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18.いきなり
しおりを挟むブローデスの言っていることは全部本当だし、俺がベルブラテスを危険な目に合わせたのも本当のことだ。それに関しては言い返せないが……
俺たちを通さないなんて言われて、引き返せるか。
「……俺がしたことなら謝ります」
口を開いた俺を、「やめろ!」と言って、ガレイウディスが止める。彼には悪いがそれは無視して、俺は、ブローデスを睨みつけた。
「俺が昨日したことは謝ります……だけど、だからって、ベルブラテス様を一人で危険な会議に行かせるなんて、できません。あなたにも、ベルブラテス様がその会議で暗殺されそうなことくらい、分かりますよね?」
俺が言うのを聞いて、その場にいた他の貴族たちが俺を嘲るように次々口を開く。
「ベルブラテス様が、暗殺だと? 何を言っているんだ。賊が」
「むしろ貴様がベルブラテス様の命を狙う賊なんじゃないのか?」
……うるさい連中だ。いつもなら怒鳴りつけるところだが、今は、ブローデスから目を離さないでいるだけで、精一杯だ。
ブローデスは、俺を睨みつけて、静かに言った。
「なんと言われようが、ここは通しません。ガレイウディスに何を吹き込まれたのか知りませんが、ベルブラテス様が殺されるかもしれないというのは、あなたの思い込みです」
「……なんでそんなこと分かるんですか……」
「……確かに私たちはベルブラテス様が次の領主になることに反対しています。しかし、だからと言って、会議の最中にベルブラテス様の命を狙うような真似はしません。私たちとて、殺し合いがしたいわけでもなければ、ベルブラテス様に危害を加えたいわけでもありません。突然城に飛び込んできた男をいきなり婚約者にするベルブラテス様より、キユルト様の方が、領主に相応しいと言っているだけです」
「アンガゲルが来るんですよね!??」
叫ぶようにして聞くと、ブローデスは特に動揺した様子もなく、淡々と答えた。
「はい。来ます。ですが、私たちもアンガゲルまで良しとしているわけではありません。あなたの言うとおり、アンガゲルのしていることは国王の意に反します。あれを糾弾する材料を提供してくれたことにだけは礼を言います」
「だったらっ……!」
「だから、勘違いするなと言っているんです。怪しげな連中と手を組んで金を懐に突っ込むことしか考えていないアンガゲルは、私たちが城からつまみ出します。あなたはベルブラテス様に言われたとおり、街の結界でも張っていてください。今まで、勇者と複数人の魔法使いが張ってきた結界を、あなたが一人で引き受けられるとは、到底思えませんが」
「……」
俺が黙ると、ブローデスの目が冷たさを増す。
「……分かったら失せろ……」
「……帰る気なんかねーよ……俺たちは、ベルブラテス様を守るために来たんだ……俺、ベルブラテス様の…………こっ、婚約者……? らしいんで……」
こんな大勢の前で、何言ってんだ、俺……こんな奴と婚約した覚えなんかないのに。
だけど、今は何がなんでも、ベルブラテスを一人にしたくない。こいつを殺させてたまるか。
俺は、すぐにでも応戦できるようにブローデスを睨んでいたのに、いきなり、大きな手が俺の肩を抱いて、引き寄せる。俺の隣にいたベルブラテスだ。
「べ、ベルブラテスさま!??」
こいつっ……いきなり何をするんだ!! なんで抱き寄せるんだよ! 俺は今、ブローデスと対峙していたのに! しかも、こんなに大勢の前で!
突然ベルブラテスが俺を抱き寄せたりするから、全員、唖然として俺たちを見てる。
それなのにベルブラテスは、自分の首もとと俺の頭が触れ合いそうなくらいに俺を抱き寄せるから、俺は一気に緊張した。
「な、何すんですかっ……!?」
「照れることはない。婚約者だろう?」
「違っ…………」
違うけど……だけど俺、さっき婚約者って言ったばかりだっ……!
婚約者だから通せとも言った……じゃあ今更違うって言えないじゃないか!
どうしようか迷いすぎて、動けなくなっていると、それをいいことに、ベルブラテスが顔を近づけてくる。
こいつ…………なんだか楽しそう!?
ニヤニヤしているベルブラテスは、俺を嬲って楽しんでるのか、俺の耳元で言う。
「愛しているふりはどうした?」
「なっ……なんで俺がんなことしなきゃならねーんだっ……!! 死んでください! クソ貴族!」
「……昨日、自分で言っただろう? 俺に感謝しているし、愛しているふりもするし、精一杯結界を張って、俺に礼をすると」
「……ぐっ…………そ、それは……」
確かに言った……自分でちゃんと覚えてる。
勢いで俺は何を言っているんだ。俺の馬鹿。
だが、今更自分で言ったことを取り消すことはできねーーーー! どーすんだよ!!
やけに高鳴る心臓に戸惑いながらもじっとしていると、ベルブラテスは、満足気に笑って言った。
「……護衛ではなく、俺の婚約者らしいところを見せてみろ。そうすれば、無理矢理通してやってもいいぞ」
「やってもって……お前が許可するわけじゃねーだろっ……!」
「……だったら諦めるか?」
「は!? だ、誰がっ…………!」
こんなところまで来て、なんで諦めなきゃならないんだ。
つーか、こいつ、なんでこんなに楽しそうなんだっ!? お前の命がかかってるんだろーが!!
やけに嬉しそうだし……
……まさか………………最初からこうやって俺を追い払う気だったのかっ……!?
ベルブラテスを見上げていたら、ますますそんな気がしてきた。だからそんなに楽しそうなんだな!?
ここで止められること分かってて、俺を連れてきたなっ……!
「さては最初からこう言うつもりだったんですね!?」
「……なんのことだ?」
…………キョトンとしたふりしやがって……首を傾げられても、俺は騙されないぞ!
やっぱり、最初から俺を連れて行く気なんてなかったんだな!!
このままだと、俺だけここで止められて、結局会議には出してもらえない。
野郎……俺を舐めやがって! 俺はこんなところで引き下がってなんかやらないからな!!
「…………俺を舐めるなよ……クソ貴族っっ!!」
「……どうした? 急に怒り出して」
「……」
俺は、ベルブラテスに振り向き様にその胸ぐらを掴むと、一気に自分の方に抱き寄せて飛びついた。
仕返しでぎゅっと抱きしめてやる。ベルブラテスが、初めて見る顔で驚いているのが、目の鼻の先に見えた。勢いで飛びついたせいで、あと少しで唇がふれあいそうだ。
「……おっ……俺……! お前について行くって決めてるから! ぜっったいに離れてやらないからな!」
「………………」
ベルブラテスは黙り込んで、無言で俺から顔を背ける。
また怒らせたみたいだな…………
だが、言われたことはやったぞ! かなり心臓高鳴ってるけど、気のせいだ! 絶対について行くからな!!
俺は、ブローデスに振り向いた。
「おっ……! 俺は! 護衛じゃなくて、ベルブラテス様の婚約者です!! 分かったら、そこを通してください!」
けれど、ブローデスは呆れたように言う。
「護衛だからダメなのではなく、許可されていない者を入れるわけにはいかないのです。だいたい……何が婚約者だ……あなたのような間抜けな無能を婚約者だとは誰も認めていません。昨日突っ込んできた奴隷のくせに」
その一言にカッとなった俺は、気づけば叫びそうになっていたが、それより先に、ベルブラテスが俺を抱きしめて言った。
「俺の婚約者を馬鹿にするのはやめてもらおうか……イノゲズは、アンガゲルと貴族たちの関係を知っている。今日の会議には、出席しなくてはならない」
「ですから……」
「そうしないと、アンガゲルをみすみす逃すことになるぞ」
「……」
アンガゲルと聞いて、ブローデスが黙り込んだ時、廊下の奥から、何かが割れるような大きな音がした。
「なんだ!?」
集まった貴族たちのうちの一人がそう叫んで、廊下の奥に振り向く。すると、そっちの方から、使い魔が飛んできた。金色のガラスの小さな竜だ。
ブローデスの顔色が変わった。
「まさかっ……本当に、アンガゲルが!? キユルト様がいるのにっ……!!」
彼は、会議室の方に走っていく。そして、彼の周りにいた貴族の一人に向かって叫んだ。
「テアドシル! そこで、結界の番をしていろ!!」
「ブローデス様っ……! どうか……キユルト様を頼みます! あ! こらっ……お前たちはここにいろ!」
テアドシルはそう叫んで、ブローデスを追って走る俺たちを止めようとするけど、止まってやるつもりなんてない。そもそも、アンガゲルがいるのに、なんで待ってなきゃならないんだ。
ベルブラテスも、俺の隣を走ってきた。
「……よくやった……」
「は?」
「おかげで、中に入ることができた」
「え……? な、なんだよ!! お、置いて行くつもりじゃなかったのか!?」
「……? 置いていく? なぜだ? 最初から、連れて行ってやると言っておいただろう」
「……」
確かに、そうだけど……本当に連れて行ってくれるつもりだったのか? じゃあなんでさっきあんなこと言ったんだよ……っ!! それならあんなことする必要なかったのか!? 思い出したら、急に恥ずかしいぞ!
落ち着け、俺。あんなの、こいつに言われたからやっただけだっ……! さっさと忘れよう。ベルブラテスだって、別に何も、意識なんて、してないだろうし……
気にしない、そうしたいのに、どうしても気になって、俺は、走る間に何度か転びそうになった。
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