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4.既視感
しおりを挟む訝しみながら、俺はコンビニで一番高い水をレジへ持って行った。
カウンターの向こうで椅子に座り、多分売り物であろう雑誌を広げた店員が、俺に振り返る。そして愛想もなくレジを打つと、釣りを渡して水のボトルに店名が書かれたテープを適当に貼って、すぐに雑誌を開いた。
水を持ってハントの元に戻ると、ずっとこっちを見ていたハントと目があった。そいつはまっすぐに、脇目も振らずピンと背筋を伸ばして、それでいて笑顔で、じっと、俺が戻るのを待っている。
なんでそんなにじっと見てるんだ。なんなんだ……こいつ。
「ほら、水……」
「ありがとうございます」
ハントは微笑んで、俺から水を受け取る。だけど、そいつがキャップを回そうとしても、一向に開く様子がない。
世話の焼けるやつだ……まあいい。ここは、親切なフリでもしておくか。
「貸せよ。開けてやる」
「ありがとうございます。あなたは本当に親切な人だ」
「まあな」
単純なやつ。
だが、感謝されれば俺も嬉しい。
軽くキャップを捻ってボトルを開けてやると、ハントはにっこり笑って礼を言う。
なんだかこういうこと、昨日もあったような気がする。
どこだったかな…………
そうだ。思い出した。
俺、昨日ハントに会ったんだ。居酒屋で。そこで隣の席に座って酒飲んでたのが、ハントだ。
その時も思ったんだ。金持ってそうだって。金持ってるくせに、その使い方も知らないカモっぽいって。だから俺から話しかけたんだ。
「なあ、俺、昨日お前に……もしかして絡んだ?」
聞いてみると、ハントはにっこり微笑んだ。
「絡んだ、というより、近くにバス停があることを教えてもらいました」
「やっぱりか……」
「あなたがあまりに酔っていたから、あのバスに乗せたんです。家はまだ先だって言ってたのに、途中で降りていってしまうから、帰れたのか心配だったのですが…………大丈夫でしたか?」
「ああ……多分、降りる場所を間違えたな。酔ってたからなー。俺」
「多分そうだろうと思いました。牛丼屋でもぐったりしていたから、心配で声をかけたんです」
「あー……そっか。悪かったな……お前もバス停で寝て帰るところか?」
「まさか。僕は、家の近所に買い物に出た途中でした。だけど、帰る途中で疲れちゃって……あなたに会えてよかった。雨も上がったし、そろそろ行きましょう」
「あ、わり……先にタバコ吸ってくる」
「タバコ……? でしたら、この水を買ってきてくれたお礼に、先ほど渡したお金で好きなだけ買ってきてください」
「え……い、いいのか!?」
「はい。もちろんです。タバコ、ゆっくり吸ってきてください」
「ああ……あ、ありがとう。タバコ買ったら返すよ!!」
俺はレジに急いだ。
俺はついている。こんな奴に会えるなんて。今の一箱がなくなったらどうしようと思ってたんだ。
レジへ行って、ハントに振り向くと、そいつは今度は、もう雨が上がった外を、じーっと見つめていた。その髪が、まだ濡れている。さっき雨に降られた時だろう。それが妙なくらい気になった。
体、弱いみたいだし、風邪でもひかれたら寝覚め悪いか……
タバコと一緒にタオルも買って、俺はハントのところに戻った。
「ほら」
「え?」
俺が渡したタオルを見て、ハントは何をされてるのか分からないようだった。首を傾げている。
いや、もしかしたら、タオルも知らないほどの世間知らずなのかも…………さすがにそれはないか。
俺はそのタオルで、適当にハントの、まだ濡れている頭を拭いた。
「これで拭いとけ」
すると、ハントは聞いているのかいないのか、突然両手で俺のタオルを動かす手を握ってきた。
「うわっ……! な、なにすんだよ!!」
「ここ……手の……人差し指の下です。傷がある……」
「ん? ああ……昨日、書類いじってて切ったんだ。それが何だよ!!」
「すみません……血が出ているように見えたので……手当てした方がいいんじゃないんですか?」
「いらねーよ……もう、血だって止まってる。必要ないっ……! 離せっ……!」
振り払うと、ハントはどこか恨めしそうに、俺を見上げている。
「そうですか……じゃあ、もっと大きな怪我をしたら、僕に見せてください」
「……見せねえよ」
なんだこいつ……気味の悪いやつだ。金づるじゃなかったら、ぶん殴ってるぞ。
「……あとは自分でやれ。タバコ吸ってくる」
そいつを置いて、外に出る。金のことを考えながらタバコを吸うと、苛立っていた心も落ち着いた。
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