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44.覚えてろ!

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 副所長が持って来てくれた大量の飯を食って、もう腹一杯だ。その後、副所長はまだ仕事があると言って自分の部屋に戻っていき、ティーイラットも、それについて行った。

 これで部屋には、俺とファンデッルと犬たちと犬のフリしたウィルットだけ。

 疲れていたし、すぐにでもお風呂に入って眠りたかったけど、その前に、大きな問題が起こった。誰が一番最初にお風呂に入るかということだ。

「俺! いちばーん!!」

 手を上げて主張する俺だけど、すぐにファンデッルが反対の声を上げる。

「馬鹿を言うな、居候。お前は最後だ!」
「居候じゃねえ! 客だ!!」
「何が客だ!! 居候!!」

 早速言い合いになる。そこまで最初でないと嫌なわけじゃないが、相手がクソチビだと、引き下がれない!
 それはファンデッルの方も同じなのか、一歩も引かずに俺に詰め寄ってくる。

「貴様は一応怪我人だろう。大人しくしていたらどうだ?」
「あ? そんなもんとっくに治ったよ!」

 嘘ではない。医務室では、よく効く魔法で治療してもらえていたらしく、すでに包帯はとれている。まだ身体中が痛いが、それでもこんなクソチビには負けねえ!

 俺は耳と尻尾を出して、そいつに飛びかかろうとした。

「やめろこのバカ!!」

 ファンデッルが叫ぶと、突然、俺の両腕と両足を拘束する鎖が現れ、俺はその場に倒れてしまう。

「うわっ……! いってえっっ!! なんだこれ!!」

 くそっ!! いきなり両腕と両足縛られたんじゃ、喧嘩もできない!!

「おい!! 離せよ! 卑怯だぞ!!」

 怒鳴りつけて暴れても、やっぱり鎖は外れない。

 ファンデッルは、わざわざ俺の前まできて腕を組んで見せる。

「怪我人だから、こうしてやっているんだ!! クリスティーナは少し暴れすぎだ!!」
「クリスティーナじゃねえよ!! 死ね!! クソチビ!! はーなーせーー!!」

 そう言えば俺、こいつに魔法で拘束されてたんだ。どれだけ暴れても、鎖は外れない。

「くっそ!! 卑怯だぞ!! こんな時にこれ使うなんて!! 俺は別に、逃げようとしたわけじゃねえぞ!!!!」

 転がって喚いていたら、フレイムが飛びついてきて、少し遅れてウィルットまで俺に駆け寄ってくる。

「わっ…………ひゃっ……! や、やめろっ!!」

 この犬どもーーーー!!

 俺が縛られているのをいいことに、フレイムは服に噛み付いてくるし、ウィルットはきゃんきゃん鳴いては、俺に飛びかかってくる。フレイムの方、やけに爪が伸びて竜の手にみたいになってるし、尻尾まで竜っぽい。魔物に戻りかけてないか!? こいつ!!

「な、何しやがる!! ファンデッル!! このバカどもなんとかしろ!!」
「お前の砂の力が欲しくてしているだけだ。ちょうどいい。腕か足くらいくれてやれ!」
「はあ!? こ、怖えこと言うなよ!! お、おい!! お、おい待てーーーーっっ!!!!」

 叫んでも、ドアがバタンと乱暴にしまって、ファンデッルはリビングを出て行ってしまう。

 なんだよ、あいつ!! ひどい!!!! 俺はこいつらに服を引っ張られてて本当に怖いのに!!

 フレイムの方、元の姿に戻りかけてるし、ぺろぺろ俺を舐めてくるし、このまま砂の力のために俺は死ぬのか!?

 だけど、怖すぎて目を瞑った時、突然、攻撃が止んだ。

 涙まみれになった目を開ければ、俺に飛びついていたフレイムの首根っこを、まだ犬の姿のままのティーイラットがくわえて、少し離れたところに下ろしている。

「力なら、あとでやる。人を襲うのはダメだ」

 言われて、すっかり子犬の姿に戻ったフレイムは、耳と尻尾を垂れて、クゥンと返事をするように鳴いて離れていく。
 ついでに、俺のことをからかっていたウィルットも、大人しくそこでおすわりをしていた。こいつ……フレイムと一緒になって俺をからかって……

 ティーイラットが、俺に近づいてくる。

「大丈夫か……? 一体どうしたんだ…………ひどい格好だな……」
「だ、だって……こ、怖かったあああ…………」

 情けなくて、涙まで出てくる。

 もう、耳と尻尾、ずっとつけたままにしておく! 常に戦闘体制整えておかないと、いつ襲われるか分からない!!

「おい……泣くな……」

 ティーイラットが、俺の頬を舐めてくれる。クソチビめ……これで済むと思うなよ!!
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