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4.ふざけんな!

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 俺が連れて行かれたのは、町外れにある宿だった。平屋建ての真っ白な建物は、古くても広い、重厚感のあるお屋敷のようだ。

 そこまで俺を引っ張ってきた男は、フロントで鍵を受け取ると、俺を部屋まで連れて行き、中に突き飛ばした。

 部屋の中は、大きなベッドとソファがあって、掃き出し窓から明るい光が差し込んでいる。シンプルで小綺麗な部屋だけど、いきなりここまで無理矢理連れてこられて、床に突き飛ばされて、怖くて部屋まで冷たい雰囲気に感じる。

「な、何するんですか……」

 恐る恐る、俺を突き飛ばした男を見上げる。その人は、やっぱりまだ怒っているのか、ひどく冷たい顔で俺を見下ろしていた。まるで悪魔だ。
 そばに寄ってこられて凄まれると、怖くて何にも言えない。俺を睨む金色の目が野獣みたいで、全身が金縛りにあったかのようだった。

「なにを? 貴様が先に私のものを盗んだのだろう!」
「ぬ、盗む!? なんのこと……? 俺、他人のもの盗んだりしません!! 知りません!!」
「では、貴様の中に感じるこの力はなんだ? 剣を返せ!」
「それは……あ、あの……えーっと……怒らずに聞いていただきたいんですけど……その、お、俺……確かにその剣……知ってます……だけど、盗んだんじゃないんです!!」

 盗む気なんて、もちろんなかった。俺はあそこから脱出したかっただけだ。だけど、結果的には持ち出してしまい、最悪なことに、剣は崩れてもうないから、返しようがない。

 相手は本気でキレてる。いきなり俺の胸ぐらを掴み上げた。

「やはり貴様か……」
「ま、待ってください! 俺の話を聞いてくださいっ……! わ、悪気はなかったんです! その……お、俺……その、奴隷なんです」
「……なんだと?」
「い、いや……! 正確にはまだなんだけど、そうなる予定だったんです!! でも、その……急に廃棄処分って言われて……本当はそのまま処分されるはずだったんですけど、倉庫が爆破されることになったらたまたまそこに剣があって何かを足場にしないと窓まで届かなくて」
「……落ち着け。途中から何を言っているのか分からん」
「あっ……! す、すみませんっ!! だ、だから、その……俺、奴隷として連れてこられて、でも、売れなくなって、倉庫と一緒に爆破されるところだったんです。それで、逃げるときに、そこにあった剣で窓を割って……多分、あなたの剣って、それだったんだと思います」

 慌てて説明すると、その人は俺から手を離してくれた。けれど、その人の仏頂面は変わらない。

「まだそんなことをしているのか……」
「え?」
「剣はお前が盗んだということで間違いないんだな?」
「は、はい……あっ! いえ!! 違うんです!! ぬ、盗んでなんかないです!! た、ただ、に、逃げるのに夢中で……そんなこと考えてる時間なかっただけです!! だって、あんなところにある剣が大事だなんて思わないし……」
「大方、私のところに来る予定だったものがそこに混じり込んだのだろう。だが、だからといって私の剣を足蹴にしてただで済むと思うのか!! さあ! 返せ!」
「そんな……無理です……あ、あの、これならあるんですが……」

 俺はポケットから、あのかけらを取り出した。けれど、持ち出した時はあれだけ輝いていたのに、それはもう全く光っていない。
 それを見た相手の男は、ますます怒ってしまったようで、今にも飛びかかってきそうな顔で言った。

「貴様の中にかすかに剣の力が見える……すでに剣の魔力は全てお前の体に取り込まれている……」
「……そ、そんなこと、あるんですか……??」
「お前にかかっている魔法の効果だろう。一体どういうつもりだ?」
「ま、待ってください!! その魔法、俺がかけたんじゃありません!!」
「だが、お前が剣を持ち出したことは事実だ。くそっ……!! あれがないと、魔力が戻らないっ!」
「魔力? ……どういうことですか?」
「……私は、この辺りの砂浜に海からの魔力が侵食していると聞いて、遠征に来ていたんだ。そこでトラブルがあって、だいぶ魔力を失ってしまった。魔力を溜めたあの剣で回復してから帰る予定だったんだ!!」
「そ、そうだったんですか……すみません……」
「すみませんじゃない。どうしてくれる……」
「ご、ごめんなさいっ! 帰れなくなっちゃったんですか? だ、誰かに迎えに来てもらえないんですか?」
「魔力を消耗した状態では帰れない。城は今、度重なる戦闘で疲弊している。今、私が情けない姿を見せれば、権力争いを助長することになる!! 私は弱ったところを見せるわけにはいかないんだ!」
「……」

 えっと……こ、この人、何言ってるんだろう。

 城とか、権力とか。

「あ、あの……あ、あなたは一体……」
「……気付いていないのか?」
「え!?」
「私は魔族の王。魔法を極めて、必ずこの国を繁栄に導く。それが、私の使命だ」

 金色の目が怪しく光って、真剣な顔をしている彼は、嘘をついているなんて思えない。

 だけど……え? え……? な、なに? 今の……魔王って言った!?

「あ、あなたがっ……ま、魔王……さま?」
「ああ。どうした? そんな奇妙な顔をして」
「き、奇妙じゃない……だ、だけど……あ、あなたが魔王様?」
「何度も聞くな」

 ふん、とそっぽを向かれて、これまで溜めてきた怒りが一気に膨らんで暴発した。

「ふ、ふざけんな!! お、お前のせいで、俺がどれだけ苦労したと思ってるんだ!!」
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