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30.どこだ?
しおりを挟む車はそのままのスピードで路地に入る。そこは、俺たちの車がギリギリ通れるくらいの幅しかない。
道路のわきに置かれていたゴミ箱や段ボール、壊れた家電なんかを弾き飛ばしながら、ティーイラットの車は魔物を追って走っていく。
「おい!! ティーイラット! スピード! あぶねーだろ!!」
「平気だ! 砂嵐の間は誰も外に出ない!!」
「俺らが危ねえんだよ!! 乗ってる俺らが!」
そう怒鳴りつけても、そいつは全くスピードを落とさない。相当揺れているのに、後部座席のファンデッルは、慣れているようで平然としているし、ウィルットの犬やサファイアまで楽しそう。
まっすぐ行くと、T字路に差し掛かる。この辺りは、俺も砂の回収で走ったことがある。左右に伸びた道路はかなり狭くて、車で侵入するのは無茶だ!!
「ティーイラット!! 車止めろ!! この先こんなもんで入ったら、車つぶれるぞ!!」
力の限り叫ぶと、ティーイラットは急ブレーキで車を止める。
「いって……おい! お前乱暴すぎるだろ!!」
けれど、怒鳴っているのは俺だけで、ティーイラットもファンデッルも、すぐに車から降りていく。
路地は、魔物が壊した後だろうか、石畳がめり込んでいて、積んであったダンボールが破られ、中のものが散乱していた。
道は左右に分かれているけど、足跡なんかが残っているわけじゃない。どっちへ行ったのか分からない。
けれどティーイラットはすぐに、倒れたゴミ箱の向こうの、左の路地を指して言った。
「あれだ!! あそこにいる!!」
ゴミ箱を飛び越え、ティーイラットとファンデッルが魔物を追って走る。
「お、おい! 待てよっ!」
俺もそいつらを追いかけて走った。
人一人走るのがやっとの路地は、普段誰も通らず、掃除もされていないらしく、砂が積もっていてやけに走りにくい。
俺は何度か転びそうになっているのに、前を走る二人は、障害物なんてまるでないかのようなスピードで走って行く。
あいつら、空でも飛んでんのか!?
向かって行く先で火花が散ったかと思えば爆発して、爆風と共に土煙が飛んでくる。
力を持った砂だ。
慌てて吸わないように腕で口元を塞ぐけど、それだけで防げるものじゃない。
途端に息が苦しい。肺を握りつぶされたみてえだ。
「魔力の砂だ!! デトズナー!!」
前を行くティーイラットが、俺に振り向いて、光を飛ばす。それに包まれたら、俺の体は急に軽くなった。
ティーイラットの魔力か? あいつからは魔力はほとんど感じないのに、無理しやがって……
このままあいつにおんぶに抱っこで手を引かれてたんじゃ、ガキみてえじゃねえか!!
「うぜえんだよっ……! 自分くらい自分で守る!!」
「おい! 先に行くな!!」
魔法で力を呼ぶ。狼の耳と尻尾が生えて、体が一気に軽くなる。
ティーイラットは、俺を捕まえようと手を伸ばしてくるが、俺はそれを振り払って、先に進んだ。
俺の方が先に魔物捕まえて、見返してやる!!
飛び出した俺に、後ろからティーイラットが叫ぶ。
「前に出るな!!」
無視して俺は路地から飛びだす。
すると、正面から吹きつけてきたのは、焼けるような熱風と砂。
「あっつ……!!」
一瞬で日焼けしたみたいに肌が痛い。
路地を抜けた先の大通りでは、砂が渦巻いていて、熱風が吹き荒んでいた。飛んでくる砂に耐えながら前を見やれば、渦の中心に、昨日見つけた犬のような姿の魔物がいる。
確かに昨日の魔物だ……逃すか!!
魔物は俺に気づいたのか、踵を返して背を向け逃げて行く。
「待てっっ!!」
それを追って走る。
今の俺は、魔法で体を強化している。渦巻く熱風なんか熱くない!! ちょっと体が痛いけど……
砂に構わず突っ込んでくる俺に驚いたのか、魔物は、足元のマンホールを跳ね上げ、その中に飛び込んでいく。
荒れ狂う砂嵐のせいで、周りなんかもう見えない。まるであの魔物を守っているみたいだ。まさか、この砂嵐まで、あいつの仕業か? ってことは、あれをぶっ倒せば、嵐も熱風もおさまるかもしれない。
砂に襲われながら、俺はマンホールの中に飛び込んだ。
飛び込む寸前、俺に向かってファンデッルが何か投げて、走ってくる犬と、ティーイラットの声が聞こえた気がした。
地下通路に突き落とされた俺は、尻からそこに着地して、ついでに降ってきた砂を大量にかぶってしまう。
「いって…………うわっ……! 砂まみれじゃねえか……」
頭の毛と狼耳に入った砂を振り払う。それだけじゃなくて、服の中にまで砂が入っている。
あー……気持ち悪い……こんな街、絶対いつか出て行ってやる。どっか行けるほどの金が貯まったら。
地下は驚くほど涼しくて、水路になっていた。水は透明で水路の底が見える。まるで地下に渓流ができたかのようだ。
俺が落ちてきた天井の方を見上げても、そこにはもう、マンホールも何もない。確かにあの辺りから落ちてきたのに、どうなってるんだ。
「ティーイラットーー?」
呼んでも、水路の中に俺の声が響くだけ。
ファンデッルも、ウィルットの犬もいない。
はぐれたのか?
ってことは、俺、あのクソ犬から解放された!? やった!!! 俺!! やっぱり今日はついてるぞ!!
ティーイラットたちなら、すぐに追いついてくるだろう。話はそのとき聞けばいい。
俺は魔物を探すか。
立ち上がって辺りを見渡すが、前にも後ろにも、水路が伸びているだけ。
魔物はどっちにいったんだ?
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