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25.暗殺計画を実行に移す時

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 散々弄ばれた僕は、怒りを胸に、なんとか連れ出したフュイアルさんと車に乗り、助手席で怒りを燃やしていた。

 ぶち殺す!! こいつを殺す。散々凌辱された恨みを晴らす。今日こそ。必ず。

 僕が怒りと殺意に燃えた顔をしていても、フュイアルさんは、全く気にしてない。「朝から可愛い顔してくれたからドライブしながら行こう」なんて、キモさしか感じないことを言って、僕を助手席に押し込み、鼻歌を歌いながらハンドルを握っている。

 こいつの神経はどうなっているんだ。朝っぱらから僕を辱めて、なんでこんなに楽しそうなんだ。

 もう刺してやりたい。今すぐにでも、後ろから刺したい。

 だけど、ここは我慢だ。チャンスが来るまで待つんだ。機会さえくれば、僕があいつをぶち殺せるんだ。

「トラシュー、喉乾かない? 何か飲み物買おうか」
「いりません」

 こんな時に何が飲み物だ。

 フュイアルさんはいつもこうだ。僕が腹を立てていたって、こいつが心配するのは喉のことくらいなんだ。

 舐めやがって……見てろよ……

 怒りに燃える僕に、フュイアルさんは笑顔で振り向く。

「ちょうどそこに自販機あるから、コーヒー買ってきてあげる」
「……」

 僕の話、聞いてたのかな? 僕、怒ってるんだけど。

 フュイアルさんは、ご機嫌な様子で車から降りていく。

 チャンスが来るまで、後少しの我慢だ。

 僕はぐっと堪えて、その場でフュイアルさんを待った。

 このあたりが、盗賊たちが潜んでいるって噂になっている所だ。
 古いビルが立ち並び、殆どがシャッターを閉めていて、人通りは全くない。砂嵐が起こりやすいせいで、この辺りに住もうって人はほとんどいないんだ。今も、少し砂が混じった強い風が吹いている。

 フュイアルさんだって、盗賊たちが潜んでいるっていう噂は知っているはず。むしろ僕よりそれについては詳しいはずなのに、全く怯える様子がない。あれだけここに来るのを渋っていたくせに。一体、何を企んでいるんだ。

 不気味な男は、自販機の前で本当にコーヒーを買っている。

 くっそ……なんとかして勝つ方法はなのか。フュイアルさんって、弱点とかないのかな。

 じーっと見ていたら、その後ろ姿に、誰かが近づいていく。

 誰だ……??

 こんなところをフラフラしているやつ、僕ら以外にいるんだ。

 そいつは、ゆっくりとフュイアルさんに近づいて行き、いきなり鉄パイプのようなものを振り上げ、その後頭部目掛け殴りかかった。

 けれど、あの性悪魔族が鉄パイプ程度でどうにかなるはずない。それなら、もうすでに僕がやった。
 あのときは、笑いながらフュイアルさんに鉄パイプを避けられて、その後、背後から狙ったくらいでトラシュが俺に勝てるはずないだろ、と思いっきり馬鹿にしたことを言われた。そしてその後は、魔法の鎖で吊るされた。

 今、フュイアルさんを殴った男も、振り返ったフュイアルさんに、あっさり殴り倒されている。

 弱い……あれでフュイアルさんに勝つつもりだったのか。それで勝てるなら、僕がとっくに勝ってるよ。

 殴り倒された男の仲間なのか、次々男たちが現れ、フュイアルさんに殴りかかっては、あっさり倒されている。

 もしかして、あれが盗賊たちか? ちゃんと出てきたのか。

 思っていたより弱い。フュイアルさん一人相手に、十人ほどでかかって、全く相手になっていない。
 フュイアルさんはまだ魔法も使っていない。完全に遊ばれているじゃないか。ダメだな。あれ。

 盗賊に襲わせて、フュイアルさんが魔法の鎖を出したらチャンスだと思ったのに。
 あれだけ弱くちゃ、フュイアルさんだって魔法を使わない。笑いながら向かってきた奴を蹴り飛ばしてる。

 苦労してフュイアルさんを連れ出したのに、これじゃフュイアルさんに弄ばれ損だ。

 この辺りに出る盗賊たちは、職場の奴らに手を出しているようだから、よほどやる奴らだと思ったのに。

 あれじゃ、すぐにフュイアルさんがこっちに戻ってきてしまう。

 さすがに頭を抱えてしまう。

 あーあ。失敗か……戻ってきたフュイアルさんに、またなんか言われそう。

 顔を上げると、さっきまでフュイアルさんが戦っていたところには、誰もいない。

 あれ? フュイアルさんは?

 キョロキョロあたりを見渡しても、やっぱり誰もいない。フュイアルさんも、それに殴りかかっていた奴らも、どこにもいない。

 自販機と、その近くにフュイアルさんが買った二つのコーヒーが転がっているだけだ。

 どこへ行ったんだ?

 僕は、周りを警戒しながら車から降りた。

 車の周りを探してみても、どこにもフュイアルさんはいない。

 もうすぐ砂嵐が来るのか、風が僕の方に吹いてきた。

 なんで誰もいないんだ? ちょっと目を離した隙に、どこいったんだ? フュイアルさん。

 あの気持ち悪い人が、いきなり僕を置いて消えたことは、今まで一度もない。

 むしろ、いつもならすぐに戻ってきて、助けもせずに一人で車の中にいた僕に、いろいろ嫌味を言ってくるところだ。

 それがいなくなるなんて……まさか、油断した隙に、盗賊たちに誘拐された、とか??

 フュイアルさんを連れて行ける奴なんかいるのかな?

 信じられないけど、さっきのフュイアルさんは油断してたみたいだし、僕のマンションに出た、あの魔族もいれば、不可能じゃない……かも?

 いや、もしかして捕まったんじゃなくて、盗賊たちが敵わないとみて逃げ出したから、それを追って行ったのかもしれない。

 とりあえず、僕も追うか。

 もしも、フュイアルさんが誘拐されたのなら、フュイアルさんが動けないくらいに拘束されたところで、盗賊たちを倒して、その後これまでの恨みを晴らす。
 もしも、フュイアルさんが追っていった方なら、隙を見て後ろから殴る。この作戦で行こう。

 僕は小さな鍵を取り出した。フュイアルさんの服には、居場所を示す魔法をかけた、小さな鍵を忍ばせてあるんだ。

 フュイアルさんの居場所なんて、全く知りたくないけど、これをしておかないと、フュイアルさんの接近を知ることができずに、僕が危険にさらされる。

 運転席にのりこみ、ハンドルを握る。今度こそ、うまくいくかもしれない。
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