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2.ますます怒らせた

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 突然の事態に戸惑っていると、俺を取り囲んだ奴らのうちの一人と目が合った。背の高い、美しいローブを着た男で、真っ黒な長い髪が、窓から入ってくる風に揺れている。

 誰だ…………?

 どっかで見たような気がするな……

 そうか……思い出した。

 領主様の御令息のベルブラテスだ。魔法の腕は誰もが目を見張るほどらしいけど、ひどく冷酷な男として有名で、得意技は、一瞬で周りを焼き尽くす炎の魔法。

 そして、ベルブラテスの周りには貴族たちが並んでいる。

 もしかして、円卓を囲んで会議中だった……とか?

 …………ますますやばい……

 領主様の城の会議に勝手に侵入したなんて、間違えましたじゃすまない。

「何者だ?!」

 そう叫んだ貴族の魔法使いたちが、俺に向かって一斉に杖を向ける。

 ど、どうしよう…………

「……す、すみません……み、道を間違えちゃったみたいで…………出口はどこですか?」
「……捕らえろっ……!! 侵入者だ!!」

 そう叫んだベルブラテスは、俺のことを恐ろしい目で睨んでいた。

 このままじゃ、俺は本当に侵入者にされる。

「ちっ……違う!! 侵入者じゃないっ! ほ、本当にっ……!! 侵入したくてしたんじゃないんですっ……! た、たまたま……気づいたらここにいただけです!」

 喚きながら周りを見渡す。

 だけど、周りの様子を見たら、俺の言っていることは信じてもらえない気がしてきた。

 円卓はぐちゃぐちゃだし、床には書類が散乱。俺が尻餅をついた水槽の中身は円卓に溢れている。

 ……まるでさっきここで魔物が暴れたみたいだ……

 侵入者である俺に向かって、幾人もの魔法使いたちが一斉に魔法を放つ。

 慌てて俺は、自分の周りに結界を張った。魔法使いたちが放った魔法は、俺の結界に阻まれて、全て消えていく。

 それを見た周りの一同から、どよめきが起こった。

 ……ますます警戒されてしまったみたいだ……

 大勢の貴族の魔法使いに囲まれて、全員に敵意の目を向けられている。

「あの……」

 言い訳を考えていると、ベルブラテスが、俺を睨んで言った。

「貴様はなんだ? 城の会議に勝手に入ってきて……賊か?」
「違いますっ……! 俺はっ……」

 とにかく今は、敵意がないことを示さなくては。

 俺は、その場にすくっと立ち上がった。

 円卓の上に立つ俺に、ベルブラテス以外の全員が杖を向ける。

 俺、いい的じゃないか……せっかく貴族の魔法の的になりそうなところを逃げ出したのに、自分から的になりに来たみたいだ。

「俺は……その…………本当に、間違えただけなんです……」
「………………」

 しーーーーんと静まり返る部屋。

 誰もが黙って俺を睨む中、ベルブラテス様が一歩前に出て言った。

「……とにかく、降りろ」
「は?」
「円卓から降りろ。貴様がさっきから踏みつけているのは、俺が長年修復してきた魔法の道具だ」
「す……すみませっ……うわあっっ!!」

 飛びのこうとしたら、ベルブラテスの魔法の弾が飛んできて、驚いた俺は転んでしまう。
 魔法の弾は俺の結界に阻まれて消えたけど、俺の服は飛び散った水で濡れてしまった。

 足元にはさっき俺の尻を濡らした水が飛び散っていて、しかも、飛び退いた拍子に、水槽に足を引っ掛けてひっくり返したから、円卓も書類も水浸し。水槽はちょっと割れて、中に入ってた赤い水は全部円卓の上に広がって床にポタポタ落ちていく……お陰で床に散乱していた書類までびちょびちょ。液体の効果なのか、それに触れた書類からは煙が出ていた。まるで、ついさっきここで魔物が暴れたかのようだ。どう見てもこれ、もう修復できない……

 恐る恐る振り向くと、ベルブラテスは俺を睨んで言った。

「貴様……今のはなんだ?」
「え……?」
「俺の魔法を結界で防いだだろう」
「あ、はい…………」

 怖い顔のままのベルブラテス様を、そばに控えていた男が「これ以上話しては危険です」と言って止める。今ここにいる中では、一番体格が良くて、持っている杖も、魔法がかかった剣にもなるものだ。たぶん、ベルブラテスの護衛だろう。

「ベルブラテス様……賊と話しては危険です……どうか、お下がりください……」
「貴様は黙っていろ。ガレイウディス」

 けれどその男は、黙っていろと言われたにも関わらず、俺を睨んで言う。

「貴様……名は?」
「…………イノゲズって言います……」
「どうやってここに侵入した?」
「……飛行の魔法です……」
「城には結界が張ってあったはずだが?」
「け、結界? ……ありましたか? ……分かりません……」
「分からない? そんなはずはない。確かに結界は張ってあったはずだ。それを打ち破って、魔法の道具を狙ってきたのか?」
「ち、違うっ……俺はっ……本当にそんなことをしにきたんじゃありません!」

 言い訳を続ける俺の足元で、じゃらっと鎖の音がした。かと思えば、俺が踏みつけていた赤い水から鎖が飛び出して、俺をぐるぐる巻にして床に引き倒す。

「いっ……!!」

 いったあぁぁぁ……顎打った……

 床に倒れた俺の目の前に、ベルブラテス様の靴が近づいてくる。

「……貴様……ただで済むと思うなよ……」

 ますます怒らせたな……
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