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19.同じ意味
しおりを挟む風呂から上がった私は、鏡に映った自分の姿を見て、気持ちを引き締めていた。
私はこの城で精一杯の虚勢を張って、誰からも自分を守ってきた。
魔力もろくにない、魔法も大して使えない上に、婚約者でもなくなり厄介者扱いされた私が、この城で生きてこられたのは、こうして強く自分を保ってきたから。
そうでなければ、もうとっくにデシリー様かフィレスレア様に殺されていた。
それなのに、今更この様はなんなの?
無様に慌てふためいて取り乱し、挙句の果てには半裸でおろおろと右往左往なんて!
しっかりしなくては。そう思って鏡を見つめると、先ほどデシリー様に牢獄の魔法で切られた傷が、すでに癒えていることに気づいた。牢獄の魔法が打ち破られた際に回復の魔法をかけてくださっていたのでしょう。
なぜ……私にそんなことをしてくださるのかしら……
髪を乾かし、ナイトウェアを着て、私は脱衣所から顔を出した。
けれど、部屋に閣下の姿はない。
キョロキョロしていると、閣下はバルコニーに出て、空を見上げていた。その先には小さな竜が飛んでいて「リリヴァリルフィランと仲良くねー」と言って羽を振っている。もしかして、探していた竜かと思ったが、私が見た竜とは違うようだ。
竜は、閣下に背を向け飛んでいった。
私と仲良く? どういう意味……??
竜は閣下と親しいようだし、もしかしたら、使者の一人なのかもしれない。使者の方々の中には、竜族の方もいたはずだ。
私は、恐る恐る閣下に声をかけた。
「閣下……先ほどの方は……」
「さっきの竜の話……聞こえていたのか……?」
振り向いた閣下は、ひどく強張った表情をしていた。
さっきの竜と、何か聞かれたくない話をしていたのかもしれない。あの竜が使者なら、きっと封印の魔法の杖に関する機密の話だ。
しかし、私が聞いたのは、機密でもなんでもないようなこと。それなら早く教えて、安心させるべきだ。
「……申し訳ございません。お話が聞こえてしまって……」
「……どのあたりから聞いていた……?」
「竜の方がおっしゃった、リリヴァリルフィランと仲良く、と言うことしか、聞いておりません」
すぐに答えるけれど、閣下は頭を抱えてしまう。
一体どうしたの? そ、そんなにショックなこと!? 私と仲良くと言われたことが!?
やはり、閣下は陛下を傷つけた私たちを憎んでいるのか……
けれど、そんなにショックを受けなくてもいいではありませんか!!
いえ……きっと先ほどの話は、使者の方同士の内密な話。
私には「リリヴァリルフィランと仲良く」というそのままの意味に聞こえたけれど、使者の方同士にしか分からない、秘密の意味があったのかもしれない。
それを聞いてしまうなんて、無礼なことをしてしまった。
ぐっと手を握る。
きっと、厳しい罰が下る。この城ではいつも理不尽な罰を受けてきましたが、今回悪いのは私の方。
私は、その場で丁寧に頭を下げた。
「閣下……本当に申し訳ございません……どうかお許しください……」
「いいや……いい」
「へ!!??」
閣下は部屋の中に入っていく。
そして、バルコニーの前で立ち止まったままの私に、すぐに振り向いた。
「リリヴァリルフィラン? どうした?」
「ど、どうって……い、いいとは、どういう意味でしょう?」
「そのままの意味だ。気にしなくていい」
「そんな……わ、私は、聞いてはいけないことを聞いてしまったのですよね?」
「……っ……! ……聞いてはいけないこと、というわけではない……」
嘘です!! それならなぜ、そんな厳しい顔をして目をそむけるのですか!? きっと、大切な機密事項だったに違いない。それを聞いてしまった私に、罰がないはずがないのに。
それなのに、閣下は私に背を向けて部屋の中に入って行くだけ。一体、どういうこと……?
罰があるなら早くしてほしい。怯えながら待つのは辛い。
動けないでいると、彼はもう一度、私に振り向いた。
「リリヴァリルフィラン」
「は、はいっ……!」
「……俺があなたに罰を与えることはない。それに、聞いてはいけない話だっというわけでもない。ただ……」
「ただ……?」
「……あなたの前で、リリヴァリルフィランと仲良く、と言われて……恥ずかしかっただけだ…………」
「…………?
どういうことかと思って顔を上げる。すると、閣下は真っ赤になった顔をそむけて俯いていた。
怒ってる……? ではなくて、もしかして照れているの? なぜ…………
そんな顔をされると、私までおかしな風に心臓が高鳴る。
何をしているんでしょう……私は。
私まで彼と同じように顔をそむけて、何も言えなくなってしまった。
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