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36.なぜかもっと

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 コンフィクルは、苛立った様子で、俺を睨みつけた。

「まさか、お前に追い詰められるとは思っていなかったぞ……この城に飛び込んできてまで、俺を追い詰めたかったのか?」
「…………は? 何言ってるんだ? 俺は、俺と俺の仲間を助けるためにここに来ただけだ」
「なに……?」
「だけど、きてよかったよ。お前なんかにベルブラテスが殺されるなんて、俺が嫌だ。今すぐ使い魔を消せ」
「何のことだ? あれを放ったのは、アンガゲルだ」
「……てめえ……」
「それに……あんな男に、この領地を任せることはできない。ベルブラテスには、城の結界をお前一人に任せて城を魔物で溢れさせた責任をとってもらおう」
「黙れっ……! お前の使い魔なんか、全部俺がぶっ壊してやるっ……!」

 俺がそう怒鳴ると、コンフィクルは、じっと俺を睨みつけた。

「……お前は、昔からそうだった…………何もできないくせに、反抗的で、いちいち俺に突っかかってくる。よくそんな腕で、よく俺に逆らえたものだ。呆れるな!!」
「……俺は、お前に逆らってるつもりなんかねーし、そこまで暇でもねーよ。だけど、今はお前を逃がさない。二度と、あいつの命を狙ったりするな」
「ふん。何のことだ? 言いがかりもいいところだ。俺に手を出してみろ! また罪が増えるぞ!! 罪人めっっ!! 今度は死罪かもな! 俺は貴族!! お前は奴隷! そんな奴が、俺に手をあげて、ただで済むと思うなよ!」

 怒鳴るそいつの顔を見ていたら、ついに我慢できなくなって、俺はそいつに掴みかかっていた。

「別に。俺はいいんだよ。今更、罪くらい増えても、なんとも思わねえ。それに俺、クズでも……別に寂しくねえから」

 俺が罪人って言われてること、デトリットたちは知っていたけど、それでもあいつらは俺のそばにいたし、ベルブラテスたちだって、俺を知ってるくせに、俺に信頼の目を向けてくれる。

 だったらもう、それでいい。何より、ベルブラテスを殺そうとしたこいつのことが、今は許せない。

 俺は、俺を振り払おうとするコンフィクルの腕を握り、強化した拳で殴り飛ばした。

 すると、コンフィクルはすぐに気絶して動かなくなる。やりすぎたかと思ったけど、違うみたいだ。
 倒れたコンフィクルは、ぐっすり寝ている。上空からの眠りの魔法にやられたんだろう。

 見上げれば、ベルブラテスが魔法で飛んで、俺の前に降りてくる。

「捕まえたか……」
「……すみません…………」
「……? 何がだ?」
「え? あ、あいつ、殴り倒しちゃったから……これ、後で問題になりますよね? 俺が勝手にやったことで、ベルブラテス様は……関係ないので……」
「何を言っているんだ。よくやった」
「え?」
「それを逃していたら、城に放たれた使い魔の責任を追求出来なかった。よくやった」
「や、やめてください…………俺は、別に何も……」

 なんて言いながらも、ベルブラテスに頭を撫でられるのが嬉しくなってきた。こいつに褒められると、照れるしなんだかくすぐったいけど、なぜかもっとされたくなるんだ。

 ベルブラテスは、俺を見下ろして言った。

「使い魔探しに戻れ。あの暗殺者と、勝負の途中だろう?」
「は、はい……今行きます……! あのっ!」
「どうした?」
「…………あ、ありがとうございました……来ていただいて……」
「……そろそろ決めたか?」
「……? 何をですか?」
「本当に婚約しないかと言っているんだ」
「ま、またそんなこと言って……しないって言ったじゃないですか!」

 そんなこと、出来るわけがない。そもそも俺は、魔法に失敗して、この城に突っ込んできたのに。
 それに俺、コンフィクルたちにしてみれば、罪人なんだ。

 昔、俺はコンフィクルと一緒にフオルア家で魔法を学んでいた頃、コンフィクルの屋敷に呼ばれたことがあった。屋敷を魔物から守るために必要な人員が足りないとのことだった。コンフィクルの屋敷で使い魔が暴れたのはその時で、コンフィクルは、俺が魔法に失敗したせいだと言って騒いでいたけど、その使い魔を放ったのは、コンフィクルとその兄弟たち。どうやら、兄弟たちはコンフィクルを砦の隊長候補から引き摺り下ろそうとしていて、コンフィクルは、邪魔な兄弟たちを屋敷から追い出したかったらしい。

 結局その使い魔は、外から飛んできた刺客ということになり、疑われたのは俺。普段あれだけ強固な結界を張るくせに、その時だけ使い魔が結界を超えて中に入ってきたのは、俺が使い魔を使ってコンフィクルを暗殺しようとしたからじゃないかと言われた。お陰で俺は勘当されて、アンガゲルに金で売られた。後で知ったが、俺を糾弾したコンフィクルと俺の一族は組んでいて、コンフィクルが隊長になった時には、それなりの見返りをもらっていたらしい。

 今でも俺はコンフィクルを襲おうとした奴ってことになってる。そんな奴が次の領主になる奴と婚約なんて、出来るはずがない。まして、俺はすでに城に突っ込んできて、貴族たちを怒らせているのに。

「…………あ、あの婚約は、ほんの少しの間だけって言ってたじゃないですか…………俺だって、そのつもりだし…………ベルブラテス様だって、そうですよね?」

 言って振り向くと、ベルブラテスはすぐそばに立っていて、「嫌か?」って、俺に聞いた。

 嫌なんかじゃない。だけど、こんなの苦しい。婚約なんて、そんなこと、出来るわけないんだから。

「だ、だから……婚約なんて、冗談…………」
「コンフィクルの屋敷でしたことを気にしているのか?」
「へ!!??」

 びっくりして、顔を上げた。何で知ってるんだ!?

「あ、あの……俺……」
「コンフィクルの屋敷であったことなら知っている。俺の婚約者になる男のことだからな」
「…………あ、あのっ……それはっ……だから……」
「分かっている。イノゲズがそんなことをするとは思えないからな」
「…………ベルブラテス様……」
「そんな冤罪、すぐに晴らしてやる。そしたら、俺と婚約するか?」
「え? な、何を言って……」
「……どのみちお前のその冤罪は晴らす気でいるが……」
「え!!??」
「それが晴れたら、俺との婚約の件も考えろよ?」
「え……えっと………………そんなこと、急に言われても……あ、あいつとの勝負が終わったら……考えてもいい……」

 なんて言いながら、すでに俺は、こいつのことばっかり考えてる。
 なんだか体まで熱くなってきて、俺はそいつに背を向けた。

「お、俺っ……! 使い魔倒してきます!」
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