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58.横取りです
しおりを挟む「今は、イールヴィルイ様とトルティールス様がデシリー様と会談中なのでしょう? それなのに、こんなところで揉めている場合ではありませんわ! あなただって、アクルーニズ家を失脚させたいと、そう考えているのではありませんか!?」
私が言うと、エウィトモート様はすぐに顔をそむけてしまう。
「そんなことないよ……」
「それなら私のことなんか、さっさと魔法で貫いて、短剣を奪えばよろしいではありませんか」
「…………」
エウィトモート様は、少しの間、黙っていた。
本当に魔法を撃たれたらどうしよう……
そんな恐怖もよぎるけど、閣下と話していた時のエウィトモート様のことを思い出したら、そんなの杞憂だって思えた。
エウィトモート様は、肩をすくめる。
「……参ったな……思っていたより面倒臭い……」
「あなたにそんなこと、言われたくありませんわ! 陛下や閣下を裏切る気がないのに、なぜ封印の魔法の杖を回収することができないのです?」
「俺んちはアクルーニズ家のコネで王城に仕えていられる弱小貴族なんだよ……アクルーニズ家にそっぽ向かれたら、俺らは飯も食えなくなっちまう」
「それなら余計に、私に協力してください! キディックはこうして発見されましたし、アクルーニズ家を糾弾することはできます! エウィトモート様! 今がチャンスですわ! もう一度、探知の魔法で、封印の魔法の杖を探してください!」
「……一応聞いておくけど、なんで?」
「杖がないか、確かめておきたいのです。あのデシリー様が、手をこまねいて、あなたがたに自由に城内を歩かせていたとは思えません。それに私、あなたのご事情をまるで無視してこんな話をしているのではありません。あなたにしてみれば、封印の魔法の杖を探すことは使命であるはず。あなたはただ陛下から与えられた使命を果たすだけでいいのです」
「だから。俺は一族から、アクルーニズ家には逆らわないように言われてるの」
「ご安心ください。どうやって探し出したかと聞かれても、私、あなたのことなんか話しません。あなたと私は、こうして会ってもいない。封印の魔法の杖を探し出したとしても、それは私とキディックがたまたま見つけただけです。私とキディックで、あなたの手柄は横取りですわ!」
胸を張って言うと、彼は少し驚いたようだった。
「…………俺……手柄横取りされるの?」
「ええ。もちろん。なにしろ皆様に筋金入りの極悪令嬢と評価されているくらいですから!」
「……」
彼は少しの間黙って、やがてため息をついて頭をかいた。
「……仕方ないな……じゃあ、やって…………ごふっ!!」
彼が突然苦しみ出しかと思えば、彼の体に何かめり込んでいる。何かと思えば、それは竜の形をした使い魔だった。イールヴィルイ様のものかと思ったけれど、それは、トルティールス様の使い魔のようだ。
「と、トルティールス様!? 何をされているのです!? デシリー様に呼ばれたのでは……」
『ジレスフォーズに魔物討伐の件で話があったので、そっちはイールヴィルイに任せて出てきたのです。そしたら庭の方であなたに杖を向けるエウィトモートの姿が見えて……エウィトモート! 僕はこれ以上の面倒ごとはごめんです!』
そう怒鳴られて、エウィトモート様は、竜がめり込んだ腹を押さえながら起き上がる。その頃には、使い魔は消えて、トルティールス様ご本人が空から飛んできていた。そして早速エウィトモート様を怒鳴りつける。
「一体何をしているのですか!!」
「……どこから出て来たんだよ……俺らの話、聞いてたの?」
「はい。全て聞いていました。最初から! エウィトモート!! この場で引き裂かれたいのですか!?」
「……悪かったと思っているよ……だけど、俺は……」
言い淀む彼に、トルティールス様は迫っていく。
「おかしいとは思っていました……どういうつもりですか? アクルーニズのコネなどなくても、陛下はあなたを離しません。あなたの能力を誰よりも高く買っているのは陛下です」
「……エウィトモート……」
「それに、あれだけいた使者候補に襲い掛かり、使者の座を奪い取ったイールヴィルイについてくる様な度胸のある方は、あなたくらいです」
「……え? 俺の存在価値、そこ? お前も来てるじゃん」
「僕は陛下に頼まれて仕方なく来ているんです! それに、弾除けのあなたがいなかったら来ていません!」
「……弾除け……?」
「あなたの存在は、陛下にとっても、僕達にとっても不可欠だという話をしているのです。あなたの魔法だって、陛下は高く買っています。でなければ、自分を危うくした杖を探すなんて重要な役割、任せるはずがないでしょう?」
「エウィトモート……」
私も、腕を組んだ。
「だから申し上げたではありませんか……あなたのコネがなくなるかも、なんて不安は、杞憂に過ぎませんわ。あなたのことを、閣下も陛下も買っています。それは私にもすぐに気づけるようなことでしてよ?」
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