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第一章、初めての告白
2.触れないで
しおりを挟む城に戻ると、玄関に、長い黒髪の長身の男が立っていた。城の主であるオーフィザンだ。
主人が喜んでくれることはとても嬉しいが、もう夜も更けた時間だし、まさかオーフィザンが待ち構えていたかのように、わざわざ玄関で二人を迎えてくれるとは思っていなかったセリューは、恐縮し、あわてた。
「お、オーフィザン様! な、なぜここに……」
「お前たちを待っていたに決まっているだろう。魔物を操っていた奴はそれか?」
オーフィザンは、ダンドが抱えていた男を指差す。
「はい。放たれた魔物は全て破壊しました。被害はありません」
ダンドからの報告を聞き、オーフィザンが満足げに頷く。
「よし……ダンド、お前はその男を地下へ連れて行け。後で俺がいろいろ聞き出す。セリュー、お前は森のことを詳しく報告しろ」
「承知しました」
すぐに返事をしながら、セリューは主人から与えられた任務を果たすことができたのだと思い、この上ない達成感に包まれた。全身全霊をかけてオーフィザンに仕えることこそが、セリューの喜びだ。
しかし、ダンドの方は不満そうにオーフィザンに意見する。
「オーフィザン様、報告なら俺がします。セリューは昨日から、次に魔物が現れる場所を予測していて寝ていないんです」
「それは分かっている。だが、報告はセリューにさせる」
「……なぜですか?」
「ついでに怪我の治療するからだ」
オーフィザンがセリューに向き直る。まさかこんな小さな傷を見つけられてしまうとは思っていなかったセリューは、驚き焦ってしまう。
セリューやダンドが怪我をした時、オーフィザンはいつも魔法で治してくれるのだが、セリューはその魔法が苦手だった。
「セリュー、怪我をしたところを見せろ」
「い、いえ……これは……」
セリューが隠そうとしても、オーフィザンは無理矢理セリューの襟元を掴み、その服をはだけさせてしまう。
丸見えになった首の小さな傷に、オーフィザンは軽く舌を這わせた。
途端に、そこがくすぐられるような感覚がして傷口は塞がっていく。
治療のため、それは分かっていても、肌を晒され、そこに触れられるのには抵抗がある。セリューはじっと、腹の奥に力を入れて治療が終わるまで耐えた。
傷口が完全に塞がってから、オーフィザンはやっとセリューから離れてくれる。急いで開いた胸元を直して、セリューはオーフィザンに頭を下げた。
「か、感謝いたします……オーフィザン様……」
頬も耳もじんわり熱い。この治療の魔法をかけられると、いつもこうなってしまう。今は顔も赤くなっているはずだ。セリューは顔を上げてからも、まっすぐオーフィザンの方を向くことができなかった。
じっとそれを見ていたダンドが、オーフィザンを睨みつける。
「オーフィザン様……その魔法、なんとかならないんですか?」
「これが一番早い」
「薬を塗って休めば済む話です。セリューはずっとオーフィザン様のせいで働き詰めなんだから、報告は俺がします」
ダンドがそう言っても、オーフィザンは今回の成果が余程嬉しかったのか、笑ってセリューに言った。
「行くぞ。セリュー。他に怪我がないか見てやる。休むなら俺の部屋で休めばいい。成果を報告しろ」
「……は、はい……」
「ダンド、お前は先に拘束した男を地下に連れて行け」
「オーフィザン様!! 待ってください!」
呼び止めたダンドに、オーフィザンはとぼけた顔で振り向く。
「なんだ?」
「……………………セリューに手を出さないでくださいね」
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