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21.最初からそう言えばいいのにー
しおりを挟む動けない俺の目の前で、そいつの姿が変わっていき、一匹の小さな茶色い毛のチワワみたいな犬になる。
「この姿で、お前のそばにいる」
「はっ……!? な、なんで……そんなこと……」
「お前の中にある、砂の力の正体を知りたい。だからこうしてついていく。僕はウィルット。よろしく」
「るせぇっ……! 何がっ……よろしくっ…………ぅっ……!!」
なんだこれ……息が苦しい。体と一緒に、呼吸まで止められたみたいだ。気を抜いたら、このまま締め殺されそう。
俺は、精一杯の虚勢を張って、目の前の犬を睨みつけた。
「……お前……ここの奴らと敵対してるんじゃなかったのかよ!!??」
「そうだよ? だからこうやって、姿を変えてるんじゃないか」
「ざけんな!! そんな奴と一緒にいられるか!! すぐにあいつら呼んで……っ!!」
声を上げようとすると、首がひどく締め付けられた。もう、息もできない。
「が……っ!? あっ…………!」
「そんなことしたら、お前が声を上げる前に、その喉笛に食いついて殺す。僕には、それくらい朝飯前。お前は何も伝えられずに死んで、僕は逃げおおせる。それって、何か意味ある?」
「ぐ……く…………」
「……分かったなら、ピーピー喚かずに大人しくしてなよ。その方が、お前のため」
「ぐっ…………あっ……!!」
そいつは満足したのか、突然、首の拘束が解けて、肺に空気が入ってきた。俺は手をついて何度も咳き込んで、息を整えた。
し、死ぬかと思った……
ウィルットの犬は、首を傾げて聞いてくる。
「お前、名前は?」
「あ? てめえなんかに誰が名乗るかっ!!」
「僕は名乗ったのに? ひどいなあ……今度は首を切ろうか?」
「は!?」
「どうする? あと五秒だけ待つ」
「デトズナー!!! デトズナーだよ!!」
「最初からそう言えばいいのにー」
「……」
くそ……ファンデッルだけでもうんざりしてるのに、こんな奴にまで付き纏われてたまるか!
だけど、俺にはこいつを追い払う力がない。騒ごうとしたところで、俺が死ぬだけ。じゃあ、どうすればいいんだ?
とりあえず、口をつぐむ。
そこへ、ファンデッルが起きてきた。リビングのドアを開けたそいつは、起きたばかりなのか、パジャマ姿で、早速俺を睨みつける。
「そこで何をしている……? 盗み食いか? 殺すぞ」
「……そんな可愛い犬柄パジャマ着て言われてもな…………ガキの虚勢にしか見えないぞ」
「……朝から死にたいようだな…………」
「わー!! 待て!! じ、冗談だよっ!!」
返事をしながら、俺はウィルットの犬を自分の背後に隠していた。
落ち着け俺。
隠してどうする。
ウィルットは指名手配犯で、俺を殺そうとしたやつだ。こんな奴庇ったところで、いつか殺される。
それならどうする? 今、ファンデッルに全部打ち明けるか?
だけど今、俺の背後にはこの殺人犬がいる。口を開いた途端、俺の首が落ちて、犬は逃げる。
いや、そうなる前に、ファンデッルが犬を捕まえるかもしれない。一応、このサイコ男も対策所の一員。ウィルットのことは敵視しているだろうし、うまくやれば、俺の首が落ちる前に、こいつが犬を捕まえることができるかもしれない。
俺はファンデッルを見上げた。
昨日の晩、俺を拷問しやがった野郎に助けてもらうのは腹立たしいが、そもそもこれはこいつの仕事だ。この際、少し手伝ってやるよっ……! 後で死ぬほど感謝しろ!!!
俺は無理矢理、そいつの前で笑顔を作って見せた。
「あ、あー……おはよう……ございます…………」
「耳と尻尾は?」
「は?」
「あれがないと、お前を殺したくなる」
「こっ……! ざけんなっ……くそがっ…………!」
こいつは人をなんだと思っているんだ。ぶん殴ってやりたいが、すんでのところで振り上げようとした拳を止める。
こいつを殴ってる場合じゃない。そもそもこういう奴だって、分かっていたじゃないか。今は自分の命のことだけを考えるんだ!!
「これでいいかよ…………」
しぶしぶ封印を解くと、そいつはいきなり笑顔になって、犬たちと話す時の声で言った。
「おはよう。クリスティーナ」
「デトズナーです。クリスティーナじゃなくて」
「朝食にしようか。クリスティーナ」
「……」
聞いてねー、こいつ。
もう諦めよう。こんな奴に名前呼んで欲しくなし、名前より今は命だ!
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