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47.消えろよ!
しおりを挟む私と閣下が部屋に戻ると、一人部屋に残っていたキディックが、薔薇の花瓶の周りを飛び回っていた。
「おーそーい!! 何してたの? 封印の魔法の杖は見つかった?」
「いいや……何をしているんだ?」
閣下の問いに、キディックは、楽しそうに飛び回りながら答える。
「久しぶりに地上に出たんだよ? いっぱい飛び回りたくてーー」
「自分で探知の魔法を妨害しておきながら、何を言う」
「なんのことかなー? 僕、分からないなーー。ちょっとひどいんじゃない? 僕を結界の森に閉じ込めておいて、今度は僕を疑うの?」
「貴族の屋敷で、そこにいた全員の魔力を奪ったのはお前だろう」
「さあ? なんのこと? 僕は全然知らない」
そう言って、キディックは今度は私の周りを飛び回る。
「リリヴァリルフィランー。あの男がいじめるー」
「キディックさん、閣下は虐めているわけではありませんわ。それに、貴族の屋敷で魔力を奪ったというのは、本当ですか?」
「僕は魔力の味が好きだから、ちょっともらっただけだよ。リリヴァリルフィランのは……どんな味かなぁ……」
「……魔力には味があるのですか?」
さっきまで小鳥のように飛び回っていたかと思えば、急にこんなことを言い出す……油断のならない竜だ。
閣下やトルティールス様も、キディックを警戒しているようだし、私が不用意に気を許すわけにはいかない。
楽しそうに飛び回るキディックの羽を、閣下は軽く摘んで捕まえた。
「キディック…………リリヴァリルフィランに近づくな…………貴様も、話す口だけあればいい。それを忘れるな……」
「脅しかなぁ……? それが僕に効くと思ったー?」
……なんだか、険悪な空気……
お二人とも、相手のことが気に入らないご様子。
私は二人の間に入った。
「お二人とも、どうかやめてください。喧嘩をしても、始まりませんわ…………きゃっ……!」
当然キディックが近づいて来たかと思えば、彼は私に飛びかかってきた。肩の辺りに爪を立てられたような気がしたけれど、それは一瞬で、痛くもなんともない。
飛び回るキディックは小動物のようで、それが突然爪を立てたようなものでしょうか。けれど、あまり驚かせないでほしい。
小さな竜は、私を見下ろして、ひどく残念そう。
「……リリヴァリルフィラン……本当に魔力ないんだ……魔力を奪おうとしたのに、全然奪えない……」
「よっ……余計なお世話ですわ! キディックさん! 悪ふざけがすぎますわよ!!」
「…………こんなに魔力のない人、初めて……」
「失礼な竜ですわね……私はそんなものなくても痛くも痒くもありませんわ!」
「えーー…………信じられない……」
ふざけたように言うキディックに、閣下は、魔法で作り出した剣を向けた。そばにいるだけで、ゾッとするような雰囲気……震えてしまいそう。それなのに、彼は微笑んで私に振り向く。
「リリヴァリルフィラン、下がっていてくれ……」
「か、閣下……ど、どうか……落ち着いてください……キディックさんを殺してしまっては、封印の魔法の杖が作られた経緯は分からないままです」
「もちろん、殺しはしない。ただ、しばらく黙らせるだけだ」
そう閣下が答えれば、今度はキディックが閣下に向かって牙を剥く。
「僕とやる気? いいよ? お前のことは、早めに殺したかったんだ」
「……やってみろ……」
「じゃあ、外でやる? 心配しなくても、お前が負けるまでは逃げないでおいてやるっっ!!」
叫んだキディックが窓から飛び出していき、閣下もそれを追って魔法を使って空を飛んでいく。
「そこにいてくれ。リリヴァリルフィラン。すぐに戻る」
「お待ちください! 閣下!」
私が叫んでも、閣下はキディックを追って行ってしまう。
そしてそれと入れ替わるかのように、部屋の扉を開けてトルティールス様が入って来た。
「リリヴァリルフィラン? なんの騒ぎですか?」
「と、トルティールス様!! 閣下とキディックが言い合いになってしまって……お二人とも、外に飛び出して行ってしまったのですっ……」
「そうですか。放っておいてください」
「え……? で、でも……」
「大丈夫です。イールヴィルイは、一晩竜と戦ったくらいでくたばるような男ではありません。キディックも長く地下にいたのです。少しは飛び回らせてやった方がいいでしょう。心配しなくても、城の周りには結界を張っています。一晩くらいなら、キディックが逃げることもないはずです。リリヴァリルフィラン、今日はもう、お休みになっていただいて結構ですよ」
トルティールス様はそう言いますが、本当に大丈夫でしょうか……
そう思って窓から外を見上げるけれど、すでにそこに、閣下とキディックの姿はなかった。
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