところ、ないと思うぞ」
「そうかもしれないが、この辺りで、あの光る魔物を見たという通報があったんだ。無視はできない」

 地図を見ながら、ティーイラットも戸惑っているようだ。二人で話していたら、背後から「わん!!」と大きな鳴き声がして、めちゃくちゃびっくりした。

 振り向くと、俺の後ろにはウィルットの犬がちょこんと座って尻尾振ってる。何やってんだこの犬!

「何すんだこのバカ犬!!」
「腹でも減ってるんじゃないか?」

 そう言って、ティーイラットが、俺のポケットから器用にお菓子の袋を取りだす。ファンデッルから預かったものだ。

 袋からお菓子を出して差し出すと、ウィルットはキャンキャン鳴きながら、それをくわえた。フレイムまで寄って来て、すっかりおやつの時間になってしまう。相変わらず、ウィルットは犬のふりがうまいな……

 だけど、可愛く尻尾を振ってお菓子を食べていたかと思えば、突然飛びかかってくる。

「わ! うわ!! 何すんだ!!」

 びっくりして尻餅をつく俺に、さらにそいつはじゃれついてくる。なんなんだこいつは!!

「やめろって……! 離れろよ!!」

 キャンキャン鳴いているそいつの体が、急に浮き上がったかと思えば、ティーイラットが、そいつの首根っこを咥えて俺から引き離してくれていた。邪魔をされて、うーうー唸っているウィルットを、少し離れたところに下ろしてから、ティーイラットは俺に向き直る。そして、じーっと俺を見下ろした。

 どうしたんだ? 何かあったのか? も、もしかして……ウィルットのこと、バレたのか!?

「……デトズナー」
「な、なんだっ……!? どうした!?」
「……俺にもくれないか……?」
「へ!? く、くれ!? な、な、何をだよ!?」
「……お菓子だ」
「あ! ああ……菓子のことか……」

 なんだ……びっくりした。

 袋に手を突っ込んで、お菓子を一つ出してやると、そいつは嬉しそうに尻尾を振りながら、俺の手の上の菓子をくわえてる。

 ……人に戻って自分で食えばいいのに……だけど、嬉しそうだから、いいか……

 ティーイラットにお菓子をあげていたら、ウィルットがキャンキャン鳴き出して、また唸り合いになる。なんで毎回こうなるんだ。

「おい……やめろよ。何してるんだ。魔物探すんだろ?」

 俺が止めても、ティーイラットもウィルットも、全然止める気配がない。どうしたんだよ……こいつら。なんでしょっちゅう睨み合うんだ。

 ……あんまり見られたら、ウィルットのこと、バレるんじゃないか!?

 慌てた俺は、ウィルットを抱っこして、走り出した。

「は、早く魔物探そう! 先行くぞーー!!」
「おい! 待て、デトズナー!!」

 ティーイラットもすぐに追ってくる。そいつに見られている気がして、俺はウィルットを抱きしめて隠しながら走った。
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