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48.見てろよ!
しおりを挟む食事を続けながら今日の仕事のことを話していたら、リビングのドアが開いて、ティーイラットが入って来た。あいつ、またリビングのドアをギリギリ通れるくらいの大きな狼になってる。朝は本当に苦手らしい。
「……おはようございます…………」
「相変わらず朝弱いねー。ティーイラット」
副所長に言われて、ティーイラットは少し恥ずかしそうに「すみません……」と言って、テーブルの端に座り込む。
俺は、皿に食事を全部盛って、彼のところへ持って行った。
「そのまま食べるか?」
「ああ……眠い……………………」
そう言ってあくびをするそいつの横に、ちゃっかりウィルットが並んでいる。尻尾を振って物欲しそうに俺を見上げ、いかにも朝ご飯までですよーといった感じのアピールをしているが、こいつは既に、ファンデッルから朝食をもらっている。
さっと無視して、水だけ用意していたら、フレイムが俺の周りで尻尾を振り出した。遊んで欲しいのか?
すると、それを見ていたファンデッルが立ち上がって、俺にお菓子が入った袋を渡してきた。これ、前にティーイラットが寝ぼけた時に投げてたお菓子じゃないか。
「なんだこれ?」
「砂の力がこもったお菓子だ」
「……砂が入ってるのか?」
「そんなものを食べる馬鹿はお前だけだ」
「なんだと!?」
「これは、力だけを抽出したもので、フレイムは特に、まだ体が安定していない。こういうものがあった方が彼らも安心する。食べさせてやれ」
「……分かった……」
なんなんだ、いきなり。いつも、犬たちのごはんはこいつが用意しているのに。
ファンデッルから袋を受け取って、中の菓子を一つ、フレイムの前に差し出すと、そいつはそれをパクッと咥えて嬉しそう。隣でティーイラットまで尻尾を振り出して、彼にも渡していたら、ファンデッルがジーーっとこっちを見ているのに気づいた。
「……なんだよ?」
「……普段ギャンギャン吠える子犬も、こうして戯れていると可愛いと思っただけだ」
「……子犬?」
サファイアかフレイムか?
だけど、ファンデッルはジーーっと俺を見つめている。
こいつ……子犬ってまさか俺のことか? 普段ギャンギャン吠えるってなんだよ!! やっぱりこいつ、俺を犬扱いしてやがる!!
ずっと耳と尻尾がついたままだが、これは自分の身を守るためであって、こんな奴に犬扱いされるためじゃねえ!
「おい!! 俺は犬じゃねえぞ!」
そう怒鳴っても、ファンデッルは無視して犬たちを見るのと同じ目を俺にまで向けてくる。このままだと、いつか完全に飼い犬扱いされる!
「聞いてんのか!! 俺まで飼い犬扱いしてんじゃねえぞ!!」
「安心しろ。飼い犬ではなく、ちょっと馬鹿な犬だと思っているだけだ」
「なんだと!!」
早速また喧嘩になりそうだったが、その危ない空気を叩き潰すように、副所長が、パンパンと手を叩いた。
「はい。やめてー。昨日喧嘩するなって言ったよー?」
「……」
「……」
その一言で、俺もファンデッルも、素直に無言で喧嘩をやめて、双方離れる。昨日、怖かったからな……
副所長はそれを見て満足したのか頷いて、テーブルに地図を広げ、それをペンでコンコン指しながら言った。
「この前、水路で君たちが見つけた光の魔物だけど、この辺りの水路から光が漏れているのを突き止めた。おそらく、砂の力が溢れて、そこで魔物化したんだろう。ここを抑えれば、ここ最近の魔物の連続出没も止まるかもしれない。ただ……ここから少し離れたあたりにも、力の強い魔物が多く出てきている。その辺りの調査もしておきたい。向こうに着いたら、二手に別れる。魔物が発見されたあたりへ向かうグループと、光が強いあたりへ行くグループ。食べたら出発だよ」
彼がそう言うと、ファンデッルとティーイラットが、はい! と返事をして、俺も慌てて返事をした。
この前は失敗した。今度こそやり遂げてやる!!
「それと、デトズナー君。君にはこれ」
副所長は、俺に小さな瓶を差し出した。中には砂が入っている。
「君には魔力がほとんどないらしいね」
「ああ……そうだよ。なんだよ、今更。知ってるだろーが!」
「そう喧嘩腰にならないで。力、使えるようになりたい?」
「なんだよ。なりたいって言ったらできるようにしてくれんのか?」
「俺にそんな真似は無理だよ。一朝一夕で手に入るものじゃない。だけど、鍛えることはできる。君には魔力はほとんどない。これはどうしようもないけど、代わりに君の魔力は、この辺りの砂の力と相性がいいらしい。うまく訓練すれば、砂の力を操ることができるようになるかもしれない」
「砂の力を!? そんなこと、できんのか!!??」
「うん。君は魔力はないけど、それを使って砂の力を使役すれば、魔力よりずっと規模の大きなことができるかもしれない。あくまで、仮定……想像の話だけど。やってみる?」
「やる!!」
「即答? 本当にできるかわかんないよ?」
「でも、できるかもしれないんだろ!? それならやりたい!! 教えてくれ!!」
すると副所長は、俺に渡した砂を指差した。
「それは、砂と俺の魔力を使って扱いやすくしてある。瓶の蓋を開けて中の砂を投げてごらん」
「え……? こうか?」
言われたとおり砂を取り出し投げてみると、砂は空中でクルンと回って集まって、小さなボールになる。昨日ファンデッルが、後ろから俺にぶつけたやつに似てる。
俺のそばに落ちたそれを見て、副所長は首を横に振った。
「そうじゃない。できるだけ遠くに。多分最初はほとんど飛ばないけど、何度も続けるうちに、自然と砂の力と魔力を使って、遠くに投げられるようになるから」
「こんなもんでか? 信じらんねえけど……」
今度は、思いっきり遠くにやるつもりで投げてみる。だけどボールはすぐに床に落ちてポンと跳ねて転がっていき、崩れて元の砂に戻ってしまう。
それを追って行ったフレイムが、崩れた砂をつついていた。
ぜ、全然飛ばない……これが今の俺の力なのか?
肩を落とす俺だけど、副所長は微笑んで言った。
「最初にしてはよくやったよ。普段砂を扱っていたから慣れてるみたいだね」
「……これで本当に、うまくいってるのか?」
「もちろん。正直、全く動かないんじゃないかと思ってたから。空き時間に練習するといい。ただ、怪我が治ったばかりだから、無理は禁物だよ?」
「ああ……分かった……」
返事をする俺に向かって、フレイムがボールを咥えて戻ってくる。さっき俺が投げたときはすぐに砂に戻ったのに、フレイムがくわえたそれを受け取ると、俺が握った時より少し硬くて大きなボールになってる。これも、フレイムの方が俺より力を使うのがうまいからか? 何だか悔しい。
「やるか」
フレイムに向かってボールを見せると、そいつは可愛らしく鳴いて返事をする。
思いっきり投げたら、さっきより少し遠くに行った気がする。うまくなれば、俺もティーイラットたちと肩を並べられるかもしれない。そう思うと元気が出た。
俺はボールを握って副所長に振り向いた。
「よし……見てろよ! そのうち俺がここのトップになってやるからな!!」
「うん。まずは、試験、頑張ってね。俺も応援する」
「な、なんだよ……この前は俺には絶対無理みたいなこと言ってたくせに……」
「うん。絶対無理だし無駄だと思ってた。でも、頑張ってるみたいだから。少しはできるような気がしてきた」
なんだそれ……結局馬鹿にしてないか? ファンデッルが「副所長! ますますバカが調子に乗るのでやめてください!」って大声で抗議してる。
俺だって、馬鹿にされてムカつくはずなのに、なんとなく、怒る気にならない。
「す、少しはってなんだよ……これで力つけたら俺の方がそのチビより強くなるし、俺が試験受かって、ここに就職して偉くなったら、お前らみんな俺の下で働くんだからな!!」
思いっきり指差して言ってやると、副所長はどこか楽しそうに笑って、俺の頭に手を置いた。
「うん。頑張ってね」
「な、なんだよ! やっぱり馬鹿にしてるな!!」
「してない。もうすぐ出発だから。後片付けしておいてね」
「片付けも飯係の仕事なのか?」
「うん。もちろん」
マジかー……めんどくせぇ。そんなことより、ボールの特訓をしたい。
「ちっ………………だったら、皿洗いながらボール投げてやる!」
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