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35.こういうところが

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 暗殺者は、じーっと俺を睨んでいたけど、しばらくして頷いた。

「分かった…………約束破ったら……ただじゃ置かないぞ……」

 そう言って、暗殺者は、ニヤリと笑った。

 こいつ……さっきからずっと、俺から目を離そうとしない。どうやら、よほど気に入られてしまったらしい。

 だけど、勝手にことを決められたコンフィクルは、苛立った様子で叫ぶ。

「待ってください!! そのようなことっ……勝手に決められては困ります!! イノゲズ!! こんなことをしてっ…………ただで済むと思うなよ!!」
「知らねーよ! お前のことなんて!」

 言って、俺は暗殺者に振り向いた。それを合図と受け止めたのか、暗殺者が走り出す。俺もすぐに走り出した。

 ベルブラテスたちもついて来る。そいつの顔を見ているだけで力が抜けそうで、俺は、すぐに前に向き直った。

 城の中を走っていくと、城の廊下にポツンと立っている黒い虫のようなものが見えてきた。

 あれが……使い魔か!

 暗殺者が飛びかかろうとするけど、姿さえ見つければ、こっちのものだ。俺は、使い魔の周りに結界を張り、使い魔を閉じ込めた。

 暗殺者が驚いて、俺に振り向く。

「お前……あの結界、どうやっているんだ?」
「どうって……そんな変わったことはしてないけど……俺は、これしかできないからな。だけど、負ける気はないぞ!!」

 ベルブラテスにも、負けるなって言われてるしな……
 …………なんで戦ってる最中にあんな奴のこと考えてるんだ。俺。

 だけど、俺だって最初から負ける勝負なんてするつもりはない。

 暗殺者の方も、それは同じなようで、さらにペースを上げて走り始めた。

 一緒に走ってきたキユルトが、俺に微笑んで言う。

「……イノゲズ……彼が馬鹿な真似をする前に止めてくれてありがとう」
「……え? 別に……そんなつもりはありませんでした……」
「照れなくていいのにー」
「は!? ほ、本当に、そんなつもりありません! ……アンガゲルやコンフィクルの思い通りになるのが嫌なだけで……」
「ふーん……ベルブラテスが気に入るのも分かるよ」
「は!!?? な、何言ってるんですか!!」

 叫ぶと、キユルトは楽しそうに笑い出す。

 ベルブラテスに聞かれたらどうするんだ!!

 それなのに、一緒に走ってきたガレイウディスまで、頷きながら言う。

「……全くです。こういうところが、ベルブラテス様に気に入られてしまって、困っているのです」
「こ、こういうところ!? どこだよ!?」

 たずねる俺に、そいつは振り向いて、そういうところだって、呆れたように言った。ブローデスまで頷いていて、訳がわからない。

 こういうところって、どこだ!? すげー気になる……

 なおもそいつらに聞いていると、ベルブラテスに横から手を繋がれてしまう。

「お、おい……俺は今、あいつと勝負の途中…………」

 言いかけて、ベルブラテスの顔を見上げたら、ますます心臓が高鳴って、それどころじゃいられなくなりそうだった。

 ベルブラテスは、キユルトたちの方を睨んで言う。

「イノゲズに近寄るな。これは、俺と婚約するんだ」

 ……だから、俺、婚約するなんて言ってないのに……

 二人で走っていくと、廊下の向こうに、まだ使い魔がいるのが見えた。そして、その使い魔の背後にある窓の向こうに、逃げていく男の姿が見える。

 あいつっ…………! あんなところで何してやがる!!

 俺は、見つけた使い魔を結界の中に閉じ込めると、窓から飛び出した。

「イノゲズ! どこへ行く!?」

 背後から、ベルブラテスたちが叫ぶ声がする。

 だけど俺は、あいつだけは見逃せない。

 この城に突っ込んできたときの魔法を使って、庭を飛ぶ。さすがにこの速度で飛べば、絶対に追いつけるだろうと思っていたけど、勢いが良すぎて、庭に突っ込むとまでは、考えていなかった。

 庭に顔から落ちて、結界で自分を守っていなかったら、きっと俺は死んでいた。

「いって……」

 打った体をさすりながら起き上がる。すると、すぐそばで、コンフィクルが俺を呆れたように見下ろしていた。こいつが城の庭を走っていくところが見えたから、飛んできたんだ。
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