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17*イールヴィルイ視点*手口
しおりを挟む苛立つ俺を宥めるかのように、陛下の使い魔が俺を見上げて口を開く。
『イールヴィルイ、分かっているな? 行方不明の竜が見つかるまで、リリヴァリルフィランとは距離を置け』
俺は「勿論分かっています」と答えた。
領主の城でわがまま放題に振る舞う悪女にすでに籠絡された男が、陛下を傷つけた封印の魔法の杖を探しに来た……そんな話を広められれば、リリヴァリルフィランを責める口実を与えることになる。
デシリーがフォーフィイ家に手を回し、彼女を伯爵家に戻されれば、おそらく彼女を連れ出すことは二度とできない。
「フォーフィイ家は動きましたか?」
『まだだ。しかし、デシリーに利用されるくらいならリリヴァリルフィランを呼び戻すという話は出ているらしい。お前が竜を見つけてデシリーを追求するまでは、リリヴァリルフィランには近づくな…………って言ったのに、何してんだ、お前』
「……仕方がないでしょう……連れてこなければ、リリヴァリルフィランは殺されていました。おそらく、今夜中に」
『だろうな……リリヴァリルフィランを自殺に見せかけて殺されて罪を認める遺書の偽造でもされたら困る。いい加減アクルーニズ家の罪を押し付ける手口にはうんざりしていた。リリヴァリルフィランのことは、距離をとってお前が守れ』
「はい………………」
『そんな暗い顔をするな……行方不明になった竜のキディックを見つけたら、あとは好きにすればいい』
「……この城もフォーフィイ家もアクルーニズ家も、俺が行って破壊してくるという案はどうでしょう?」
『ダメだぞ。絶対にダメだ』
「ですが、ここの状況はあまりに酷いのです。ジレスフォーズは領主としての役目を果たさずに、デシリー・アクルーニズが権勢を奮っています」
『……そうか……』
「デシリーは、全てをリリヴァリルフィランに押しつけて幕を引くつもりです。陛下のそばで封印の魔法を暴走させたのも、どうせアクルーニズ家の揺さぶりでしょう」
『だろうな。アクルーニズ家お得意の脅しだ。よほど俺に、王座を明け渡してほしいらしい。ついでに、対応の仕方次第で、俺を糾弾するネタにするつもりなんじゃないか? もうすぐ、王城で俺の即位を祝う宴が開かれる。そこでアクルーニズ家の連中に、リリヴァリルフィランの横暴を許しあの女に長く苦しめられたトレイトライルとフィレスレアを救わなかったと喚かれてはたまらない』
「トレイトライルたちは捨て駒ですか……」
『時期をみて殺すだろう。アクルーニズ家の方にやった間諜の情報だ。間違いない。封印の魔法の杖には、デシリーも必ず力を貸しているはずだ。それを知っている二人を殺せば口封じになる上に、俺の遣った使者は無能だと嘆いて、反俺派の連中を煽る気なんじゃないか? 何しろ、トレイトライルを誰よりも邪魔だと思っているのはデシリーだ。いずれトレイトライルが領主になれば、デシリーがそこで権勢を振るうことは難しくなるからな』
「……そんなことのために……リリヴァリルフィランを……」
『落ち着け……お前たちには、面倒なことを頼むことになるが、そっちは任せる』
「……はい」
『情けない話だ……俺のそばで魔法を暴走させた奴を咎めることもままならないとは』
「それが陛下のいいところです。アクルーニズ家は、優秀な魔法使いを集めて力をつけています。今、表立って敵に回せば、他の貴族たちを巻き込んだ争いになります。俺が、デシリーに囚われた竜を探します。あれが見つかれば、デシリーが封印の魔法を用意することに関与したと証明できます」
『祝宴までに頼む』
陛下の声は、珍しく憂慮に澱んでいた。俺たちをここにやる事態になったことを悔いているのだろう。
行方不明になった竜のキディック。デシリーがあれを連れ去ったのなら、恐らくキディックのことを利用している気でいるのだろうが、キディックはそんなに簡単に利用されるような竜じゃない。
あれは長く森に住む竜で、森で旅人を襲ったことを陛下に咎められたのを恨んで、デシリーに囚われたフリでもしているのだろう。
何しろあの竜は、以前にも似たようなことをしている。
竜の魔力を狙う貴族に囚われたふりをして、その屋敷に入り込んだ。
あの竜の好物は、他の種族の魔力。
数日後に俺がその屋敷に赴いた時には、貴族も含め、使用人まで、屋敷にいた全員が倒れていた。
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