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15.また気づいていない

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 よほど体温が低いのか、フュイアルさんに触れられたところが、ひやっと冷たい。

 フュイアルさんは、仕事を抜けてきたらしく、スーツ姿だった。
 長くて赤い髪が、僕の体に絡みついてくる。
 野獣みたいな金色の目で見られると、ゾッとした。

 なんでフュイアルさんが僕と彼の部屋にいるんだ。
 僕は倒れた恋人のところへ行きたいのに、なんでこいつが僕を抱きしめているんだ!!

「は、離せ!! 勝手に入ってくるな! また勝手に合鍵作ったな!!」
「そんなの必要ない。トラシュの部屋の鍵なら、いつも魔法で好きな時に開けてるから」
「ふっざけんな!! 不法侵入だっ!! 離せ変態!! 彼のところに行くっ!!」
「行っちゃだめ。そいつ、トラシュを殺す気だ」
「僕と彼は愛し合っているんです! 彼がそんなことするはずありません!!」

 怒鳴りつけると、フュイアルさんはまたいつもみたいに冷たい目をする。いつものことすぎて、もう慣れてしまったくらいだ。

「……また気づいていないのかよ……」
「何にですか!?」
「その男、トラシュの部屋からいろいろ盗んでる。目的は魔物。それを捕まえて売り飛ばすために、トラシュを利用してたんだ」
「そんなの嘘です!! 彼は僕を愛しているんです!」

 そういう奴がいるのは知ってる。

 だけど、彼は僕のことを心から愛しているんだ。
 だって、僕のこと好きだって言ってくれたし、いつも僕のそばにいてくれたし、僕が言うこと聞いてれば僕のこと殴らないし、欲しいって言ったものを渡したら笑顔になってくれた。
 誰よりも、僕が好きって言ってくれた。
 だから、彼は僕だけが好きなんだ。

 その彼は、フラフラ立ち上がり、彼に駆け寄ろうと足掻く僕を睨みつけていた。

「……てめえ……トラシュ!! どういうことだ!!」
「え……どうって……?」
「その後ろの男だよ! てめえ、俺のこと、そいつに売ったのか!?」
「何言ってるのっ!? 僕は知らない!! 大好きな人のこと、売るはずないだろ!」
「そうかよ……ああ、そうだよ……てめえは黙って俺の言うこと聞いてればいいんだ! そいつぶっころっっ……!!」

 話している途中で、彼は魔法の鎖に巻き付かれて、締め上げられてしまう。フュイアルさんの魔法だ。

 フュイアルさんは、僕を抱きしめながら凶悪な顔をして、鎖を操っている。

 僕の大好きな彼に何をするんだ!

「フュイアルさん!! やめてください!! 彼を離せっ!」
「離したところで、その男はすぐに逮捕される。外に警察が来てるだろ?」
「は!?」
「証拠ももう揃っている。トラシュは今すぐ諦めて、その屑のことを記憶から消しなさい」
「嘘ですっ!! 逮捕なんて!」

 もう怒った!!

 僕は、怒りに任せてフュイアルさんの腕を振り払い、縛られている彼に駆け寄ろうとした。

 だけど、僕の手が彼に届く前に、窓から誰かが飛び込んで来る。ガラスを粉々にして侵入してきたその男は、真っ黒な服を着ていた。感じる魔力から言って、多分魔族だろう。

 侵入して来た男は、腰に下げた剣を抜くと、僕の彼を縛っていた魔法の鎖を斬り落とした。

 彼が、黒い服の男にお礼を言っている。
 彼を助けるのは、僕の役目のはずなのに。一体何をしているんだ。

 黒い服の男は、礼を言う彼には見向きもせず、フュイアルさんに斬りかかる。けれどその剣は、フュイアルさんに鎖で軽く受け止められてしまう。

 突然斬りかかられたというのに、フュイアルさんは、いつもとまったく変わらない飄々とした様子で、相手の剣を受け流しながら黒い服の男に話しかけた。

「なるほど、魔族が後ろにいたのかー」
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