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26.そんなに怒らなくてもいいだろー
しおりを挟む結局、朝食が終わっても、ウィルットの犬の正体に気づく奴はいなかった。
それどころか、出がけに可愛くファンデッルに懐いて見せるから、ファンデッルがこの子も連れて行くと言い出した。
そして、俺にやけに懐いてしまったサファイアまで、一緒に連れて行くことになった。
ファンデッルは、たまにこうして、仕事に犬たちを連れて行くらしい。
何考えてんだ。
その犬、指名手配されてんじゃねえのか。
だけど、そんなことも言えず。
俺は、ティーイラットとファンデッルと二匹の犬と一緒に、車に乗って、初仕事に向かうことになった。
なんだこれ。なんでこんなことになってるんだ。
「……なあ、ティーイラット。俺ら、これからどこ行くんだ?」
助手席から、運転席のティーイラットに聞く。
仕事へは、いつも車で行くらしい。というのも、この街はしょっちゅう砂嵐が起こる。それでも、魔法や魔法をかけた傘があれば、外を歩けなくもないが、それだと、魔物に会うまでに、余計な魔力を使うことになる。
運転席にはティーイラット、助手席に俺が乗り、後部座席にファンデッルと犬たち。
今日は砂嵐が起こる予報が出ているだけあって、外を歩く人もまばらだ。
昨晩、俺が魔物に襲われたこともあり、今日は魔物が出やすい辺りを見回りに行くらしい。
だけど、ティーイラットがさっきから向かっている方向は、朝食の時に聞いた方とは逆方向だ。道に迷ったのかと思ったが、ティーイラットはハンドルを握ったまま答えた。
「お前の寮へ向かう」
「俺の?」
「必要なものをとってこい。しばらくは帰れない」
「……あー、そうだったな……俺、別に必要なものなんかねえけど?」
「着替えくらいは必要だろう。それに、職場の仲間にもしばらく会えないんだ。挨拶をしてくるといい」
「……」
「どうした?」
「いや……お前って、世話焼きだな……」
「そんなつもりはないが……嫌か?」
「嫌じゃねーけど……」
力もなければ魔力もない俺のこと気にかけんのなんか、フィッイくらいだった。昨日、対策所に行くって言ってから帰ってないし、あいつにはこれまであったこと、説明しておくか。
あいつのこと思い出していたら、後ろからファンデッルが余計なことを言う。
「ティーイラット、この馬鹿に余計な気遣いは不要だ。さっさと魔物を探しに行くぞ」
「てめえなあ……いちいち喧嘩売ってんじゃねえぞ! やんのか!?」
怒鳴りつけても、ファンデッルは微動だにしない。
「いちいち声を荒らげるな。サファイアが驚いている」
「だったらいちいちムカつくこと言うんじゃねえよ。それともなにか? てめえの恋人が俺に懐いたの、まだ嫉妬してんのか?」
「なんだと貴様……」
「事実だろーが。サファイアは俺の方が好きなんじゃね? 見ろよ。今も尻尾振ってやがる」
「……ティーイラット、車を止めろ!」
止めろ、と言いながら、そいつは停車なんか待たずに早速俺につかみかかってくる。
「貴様……もう許せん。刻んで砂漠に捨ててやる!!」
「やってみろよ!!」
当然俺もそいつの胸ぐら掴んで、車内にも関わらず、揉み合いになった。ティーイラットが「やめろ運転中だぞ!!」と怒鳴るが、喧嘩売られて引き下がれるか!!
「表出ろ! 頭割って犬の餌にしてやるよ!」
「力のない男の虚勢か! 見苦しいわ、このクズが!!」
「やめろーーー!!」
最後に怒鳴ったティーイラットに、俺の体が当たり、ハンドル操作を誤った車は大きく揺れる。
「うわっ!! おい!! 安全運転しろよ!!」
「どこを見て運転している! ティーイラット! 危ないだろう!」
つい怒鳴ってしまう俺。犬を庇いながらティーイラットを叱りつけるファンデッル。
ついにティーイラットはキレたのか、怖い目で俺たちに振り向いた。
「お前ら……少しおとなしくしていろ!!!」
怒鳴ったそいつの声が耳に響いて、急に体が動かなくなる。なんだこれ! 指一本動かせないぞ!
ティーイラットに抗議したくても、口も動かせない。それは、ファンデッルも同じのようで、俺たちは固まったまま、「そのまま静かにしていろ」とゾッとするような声で言ったティーイラットの車に乗って、俺の寮に向かった。
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