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2.楽して上手くいかないか?
しおりを挟む「そりゃーお前がドジなんだろ」
呆れた口調で言いながら、仕事仲間のフィットレイルが、ビールを一気飲みする。俺がよく一緒に飲む奴で、フィッイって呼んでいる。
最近は、仕事が終わってから、こいつと寮で酒を飲んでつまみ食うのが夕飯になっている。
昨日はフィッイの部屋で飲んだから、今日は俺の部屋。散らかってはいるが、こいつの部屋もそうだからか、気にしていないようだ。
狭い部屋の真ん中にある小さなテーブルは、コンビニで買ったつまみと酒で埋め尽くされている。
俺は、その中からスルメを摘んで口に放った。
「勝てるはずだったんだよ。相手カエルだぞ……」
「負けてんじゃねぇか」
「負けてねえ! 逃しただけだ!! 戦わずして逃げるとは、卑怯なカエルだ!!」
「逃げてくれてよかったんじゃね? 反撃されてたら、お前、死んだかもよ?」
「はあ!? 俺がカエルに負けるわけねえだろ!」
「俺がかけた術、効いてるか? 勝てそうだった?」
「……」
むかつくこいつが俺にかけたのは、相手の力を感じ取れる術。
俺がここに来たばかりの頃、なりは小さいがすげえ力を持った砂の塊に向かって行き、秒でぶっ飛ばされたのを見て、不憫だからとかけてくれた術だ。
この術のおかげで、相手を前にしただけで、その力量が何となく感じ取れるが、力の差がなんだ!
「勝てるに決まってるだろ! 今回は運が悪かったんだ!!」
「……言い訳が毎回一緒だな、お前。ほら、食えよ」
フィッイが差し出した菓子の袋を逆さにしても、粉みたいに細かくなったものが顔にかかるだけ。
もう空じゃないか!
菓子にまで馬鹿にされてる!!
「なんで空のやつ渡すんだよ!!」
「あ? もうなかったか? 悪い。金やるから買いに行ってこいよ」
「やだよ、めんどくせえ! ジャンケンだろ!」
「どうせ俺が勝つんだから行けよ」
「はあ!? 勝つのは俺だよ!! 勝負しろ!」
「……前から聞いてみたかったんだけどさー、お前って、なんでそんなに無駄に自信あんの?」
「俺は強くなるんだよ! でもって、いっぱい金稼いで楽しい人生送るんだよ!!」
「……」
「同情するような目で見るんじゃねえ……」
「……そんな目で見た覚えはねえけどよ……お前、奴隷の術は解けたのか?」
「……」
それを言われると、余計に凹む。
俺の首には、昔、奴隷だった時にかけられた術の跡がある。救出された時に解いてもらえたが、未だに後遺症として、突然体を縛り付けられたように魔法が使えなくなる。
といっても、魔力なんてほとんどない俺に使える魔法なんて、大したことないものばっかりなんだが。
それに、今回砂を逃したのは、その術のせいじゃなくて、単についてなかっただけだ。
「それは関係ねーよ。とにかく、俺はこれからたくさん稼いで、欲しいもん手に入れて、好きなことしながら毎日楽しく暮らすんだ!」
「……そーかよ。じゃあ、とりあえず、ジャンケンしてみるか?」
あっさり一発で負けて、同情までされて、駄賃まで渡された。フリかよ。なんでこうなるんだ。今日は何もかもがダメな日だ。
苛立ち紛れに頭をかきながら、寮から歩いてすぐのところにあるコンビニへ向かう。
なんとかして、今のこの状況を打破するすごい力が手に入らないかな……砂ですら、俺を追い返すほどの力があるのに、なんで俺には何にもないんだ。
砂か……
ふと、沿道に目を移せば、お土産用の小さな砂の玉を、可愛くリボンで飾ったものを売る露店があった。
この街に観光客なんてほとんど来ないが、砂は人気で、ここに住んでいる奴らは、砂をこうした土産物にして別の街に売りに行くことがあるくらいだ。
だけど、この街の中で売ってるなんて珍しいな……
その砂の玉は、ほとんどただの砂でできているようだが、中心に、ほんの少し力が残っているのか、ぼんやりと光っている。
少し寂しげなその光に釣られて、俺はつい、露天商に声をかけてしまった。
「一個……ください……」
「はいよ。色はどれにする?」
「……白いの」
「はいよ」
渡されたのは、ちょうど飴玉くらいの大きさの砂の玉だ。これにも、俺よりすげえ力があるんだ。
これ食ったら、俺の魔力も強化されたりしないかな……
誰にも見えないように、狭い路地に入って、俺は、買ったばかりの砂の玉を潰した。中からは光る砂の粒が出てくる。これくらいなら……
もう一回、誰にも見られてないことを確認してから、砂の粒を口に入れて、一気に飲み込む。
「うわっ! あっつっ!!」
腹が熱い! まるで焼けた石を飲み込んだみたいだ。中から焼かれていくようで、立っていられない。
その場に膝をつきうずくまるが、なかなか熱さは消えてくれない。
これが砂の力か? めちゃくちゃ熱い!
馬鹿なことするんじゃなかった。もう動けそうにない。体を支えることもできずに、その場に倒れてしまう。
そう言えば俺、ここへきたばかりの頃、同じことしようとして、フィッイに「熱いだけだからやめろ馬鹿」って言われたの、忘れてた!
し、死ぬ……このままじゃ死ぬ。
どうすればいいんだ。近くに病院あったはず。でも、熱すぎて動けねえ。
助けを呼ぼうにも声もでないし、なにより、魔力欲しくて自分で砂飲んで熱くて死にそうです、なんて言えねえ……
じっと耐えていたら、少しずつ楽になってきた。
ゆっくり息を整え、腹を押さえる。
そんなことをしていたら、大通りの方から、ヒソヒソヒソヒソこちらを盗み見ながら囁く声が聞こえた。
「なに? こんなところで寝て……キモ……」
「見るなって。頭おかしいんだ。そのうち死ぬから寝かせとけ」
二人はゲラゲラ笑い声を上げて去っていく。
誰の頭がおかしいんだ! 誰の!! こっちは腹が焼けて死にそうだってのに!!
もうつまみなんていいから帰りたい。いつまでこうなんだ。俺の人生は。
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