8 / 96
8.先に話しておけば
しおりを挟む陛下を傷つけようとした封印の魔法の話は、陛下の腹心とも言われるイールヴィルイ様の前で軽はずみにするべきではない。
けれど、フィレスレア様のことですから、わざとやっているのでしょう。彼女はこう見えて策略家だ。
カッとなってしまいたいところですが、ぐっと抑えなければ。感情的になって怒鳴れば、使者たちの信頼を得ることはできなくなってしまう。
「……閣下。私はそんなつもり、毛頭ございません。どうか信じていただけませんか?」
怒りと恐怖を抑えて言うが、今度はダイティーイ様が口を挟む。
「陛下に刃を向けるようなものの言うことを、信じることなどできるものか!」
「あら……ダイティーイ様……その理論ですと……一番最初に刃を向けたのは私ではなくフィレスレア様、さらにそれを用意したのは貴方ということになりますが……よろしいのですか?」
「な、なんだとっ……!!?? 私に責任があるというのか!! な、な、なんて無礼なっ……!」
早速うろたえ始めるダイティーイ様。彼はとても単純で扱いやすいのですが……
私の物言いは、今度はデシリー様の神経を逆撫でしてしまったよう。
この城で一番恐ろしいデシリー様とは衝突したくないのですが、彼女は私を刺し殺してしまいそうな目をして口を開いた。
「リリヴァリルフィラン……あなたが全ての元凶なのに、城の中を自由に動き回ろうと言うのかしら?」
「はい。デシリー様」
「……本当に図々しい……」
「そんなに反対するなんて、デシリー様には、私が封印の魔法の杖を探すと困ることでもあるのでしょうか?」
「…………」
ふわりと冷たい風が吹いた。デシリー様の魔力でしょう。
優秀な魔法使いとして名高いデシリー様は、その有り余る魔力で、こうして脅しの代わりに魔法を纏うことがよくある。
まずい……怒らせすぎてしまったかしら……
そして、醜い水掛論を始めてしまったことは大きなミスだったらしい。閣下の私たちに向けられる目が、ひどく冷たくなってしまっている。
もう色々失敗している……このままでは、やはり私が元凶ということに!? 最悪断罪!? それは嫌っ……!
肝を冷やす私に、閣下は振り向く。
「リリヴァリルフィラン……俺と……ともに来たいのか?」
「え? ええ……使者の方々に、ぜひ協力させていただきたいのです」
「……そうか……」
「……」
「……」
閣下は黙ってしまう。やっぱりよほど私に不信感を持っているのでしょう。
シーンと静まり返る中、デシリー様が口を開く。
「イールヴィルイ様……その女が今、なぜそんなことを言うか、お分かりにならないわけではないでしょう? その女は、陛下のお命を狙っているのです。その女の横暴な振る舞いが、フィレスレアとトレイトライルを追い詰めたのです。それは周知の事実であり、その女のその態度を見れば、あなたにもお分かりになるはずです」
ニヤリと笑いながら、閣下に近づいていくデシリー様。
するとついに閣下は、デシリー様を突き飛ばしてしまった。
「寄るな。奸臣め」
「奸臣!? 私が!? なぜ私が!? 陛下の周りにいる魔法使いは、私が送って差し上げたのに……恩知らずめっ!」
……ますます事態が悪化していく……
デシリー様は、この城では最も恐ろしい方。
城に来てすぐに敵に回しては、城内で動きにくくなるのに。先に話しておけばよかった。
324
お気に入りに追加
803
あなたにおすすめの小説
気付いたら最悪の方向に転がり落ちていた。
下菊みこと
恋愛
失敗したお話。ヤンデレ。
私の好きな人には好きな人がいる。それでもよかったけれど、結婚すると聞いてこれで全部終わりだと思っていた。けれど相変わらず彼は私を呼び出す。そして、結婚式について相談してくる。一体どうして?
小説家になろう様でも投稿しています。
【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く
とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。
まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。
しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。
なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう!
そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。
しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。
すると彼に
「こんな遺書じゃダメだね」
「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」
と思いっきりダメ出しをされてしまった。
それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。
「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」
これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。
そんなお話。
ヒロインではないので婚約解消を求めたら、逆に追われ監禁されました。
曼珠沙華
恋愛
「運命の人?そんなの君以外に誰がいるというの?」
きっかけは幼い頃の出来事だった。
ある豪雨の夜、窓の外を眺めていると目の前に雷が落ちた。
その光と音の刺激のせいなのか、ふと前世の記憶が蘇った。
あ、ここは前世の私がはまっていた乙女ゲームの世界。
そしてローズという自分の名前。
よりにもよって悪役令嬢に転生していた。
攻略対象たちと恋をできないのは残念だけど仕方がない。
婚約者であるウィリアムに婚約破棄される前に、自ら婚約解消を願い出た。
するとウィリアムだけでなく、護衛騎士ライリー、義弟ニコルまで様子がおかしくなり……?
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
【完結】帰れると聞いたのに……
ウミ
恋愛
聖女の役割が終わり、いざ帰ろうとしていた主人公がまさかの聖獣にパクリと食べられて帰り損ねたお話し。
※登場人物※
・ゆかり:黒目黒髪の和風美人
・ラグ:聖獣。ヒト化すると銀髪金眼の細マッチョ
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる