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83.てっきり

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 フィレスレア様が去って行ってから、執事の方は、「場所を変えましょうか」と言い、私を城の中に連れて行った。

 広間からは少し離れた廊下は、広い庭の光が窓から入り、とても明るい。
 今朝は早くから魔物がいないか見回りに行っていたけど、この辺りはとても静か。最近は魔物の数も、少し減ったような気がする。

 前を歩いていたホウィンドーグ様に向き直ると、彼はちょうど立ち止まり、私に振り向いた。

「改めまして、リリヴァリルフィラン様。私はランフォッド家に使える執事、ホウィンドーグと申します」
「……お会いできて、光栄です。リリヴァリルフィランですわ……」

 私も名乗ると、彼は私の前で頭を下げてしまう。

「申し訳ございません。黙って監視するような真似をしてしまいました」
「い、いえ……どうか頭を上げてください。驚きましたが、名乗らなかったのは私の方です」
「無理もありません。私の方が、意識的にあなたとの会話を避けていましたから」
「……」

 確かに……一度ジレスフォーズ様のお部屋に向かった時にお会いして、その時にご挨拶はしたのですが、思いっきり無視された。

 とは言え、今はそんなこと、どうでもいい。なぜランフォッド家の執事の方が、素性を隠してジレスフォーズ様のお城にいらっしゃったのでしょう。

 私は、緊張しながら、相手が口を開くのを待った。

「リリヴァリルフィラン様」
「……は、はいっ……」
「イールヴィルイ様が、あなたに求婚したいと口走ったというのは事実ですか?」
「……っ!!」

 やはり、そうくるか……

 わざわざランフォッド家の方が、夜会のずっと前から、ここにいらしたのだ。そのことが関係していないということはないだろう。

 どうしましょう……はっきりお話ししていいのかしら……

 下手なことを言えば、閣下にご迷惑がかかるのではないかと思い、悩んでしまう。
 すると、ホウィンドーグ様の方が先に口を開いた。

「リリヴァリルフィラン様……答えられませんか? では、もしも、イールヴィルイ様に求婚されたら、どうなさるおつもりですか?」
「どうも致しません」
「……」

 執事の方が、驚いて顔を上げる。私がそう言い出すとは思っていなかったのかしら。

 けれど、それは私を舐めすぎですわ!

「身分違いなことは、重々承知しております。分不相応なものを求める気もございません。何しろ、貴族でなくなる原因を作ったのは私自身。私に、魔力がほとんどないことも事実です。ですから、私はこれから、街へ向かいます。そこで、誰よりも魔物退治の腕を磨いてやりますわ!」
「…………」
「予想と違って、驚きましたか? 私の思いを舐めないでいただきたい。確かに、閣下のことは愛しています。だからこそ、魔力などなくとも、誰よりも閣下をお守りできる魔法使いになってやります! そうしたら、あなたも、私が閣下をお守りする魔法使いとなる邪魔をできないはずですわ!」

 キッパリと申し上げると、ホウィンドーグ様は少しの間、黙っていた。

 驚いていらっしゃるのでしょう。けれど私、閣下に近づくわるい虫として追い払われてやる気はございませんわよ!

 しばらく黙ってから、ホウィンドーグ様は口を開く。

「あ、愛して……そうですか。予想以上です。では、リリヴァリルフィラン様。あの方のことを、奥手なゲスとか、独占欲強めのクズとか、拷問好きのクソ男とは、考えておられないわけですね?」
「………………え、ええ……もちろんですわ……」

 この方……何をおっしゃっているのかしら……ゲスだのクズだの……この方は、ランフォッド家に仕えておられるはずなのに。

 けれど、ホウィンドーグ様はニコニコして、魔法で取り出した本のような魔法の道具に何か書き込んでいた。

「なんて素晴らしい……予想以上のことが聞けました」
「あの…………」

 どうしましょう……今度は、私の方が困ってしまう。
 てっきり、ランフォッド家に言われて、私をイールヴィルイ様から遠ざけるために来たのかと思ったのに。
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