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第一章、初めての告白
3.心配
しおりを挟むオーフィザンの部屋に連れてこられ、半ば無理矢理ソファに座らされたセリューは、そこで他に怪我をしたところがないか調べられ、森の様子の報告を終えた。
セリューからの報告を聞いたオーフィザンは満足げに頷き、セリューに笑顔を見せてくれる。
「よくやった。セリュー。やはりお前に任せて正解だった」
主人からの賛辞は、何よりの褒美だ。セリューはほころびそうになる顔を引き締め、一礼した。
オーフィザンは、上機嫌に続ける。
「明日俺は、森の様子と被害を確認しにいく。お前はダンドと城を守れ」
「承知しました……」
セリューが返事をしたところで、部屋にダンドが入ってきた。上機嫌なオーフィザンとは違い、彼は鋭い目でオーフィザンを睨みつける。
「オーフィザン様、捕まえた奴、地下の牢に押し込んできました。単独犯です。酒場でまがい物の杖つかまされて、勘違いしたみたいです」
ダンドが持っていた細く短い杖をオーフィザンに放り投げる。
たまに城の敷地に入ってくる者の中には、粗悪な魔法の道具を手に入れ、いたずら感覚でオーフィザンにちょっかいを出してくる者もいる。今回もその手のものだったらしい。
オーフィザンは頷いた。
「……よくやった。ダンド」
「捕まって怯えてるみたいですよ。作り出した魔物がやられるなんて、思ってなかったんでしょう。あいつ、どうします?」
「あいつの処遇は、明日、俺が森の被害を確認してから決める。お前はしばらくセリューの補助に回れ」
「はーい」
オーフィザンは、今度はセリューに振り向いた。
「セリュー、明日の朝、日が昇った頃に出かける。準備をしておけ」
「承知しました」
もとより、そのつもりだった。
しかし、後ろからダンドがセリューの腕を掴み、いつもの咎めるような口調で割って入ってくる。
「オーフィザン様、さっきの俺の話、聞いてました? 準備なら俺がしますから、セリューのことは休ませてください。最近、なんでもセリューに押し付けすぎです」
そんなことは気にしていないと何度も告げたのに、ダンドはよりにもよって主人に詰め寄っていく。
「いくら魔法の槍をもたせたからといって、人族であるセリューを、魔物と連日戦わせるなんて、正気の沙汰とは思えません。セリューはあなたの武器じゃないんです」
「おい! ダンドやめろ!!」
セリューは慌ててダンドを羽交い締めにして止めるが、ダンドは引かない。彼にはどうも、主人に対する敬意が足りない。オーフィザンは全く気にしていないようだが、セリューの方が気になる。それに、オーフィザンに仕事を任されることは、セリューの何よりの喜びだ。
しかし、ダンドの方にも引き下がれないものがあるらしく、セリューが止めても、おとなしくなる気配はない。
二人がもみ合っていると、オーフィザンはソファに座ったまま、ため息をついて言った。
「魔物の群れを相手に、あれを守る任務など、セリューにしか任せられない。それに、だからこそ、今日はお前を行かせているんだろう」
「俺がいるからって、セリューに危険が及ばないとは限りません。魔物が相手ならオーフィザン様が行けばいいじゃないですか!」
「俺は谷の方に出た銀竜どもの相手をしていたんだ」
「それは言い訳です。状況を見て、城や森を警備する為の人員を増やすべきです」
「お前、最近口煩さに磨きがかかったな」
「誤魔化さないでください!」
ダンドはあろうことか、オーフィザンを怒鳴りつける。
さすがにもう放っておけない。
セリューは渾身の力を込めて、ダンドをオーフィザンから引き離した。
「ダンド! いい加減にしろ!! やめろと言っているだろうっ!!」
「セリューは黙ってて! みんなオーフィザン様に甘すぎなんだ!」
またもみあいになってしまう二人を、しばらくオーフィザンは黙って見つめていた。そして軽く噴き出し口元を押さえる。
それに気づいた二人が、何がおかしいのかと思って振り向くと、オーフィザンは笑いをこらえながら言った。
「魔物を操っていたやつも見つかった。セリュー、今日はもう休め。ダンドがよく眠れる夜食を作ってくれるらしいぞ」
「え……や、夜食? しかし……」
「いいから行け。ダンド、セリューを頼んだぞ」
ダンドが憮然としたまま頷き、それを見て、オーフィザンはニヤリと笑って立ち上がる。
「では、頼んだぞ。二人とも今日はよくやった。明日までゆっくり休め。ダンド、お前は明日の朝までにクラジュのためのクッキーを焼いておけよ」
そう言って、オーフィザンは笑顔で部屋を出て行った。
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