上 下
48 / 113

48.見てろよ!

しおりを挟む

 食事を続けながら今日の仕事のことを話していたら、リビングのドアが開いて、ティーイラットが入って来た。あいつ、またリビングのドアをギリギリ通れるくらいの大きな狼になってる。朝は本当に苦手らしい。

「……おはようございます…………」
「相変わらず朝弱いねー。ティーイラット」

 副所長に言われて、ティーイラットは少し恥ずかしそうに「すみません……」と言って、テーブルの端に座り込む。

 俺は、皿に食事を全部盛って、彼のところへ持って行った。

「そのまま食べるか?」
「ああ……眠い……………………」

 そう言ってあくびをするそいつの横に、ちゃっかりウィルットが並んでいる。尻尾を振って物欲しそうに俺を見上げ、いかにも朝ご飯までですよーといった感じのアピールをしているが、こいつは既に、ファンデッルから朝食をもらっている。

 さっと無視して、水だけ用意していたら、フレイムが俺の周りで尻尾を振り出した。遊んで欲しいのか?

 すると、それを見ていたファンデッルが立ち上がって、俺にお菓子が入った袋を渡してきた。これ、前にティーイラットが寝ぼけた時に投げてたお菓子じゃないか。

「なんだこれ?」
「砂の力がこもったお菓子だ」
「……砂が入ってるのか?」
「そんなものを食べる馬鹿はお前だけだ」
「なんだと!?」
「これは、力だけを抽出したもので、フレイムは特に、まだ体が安定していない。こういうものがあった方が彼らも安心する。食べさせてやれ」
「……分かった……」

 なんなんだ、いきなり。いつも、犬たちのごはんはこいつが用意しているのに。

 ファンデッルから袋を受け取って、中の菓子を一つ、フレイムの前に差し出すと、そいつはそれをパクッと咥えて嬉しそう。隣でティーイラットまで尻尾を振り出して、彼にも渡していたら、ファンデッルがジーーっとこっちを見ているのに気づいた。

「……なんだよ?」
「……普段ギャンギャン吠える子犬も、こうして戯れていると可愛いと思っただけだ」
「……子犬?」

 サファイアかフレイムか?
 だけど、ファンデッルはジーーっと俺を見つめている。

 こいつ……子犬ってまさか俺のことか? 普段ギャンギャン吠えるってなんだよ!! やっぱりこいつ、俺を犬扱いしてやがる!!
 ずっと耳と尻尾がついたままだが、これは自分の身を守るためであって、こんな奴に犬扱いされるためじゃねえ!

「おい!! 俺は犬じゃねえぞ!」

 そう怒鳴っても、ファンデッルは無視して犬たちを見るのと同じ目を俺にまで向けてくる。このままだと、いつか完全に飼い犬扱いされる!

「聞いてんのか!! 俺まで飼い犬扱いしてんじゃねえぞ!!」
「安心しろ。飼い犬ではなく、ちょっと馬鹿な犬だと思っているだけだ」
「なんだと!!」

 早速また喧嘩になりそうだったが、その危ない空気を叩き潰すように、副所長が、パンパンと手を叩いた。

「はい。やめてー。昨日喧嘩するなって言ったよー?」
「……」
「……」

 その一言で、俺もファンデッルも、素直に無言で喧嘩をやめて、双方離れる。昨日、怖かったからな……

 副所長はそれを見て満足したのか頷いて、テーブルに地図を広げ、それをペンでコンコン指しながら言った。

「この前、水路で君たちが見つけた光の魔物だけど、この辺りの水路から光が漏れているのを突き止めた。おそらく、砂の力が溢れて、そこで魔物化したんだろう。ここを抑えれば、ここ最近の魔物の連続出没も止まるかもしれない。ただ……ここから少し離れたあたりにも、力の強い魔物が多く出てきている。その辺りの調査もしておきたい。向こうに着いたら、二手に別れる。魔物が発見されたあたりへ向かうグループと、光が強いあたりへ行くグループ。食べたら出発だよ」

 彼がそう言うと、ファンデッルとティーイラットが、はい! と返事をして、俺も慌てて返事をした。

 この前は失敗した。今度こそやり遂げてやる!!

「それと、デトズナー君。君にはこれ」

 副所長は、俺に小さな瓶を差し出した。中には砂が入っている。

「君には魔力がほとんどないらしいね」
「ああ……そうだよ。なんだよ、今更。知ってるだろーが!」
「そう喧嘩腰にならないで。力、使えるようになりたい?」
「なんだよ。なりたいって言ったらできるようにしてくれんのか?」
「俺にそんな真似は無理だよ。一朝一夕で手に入るものじゃない。だけど、鍛えることはできる。君には魔力はほとんどない。これはどうしようもないけど、代わりに君の魔力は、この辺りの砂の力と相性がいいらしい。うまく訓練すれば、砂の力を操ることができるようになるかもしれない」
「砂の力を!? そんなこと、できんのか!!??」
「うん。君は魔力はないけど、それを使って砂の力を使役すれば、魔力よりずっと規模の大きなことができるかもしれない。あくまで、仮定……想像の話だけど。やってみる?」
「やる!!」
「即答? 本当にできるかわかんないよ?」
「でも、できるかもしれないんだろ!? それならやりたい!! 教えてくれ!!」

 すると副所長は、俺に渡した砂を指差した。

「それは、砂と俺の魔力を使って扱いやすくしてある。瓶の蓋を開けて中の砂を投げてごらん」
「え……? こうか?」

 言われたとおり砂を取り出し投げてみると、砂は空中でクルンと回って集まって、小さなボールになる。昨日ファンデッルが、後ろから俺にぶつけたやつに似てる。

 俺のそばに落ちたそれを見て、副所長は首を横に振った。

「そうじゃない。できるだけ遠くに。多分最初はほとんど飛ばないけど、何度も続けるうちに、自然と砂の力と魔力を使って、遠くに投げられるようになるから」
「こんなもんでか? 信じらんねえけど……」

 今度は、思いっきり遠くにやるつもりで投げてみる。だけどボールはすぐに床に落ちてポンと跳ねて転がっていき、崩れて元の砂に戻ってしまう。

 それを追って行ったフレイムが、崩れた砂をつついていた。

 ぜ、全然飛ばない……これが今の俺の力なのか?

 肩を落とす俺だけど、副所長は微笑んで言った。

「最初にしてはよくやったよ。普段砂を扱っていたから慣れてるみたいだね」
「……これで本当に、うまくいってるのか?」
「もちろん。正直、全く動かないんじゃないかと思ってたから。空き時間に練習するといい。ただ、怪我が治ったばかりだから、無理は禁物だよ?」
「ああ……分かった……」

 返事をする俺に向かって、フレイムがボールを咥えて戻ってくる。さっき俺が投げたときはすぐに砂に戻ったのに、フレイムがくわえたそれを受け取ると、俺が握った時より少し硬くて大きなボールになってる。これも、フレイムの方が俺より力を使うのがうまいからか? 何だか悔しい。

「やるか」

 フレイムに向かってボールを見せると、そいつは可愛らしく鳴いて返事をする。

 思いっきり投げたら、さっきより少し遠くに行った気がする。うまくなれば、俺もティーイラットたちと肩を並べられるかもしれない。そう思うと元気が出た。 

 俺はボールを握って副所長に振り向いた。

「よし……見てろよ! そのうち俺がここのトップになってやるからな!!」
「うん。まずは、試験、頑張ってね。俺も応援する」
「な、なんだよ……この前は俺には絶対無理みたいなこと言ってたくせに……」
「うん。絶対無理だし無駄だと思ってた。でも、頑張ってるみたいだから。少しはできるような気がしてきた」

 なんだそれ……結局馬鹿にしてないか? ファンデッルが「副所長! ますますバカが調子に乗るのでやめてください!」って大声で抗議してる。

 俺だって、馬鹿にされてムカつくはずなのに、なんとなく、怒る気にならない。

「す、少しはってなんだよ……これで力つけたら俺の方がそのチビより強くなるし、俺が試験受かって、ここに就職して偉くなったら、お前らみんな俺の下で働くんだからな!!」

 思いっきり指差して言ってやると、副所長はどこか楽しそうに笑って、俺の頭に手を置いた。

「うん。頑張ってね」
「な、なんだよ! やっぱり馬鹿にしてるな!!」
「してない。もうすぐ出発だから。後片付けしておいてね」
「片付けも飯係の仕事なのか?」
「うん。もちろん」

 マジかー……めんどくせぇ。そんなことより、ボールの特訓をしたい。

「ちっ………………だったら、皿洗いながらボール投げてやる!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる

佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます 「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」 なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。 彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。 私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。 それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。 そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。 ただ。 婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。 切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。 彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。 「どうか、私と結婚してください」 「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」 私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。 彼のことはよく知っている。 彼もまた、私のことをよく知っている。 でも彼は『それ』が私だとは知らない。 まったくの別人に見えているはずなのだから。 なのに、何故私にプロポーズを? しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。 どういうこと? ============ 番外編は思いついたら追加していく予定です。 <レジーナ公式サイト番外編> 「番外編 相変わらずな日常」 レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。 いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。   ※転載・複写はお断りいたします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

神竜に丸呑みされたオッサン、生きるために竜肉食べてたらリザードマンになってた

空松蓮司
ファンタジー
A級パーティに荷物持ちとして参加していたオッサン、ダンザはある日パーティのリーダーであるザイロスに囮にされ、神竜に丸呑みされる。 神竜の中は食料も水も何もない。あるのは薄ピンク色の壁……神竜の肉壁だけだ。だからダンザは肉壁から剝ぎ取った神竜の肉で腹を満たし、剥ぎ取る際に噴き出してきた神竜の血で喉を潤した。そうやって神竜の中で過ごすこと189日……彼の体はリザードマンになっていた。 しかもどうやらただのリザードマンではないらしく、その鱗は神竜の鱗、その血液は神竜の血液、その眼は神竜の眼と同等のモノになっていた。ダンザは異形の体に戸惑いつつも、幼き頃から欲していた『強さ』を手に入れたことを喜び、それを正しく使おうと誓った。 さぁ始めよう。ずっと憧れていた英雄譚を。 ……主人公はリザードマンだけどね。

処理中です...