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12.取り調べなのか?

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 ほっとしたのも束の間、後ろから、絶対に会いたくなかった奴の声がした。

「ティーイラット」

 この声は……あの時の小さい方……

 恐る恐る振り向く。
 そこには、二人の男が立っていた。

 一人はもちろん、ティーイラットと一緒にいた小さい方。

 もう一人は、初めて会う男だった。真っ黒な長い髪に、金色の目をした男で、ティーイラットと同じくらい背が高い。隣の小さい方と並んでいると、まるで親子だ。眠そうな顔をして、肩から大きな王都の紋章がついたマントを羽織っていた。

 その男に向かって、ティーイラットが、気まずそうに頭をかきながら言った。

「……副所長……これは、いろいろあって……」
「そうかー……でも、俺がいない間に対策所ボロボロにしちゃダメだよー」

 腕を組みながら、そいつは答える。のんびりした口調で言っているけど、あれ、絶対キレてるだろ。

 副所長と呼ばれた人は、俺をじーっと見て、なんだか怖い顔で言った。

「いろいろあったことの中身を聞かせてもらおうか? 特に、そっちの君」
「な、何で俺なんだよ?」

 俺は魔物に追われていただけの善良な市民だ。

 それなのに、そいつはまるで、凶悪事件の犯人でも見つけたかのように俺を睨んでくる。

「対策所がこんな風になっている理由について聞かせて欲しい。魔物は、このビルに逃げ込んできた君を追って来たんだろう?」
「そ、それは仕方なかったんだ!! だって」
「言い訳は俺が聞く」

 そう言って前に出たのは、小さい方。俺を見る目が、この前の比じゃない。すっげえ怒ってる……

 今回のこれは魔物のせいであって、絶対に俺は悪くない。

 腹が立って睨み返してやるが、そいつは微動だにしない。

 睨み合いになる俺と小さい方の間に、ティーイラットが入ってきた。

「ファンデッル、話なら俺が聞く。ここで起こったことを知っているのも俺だ」

 けれど、小さい方もそう簡単にはひかない。

「……ティーイラット、お前も聞かれる側だ。ロビーが吹き飛んだのは、お前にも責任がある」
「仕方ないだろう。魔物が暴れたんだ」
「そいつと同じ言い訳をするな!! 来いっ!!」

 キレた様子のそいつは、ティーイラットの手を取り、勝手に対策所の方へ歩きだす。

 キレるのは勝手だが、ロビーの件でそいつに非はない。ティーイラットを怒鳴るのはお門違いだ。

 俺は、責任を取るのは嫌いだが、俺のしたことを他人がかぶるのは、もっと嫌いだ。

「おい! ここに逃げ込んだのは俺だ!! そいつ責めんなっ!! クソチビっ!!」

 追いかけて行っても、小さい方は全く聞いてない。足を止める様子もない。

 なんでこいつ、こんなにキレてんだ!!





 何があったのか聞くためだと言われて、俺とティーイラットは、対策所の中の暗くて狭い部屋に連れてこられた。

 すでに嫌な感じだ。まるで取り調べじゃないか。

 むかつくけど、暴れても、ティーイラットに迷惑がかかる。

 苛立ちながら、俺は指定された椅子に座った。

 小さなデスクを挟んで、向かい合う席に、小さい方が座る。この生意気なクソチビは、ファンデッルというらしい。対策所では、一人で出かけていって次々魔物を切り殺すほどの魔法の使い手らしいが、俺には小生意気なクソガキにしか見えない。

 そいつはずっとティーイラットの作った書類を読んでいて、俺とティーイラットは、そいつがそれを読み終わるのを待つしかない。

 すっげーひま。

 あんなもん真面目に読んで、何が楽しいんだか。

 活字なんか三行並んだら読む気が失せる俺は、さっきから暇で暇でたまらない。

 何度かあくびをしては、となりのティーイラットに「緊張感はないのか」と聞かれる時間だけが過ぎる。

 もう眠くなってきた。

 ついに机におでこをつける俺。

「あー……冷たくて気持ちいい…………デスクのひんやりって、何でこんなに気持ちいいんだ……」

 ダラダラしていたら、隣のティーイラットが苦い顔で言う。

「おい……寝るな。ちゃんと座れ」
「るせえよ。親か。うっざ……」
「お前の親はそう教えなかったのか?」
「いねえよんなもん。生まれた時から。どっかで死んでんだろ」
「そうか……」
「オイコラ……てめえ今、俺のこと、こいつ、かわいそーみたいな目で見ただろ」
「いいや」
「勘違いしてんじゃねえぞ。俺は生まれてから一度もそんなもん欲しいと思ったことない。羨ましいとも思わない。そもそも一人で生きてくのに、んなもんいらねえんだよ!」
「見ていないと言っただろう。初めて会った時からそうだったが、お前はもう少し、人の話を聞いたほうがいい」
「話聞いたら金でもくれんのか?」
「そうじゃない。人の話は金のために聞くもんじゃない」
「るっせえよさっきから! てめえの長ったらしい話聞いてやってんだ! 金の一つも出せやコラア!!」
「そんな風だから魔物に狙われるのがわからないのかお前は!! そもそも無力が無謀に魔物を襲わなければ、仕返しされることもない! 先に手を出してあんな目にあって反省の一つもできないのか!?」
「はっ? 反省? はんせい? 何それー? 俺には無用でーす」

 思いっきりバカにしてやると、ついにそいつはキレて立ち上がる。

 けれどそいつが俺に怒鳴り返す前に、正面でずっと書類を読んでいたファンデッルの方が、顔をあげて叫んだ。

「黙れこのバカどもが!!!!」

 耳が痛くなるような声に、俺もティーイラットも、お互いに殴りかかりそうだった手を止めた。
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