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55.なぜか落ち着かない部屋
しおりを挟む目を覚ますと、僕はベッドの中にいた。フュイアルさんが勝手に運んだんだろう。
変態め……いつもいつも、僕の意識を勝手に奪って勝手に運びやがって。
僕が寝かされているのは、寝室のベッドじゃなくて、フュイアルさんが僕を嬲るために置いた、リビングのベッド。こんなとこで寝ていられるか。
ベッドから起き上がる。そしたら、見覚えのないぬいぐるみが、僕の体から転がり落ちた。
なんだこれ……下手くそだけど、どことなく、フュイアルさんに似てる。そして、ぬいぐるみの手には、「トラシュはおとなしく寝ているように」と書かれた札が持たされていた。
馬鹿にしてるのか……フュイアルさんめ……
だいたい、このぬいぐるみ、全然似てない。フュイアルさんはこんなに優しそうな顔をしていない。これじゃ、可愛い狼みたいじゃないか。フュイアルさんは、もっと意地悪でムカつく顔だ。
魔法をかけて、フュイアルさんに似せる。ぬいぐるみはすぐに、フュイアルさんそっくりになった。
うん。いいできだ。まるでフュイアルさんそのものじゃないか。あの人に魔法をかけて小さくしてこれと並べたら、きっとどっちが本物か分からなくなりそうなくらいそっくりだ。
僕、結構すごいな。見ていたら、腹が立ってきた。
思いっきりそれを振りかぶって、壁に投げつける。それから一応拾ってベッドに置いて、僕は、ベッドから離れた。
部屋には、僕しかいない。
この部屋には、普段僕とフュイアルさんしかいないんだから、フュイアルさんがいなくなれば、僕だけになるのは当然なんだけど、なんだか、妙に静かだ。気味が悪いくらい。
薄暗いからかな……?
外は、ひどい砂嵐だった。まだ日中だというのに、太陽の光は街まで届かないみたいだ。
リビングの明かりをつけると、明るくはなったけど、がらんとしているように感じた。なんだか寂しい。
何考えてるんだ、僕。フュイアルさんが居なくなって、久しぶりに一人でゆっくりできるのに。
無理矢理の同棲が始まってから、フュイアルさんとは四六時中一緒だったんだ。今のうちに羽を伸ばそう。
僕は、ソファに座った。
何かしようかな……
何も思いつかない。腕のアザはまだあるけど、特に痛みがあるわけでもない。フュイアルさんの回復の魔法が効いているんだろう。
久しぶりにあのうるさいフュイアルさんがいないんだから、喜ぶべきなのに、何だか、嫌だ。こんなに静かなのは。
落ち着かない。なぜか分からないけど、心の中に嫌なものが膨らんでいくかのようだ。
フュイアルさんは今頃、何をしているんだろう。
どうせまた、変態なことしてるに決まっている。あの人、最低だから。
少し覗いてみるか……
僕は、フュイアルさんの居場所を探し出すための魔法をかけた鍵を取り出した。前に使っていたものは、盗賊たちのアジトに潜り込んだ時に壊れてしまったから、これは新しく用意したもの。
それに魔力を込めて、街の中にフュイアルさんの姿がないか探す。この時間なら、街の北の方を、誰かと巡回しているはず。
どうせ悪いことしてるんだから、こっそり盗み見て、弱みの一つも握ってやる!!
予想通り、すぐに街の北の方にフュイアルさんがいるのを見つけた。さらに鍵に魔法をかけると、僕の前に丸くもやが現れる。そこに、フュイアルさんの顔が映し出された。
やっぱり街の中を巡回中らしい。もやの中には、車の中でハンドルを握っているフュイアルさんが映されている。
隣の助手席には、オーイレールがいる。仕事中なのに、オーイレールはフュイアルさんの隣でスルメ食べて漫画読んでて、フュイアルさんに「そろそろしまわないと怒るよー」って言われて、慌ててしまってた。
フュイアルさんがまともに仕事してる……
最近は魔物だけでなく、魔物を狙う盗賊を捕まえることにも力を入れているらしく、忙しいようだけど、僕といる時は、僕に嫌がらせばっかりしてくるのに。僕が今のオーイレールみたいなことをしたら、すぐにお仕置きって言ってエロいことしながら拷問するくせに、オーイレールだけずるいぞ。
オーイレールにそんなことされても困るけど……
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