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61.改めて決意

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 玄関のドアを開くと、そこには見慣れた二人、オーイレールとヴァルアテアが立っていた。

 オーイレールは、僕が玄関のドアを開けるなり、中に飛び込んでくる。

「トーラシュー! 体は? もういいのか?」

 オーイレールは、いつもうるさいくらいに元気だ。彼に、いつもと同じ人懐こい笑顔で言われて、僕もなんとか平静を装った。

「うん……だいぶ楽になったよ」

 だけどこんなの、適当に答えただけだ。まだ腕のアザだってそのままだ。
 僕は今、それどころじゃない。冷血な獣が、僕に向かって涎を垂らしているかも知れないんだから。

 オーイレールは「よかったな!」って言ったけど、ヴァルアテアには気づかれてしまったようで、すぐに、腕を取られた。手首を上げられ、着ていた服の袖が落ちると、まだそこにあるアザが露わになってしまう。

「まだ回復していないな……お前は人族なんだ。無茶をするな」
「……う、うん……」

 僕のことを心配してくれてるのは分かってるんだけど……リビングに置いてきたフュイアルさんが気になって、上の空。
 リビングの方が気になるのに、なかなかそっちに振り返ることができなくて、俯いていたら、ヴァルアテアが首を傾げて言った。

「どうしたんだ?」
「えっ……? な、何が?」
「今日は妙におとなしい。やはりまだ、寝ていた方がいいんじゃないか?」
「あ…………うん……」
「ベッドは確か、リビングにあったな」
「…………うん」

 うなずいたけど、今リビングに行くのは……
 だって、フュイアルさんがいる。フュイアルさんは、得体が知れない。あんな奴に、怯えたくなんかないのに。

 動けないでいたら、背後から、フュイアルさんの声がした。

「ヴァルアテア、オーイレール。やっときたんだ」

 こっちに向かって歩いてくるフュイアルさんは、職場にいる時と同じ様子で、ヴァルアテアたちに「遅いよ」って言ってる。

 ヴァルアテアも、いつもと変わらない様子で、無茶を言うなって答えていた。

「お前が急ぎすぎなんだ。お前が本気で飛んだら、俺たちでは追いつけない。そんなに急いで帰りたかったのか?」
「トラシュをここに置いて行ってるんだ。すぐに帰るのは当然だろ? 入って。食事の用意が……オーイレール!!」

 フュイアルさんの話なんて、途中であっさり聞くのをやめたオーイレールが、玄関に靴を脱ぎ散らかして、中に入って行く。砂だらけの靴を投げ捨てるように脱いだせいで、玄関には砂が飛び散っていた。
 玄関を汚されただけでも、フュイアルさんは嫌そうな顔をしているのに、オーイレールは、全く気に留めていないようだ。

「メシー。俺の焼きそばーー! 腹減ったーー!!」

 そんなことを言いながら、中にズカズカ入って行くオーイレール。
 以前彼に台所をぐちゃぐちゃにされたフュイアルさんも、慌てて彼の後を追って行った。

「オーイレール! 待って! 勝手に入るな!」

 オーイレール……ありがとう……

 フュイアルさんがいなくなって、僕は少しだけ、落ち着くことができた。

 残されたヴァルアテアが、僕に振り向く。

「お前も早く食べて寝ろ。フュイアルは今日はお前のことばかりで、仕事に身が入っていない。このままでは困る」
「身が入っていないって……あの……フュイアルさんって、何か……いつもと違うような様子、あった?」
「フュイアルが? そうだな……仕事中、考え事をしているようだったし、今日は早く帰ると言っていた。お前のことが心配なんだろう」
「…………めちゃくちゃ怒って、野獣みたいな顔してたとか、僕を殺そうとしていたとか、そういうの、なかった?」
「……なにを言っているんだ? お前は……」
「どう? フュイアルさん、僕を拷問するって言ってなかった?」
「いいや……そんなことは言ってなかった」
「ないのか……」

 もちろん、ないからといって、油断なんてできない。
 ヴァルアテアたちの前ではいつもどおり振る舞いながら僕の命を狙うくらい、フュイアルさんなら、きっと平然とやる。

 ……望むところだ。フュイアルさんなんて怖くない。もともと、いつかあの人を殺そうと思っていたんだ。

 改めて決意する僕に、ヴァルアテアは優しく言った。

「フュイアルは、お前を心配している。それだけは確かだ。そのアザが治るまで、お前は大人しくしていろ」

 そう言って、リビングに向かう彼に、僕もついて行った。
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