上 下
6 / 37

6.訳が分からない……

しおりを挟む

 周りの貴族たちもびっくりしたみたいで、口々に「無茶だ」と叫ぶ。

 コンフィクルが、顔色を変えて叫んだ。

「ベルブラテス様!! 何をおっしゃいます!!!! そ、そのようなことっ……! できるはずがないではありませんか!!」

 あいつも、まさかベルブラテスが信じるとは思っていなかったらしい。ひどく焦ったような様子だった。

 俺だって焦ってる。まさか、いきなり信じてくれるなんて思わなかったんだ。

 けれど、ベルブラテスはコンフィクルを睨みつけて言った。

「黙れ、コンフィクル。この男の言うことはもっともだ」
「し、しかし……」
「アンガゲルのしていることは、陛下の意に反する。今すぐ使い魔を送れ、コンフィクル。貴様がアンガゲルに手を貸しているのなら、話は別だが」
「な、何をおっしゃいます!! わ、私は何も…………だ、だいたい、その男は罪を犯しています! 城に侵入した罪、会議に侵入した罪、あなたの魔法の道具を破壊した罪もです! そ、それなのに……」
「こいつがここに侵入し会議と俺の魔法の道具を台無しにしたことと、アンガゲルのしていることは関係がない。侵入の罪の方は償ってもらう」

 ベルブラテスは、俺に振り向いた。

「先ほど、俺の魔法を防いだのは、貴様の結界か?」
「……え? ……えっと……はい……俺の結界です……」
「……貴様が、一人でか?」
「はい……」
「そうか……では、貴様がさっき言った通り、結界は貴様に任せよう」
「え?」
「貴様の結界の威力は見せてもらった。貴様が結界を張って街を守ればいい。貴様の犯した罪は、それで精算してやる」
「…………」

 ……本気か?

 俺のしたことが、どれだけのことか、俺にも分かってる。城に侵入して、ベルブラテスの魔法の道具を台無しにしたんだ。それなのに、本当にそれでいいのか?

 戸惑っていると、そいつは首を傾げた。

「どうした? 嫌だというのか?」
「へっ!? …………あっ……えっと……い、いや、ではありません。でも……本当に……それでいいんですか?」
「ああ。俺も、貴様の魔法を見たくなった」
「……俺の?」

 ……なんで俺の魔法なんかを?

 ベルブラテスと言えば、かなりの魔法の使い手として有名だ。そんな人が、俺の魔法になんて、なんで興味を持つんだ?

 戸惑う俺に、そいつは不気味な顔で笑う。

「どうした? 領主の城の会議に侵入したことを、結界だけでチャラにできるんだぞ? それとも、死刑の方がいいのか?」
「わ、わかりました…………俺が、結界を張ります……」
「よく言ったな……明日になったら、その結界の力を見せてみろ。貴様が本当に役に立つなら、その力を使って働く代わりに、侵入と破壊の件は、なかったことにしてやる」
「……」

 なんだか、気前が良すぎて、ますます不気味だ。

 結界を張ってほしいだけなら、俺を痛めつけて服従させることもできるはず。貴族ならそうするはずなのに……

 なんなんだ……一体。

 けれど、コンフィクルが、それを聞いて喚く。

「ベルブラテス様っ……お言葉ですがっ……!! ほ、本気でそれをそばに置くつもりですか!?」
「ああ」
「しかし……城に侵入した罪人を城に置くおつもりですか! し、しかもそれが街を守るなど……そんなこと、誰も納得しませんっっ!!」
「やってみなくてはわからないだろう? この男が、俺の魔法を全て防ぐのを、貴様も見たはずだ」
「しかしっ……そ、その男の無能ぶりは私が一番よく知っています! ベルブラテス様の魔法の道具だって、破壊したのですよ!」
「そんなことくらいなら、俺もよくやる」

 あっさり言われて、コンフィクルはついに黙った。

 よくやるんだ……

「そうなったら、こいつが治せばいい」

 そう言ってベルブラテスは、俺を壁につなぐ鎖を千切る。

「うわ!!」

 倒れそうになる俺を、ベルブラテスは抱き止めた。

「な、なんだよ! 離せっ……!! 俺に触るな!!」
「ついでに俺が壊したものも、貴様が治せ」
「え!?? え……え??!!」
「断らせはしないぞ。修復の魔法は使えるな?」
「……うまくいくか分かりませんが……」
「それでいい」

 いいのか? こんなこと、誰も納得していない。どいつもこいつも大反対なようで、口々に「馬鹿なことはおやめください!」と騒ぎ出す。その勢いは、さすがの俺でも怖いくらい。

 そんな中、唯一冷静だった一人の貴族が、口を開いた。

「ベルブラテス様。あまり無茶ばかり言うのはおやめください」

 その男が冷たく言うと、周りの貴族たちも、口を閉じてそいつに振り向く。それは、深い緑色の長い髪の男で、物腰は柔らかいようだけど、俺を睨む目はひどく冷たい。
 誰か一人が、そいつのことを「ブローデス様」って呼んでいた。それがこの男の名前らしい。

 ブローデスは、ベルブラテスに向かって冷淡に言った。

「街では魔物に傷つけられるものが増えているのです。そんな時に、明日から回復と結界は城に侵入してベルブラテス様の魔法の道具を破壊した罪人が一人でやります、などと発表すれば、民たちがどれだけ不安に思うか、想像ができますか?」

 ベルブラテスは、しばらくその男を睨んで、俺を抱き寄せた。

「これの腕を、貴様も見ただろう?」
「見ましたが、そう言う問題ではありません。領主様も、こんなことをお許しにはなりません。そもそも領主様は、結界の魔法使いとして有名な王都の魔法使いに会うために出かけておられるのです。なぜだか分かりますか? あなたが婚約の話を台無しにしたせいで、先方から来るはずだった結界を操る魔法使いたちが、誰も来なくなってしまったからです」
「……相変わらずお前は口うるさいな……」
「得体の知れない侵入者が、自由に城を歩き回ることを黙認することはできないと申し上げているのです」
「そうか……」

 肩をすくめたベルブラテスに、今度はコンフィクルが言う。

「ブローデス様のおっしゃる通りです! そんな得体の知れないものを、ベルブラテス様のおそばに侍らせるわけには参りません! そもそも、領主様にはどう説明されるのです? そんな得体の知れないものをそばに置くなんて!!」

 するとベルブラテスは、俺の肩を抱いて言った。

「だったらこうしよう。婚約なら、した。今。この男と」
「は…………?」

 コンフィクルは、目を丸くしている。だって、ベルブラテスが指差しているのは、俺だ。

「これで、こいつに城を歩かせても構わないな?」
「か、構います!! そんな馬鹿な話がありますか!!」

 コンフィクルは、ひどく焦っているようだった。

 俺も同じだ。

 こいつは一体、何を言ってるんだ?

 訳がわからない……

 ブローデスが「いつも申し上げていることですが、思いつきでアホなことを始めるのはおやめください」と言って、ベルブラテスを睨む。次の領主になるかも知れない人に向かって「アホ」って、かなりひどい言い方だが、ベルブラテスはあまりに気にしていないみたい。
 ガレイウディスも舌打ちをして「またわけわかんないこと言い出した……」って呟いていた。

 呆れた目でベルブラテスを睨む二人とは違い、周りの貴族たちは、次々に喚くように反論し始めた。

「お待ちください! ベルブラテス様!! そ、そのようなこと……無茶苦茶です!! り、領主様がなんとおっしゃるか!!」
「あの変人なら笑うだけだ」
「しかしっ……!」
「しつこいぞ」

 そう言ったベルブラテスが、貴族たちに振り向くと、彼らはまた黙ってしまう。

 すると今度は、コンフィクルが喚いた。

「べ、ベルブラテス様! このようなことっ……領主様もお許しになるはずがありません!! よろしいのですか!? 今、領主様のご機嫌を損ねれば、領主の座は、キユルト様に任せるとおっしゃられるかもしれません!」

 そう言われてベルブラテスはひどく鋭い目でコンフィクルに振り向いた。

「……それは、貴様らだろう。キユルトがそれを望んでいると、本当にそう思うのか?」
「それはっ……」
「そういえば、貴様……先ほど俺の許可なくこいつを撃ったな?」
「は? そ、そのようなこと、どうでもいいではありませんか!!」
「黙れ」

 そう言ったベルブラテスの魔法で、コンフィクルは吹き飛んで、壁に叩きつけられ、動かなくなる。

 周りが、しんと静まり返った。

 マジで何考えてんだ……こいつ。

 相手は一応貴族の魔法使いだろ……そんな奴にこんなことして、ただで済むと思っているのか?

 マジでこいつ、訳分からん……

 周囲が呆然としている。
 コンフィクルはまだ気絶していて、それを見たガレイウディスが頭を抱えている。
 さっきベルブラテスを冷徹に諌めたブローデスは、ため息をついていた。

 俺は何がなんだか分からない。

 そんな中、ベルブラテスは俺の手を握って、一人だけ上機嫌で牢から出ていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚された美人サラリーマンは性欲悪魔兄弟達にイカされる

KUMA
BL
朱刃音碧(あかばねあおい)30歳。 ある有名な大人の玩具の開発部門で、働くサラリーマン。 ある日暇をモテ余す悪魔達に、逆召喚され混乱する余裕もなく悪魔達にセックスされる。 性欲悪魔(8人攻め)×人間 エロいリーマンに悪魔達は釘付け…『お前は俺達のもの。』

【完結R18】異世界転生で若いイケメンになった元おじさんは、辺境の若い領主様に溺愛される

八神紫音
BL
 36歳にして引きこもりのニートの俺。  恋愛経験なんて一度もないが、恋愛小説にハマっていた。  最近のブームはBL小説。  ひょんな事故で死んだと思ったら、異世界に転生していた。  しかも身体はピチピチの10代。顔はアイドル顔の可愛い系。  転生後くらい真面目に働くか。  そしてその町の領主様の邸宅で住み込みで働くことに。  そんな領主様に溺愛される訳で……。 ※エールありがとうございます!

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。

【完結】社畜が満員電車で「溺愛」されて救われる話

メグル
BL
ブラック企業勤めの桜田は、激務による疲労のため、満員電車で倒れそうになったところを若い男性に助けられる。 それから毎日、顔も合わさず、後ろから優しく支えてくれる男性の行動は、頭を撫でたり手を握ったりだんだんエスカレートしてくるが……彼は、「親切な人」なのか「痴漢」なのか。 不審に思いながらも彼の与えてくれる癒しに救われ、なんとか仕事を頑張れていたある日、とうとう疲労がピークを越える。 大型犬系(25歳)×疲れ切った社畜(29歳)の、痴漢行為スレスレから始まる溺愛甘やかしBLです。 ※完結まで毎日更新予定です  6話まで1日3回更新。7話からは1日2回更新の予定です ※性描写は予告なく何度か入ります

同室のイケメンに毎晩オカズにされる件

おみなしづき
BL
 オカズといえば、美味しいご飯のお供でしょ?  それなのに、なんで俺がオカズにされてんだ⁉︎  毎晩って……いやいや、問題はそこじゃない。  段々と調子に乗ってくるあいつをどうにかしたいんです! ※がっつりR18です。予告はありません。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

【完結】巨人族に二人ががりで溺愛されている俺は淫乱天使さまらしいです

浅葱
BL
異世界に召喚された社会人が、二人の巨人族に買われてどろどろに愛される物語です。 愛とかわいいエロが満載。 男しかいない世界にトリップした俺。それから五年、その世界で俺は冒険者として身を立てていた。パーティーメンバーにも恵まれ、順風満帆だと思われたが、その関係は三十歳の誕生日に激変する。俺がまだ童貞だと知ったパーティーメンバーは、あろうことか俺を奴隷商人に売ったのだった。 この世界では30歳まで童貞だと、男たちに抱かれなければ死んでしまう存在「天使」に変わってしまうのだという。 失意の内に売られた先で巨人族に抱かれ、その巨人族に買い取られた後は毎日二人の巨人族に溺愛される。 そんな生活の中、初恋の人に出会ったことで俺は気力を取り戻した。 エロテクを学ぶ為に巨人族たちを心から受け入れる俺。 そんな大きいの入んない! って思うのに抱かれたらめちゃくちゃ気持ちいい。 体格差のある3P/二輪挿しが基本です(ぉぃ)/二輪挿しではなくても巨根でヤられます。 乳首責め、尿道責め、結腸責め、複数Hあり。巨人族以外にも抱かれます。(触手族混血等) 一部かなり最後の方でリバありでふ。 ハッピーエンド保証。 「冴えないサラリーマンの僕が異世界トリップしたら王様に!?」「イケメンだけど短小な俺が異世界に召喚されたら」のスピンオフですが、読まなくてもお楽しみいただけます。 天使さまの生態についてfujossyに設定を載せています。 「天使さまの愛で方」https://fujossy.jp/books/17868

獅子帝の宦官長

ごいち
BL
皇帝ラシッドは体格も精力も人並外れているせいで、夜伽に呼ばれた側女たちが怯えて奉仕にならない。 苛立った皇帝に、宦官長のイルハリムは後宮の管理を怠った罰として閨の相手を命じられてしまう。    強面巨根で情愛深い攻×一途で大人しそうだけど隠れ淫乱な受     R18:レイプ・モブレ・SM的表現・暴力表現多少あります。 2022/12/23 エクレア文庫様より電子版・紙版の単行本発売されました 電子版 https://www.cmoa.jp/title/1101371573/ 紙版 https://comicomi-studio.com/goods/detail?goodsCd=G0100914003000140675 単行本発売記念として、12/23に番外編SS2本を投稿しております 良かったら獅子帝の世界をお楽しみください ありがとうございました!

処理中です...