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1.僕の大好きな恋人

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 欲しいものは絶対に欲しいし、いらないものは見るのも嫌。

 そんな僕、トラシュには大事な恋人がいる。ダストという名前で、僕よりちょっと背の高い、世界で一番格好いい人。彼から告白された時はすごくびっくりしたけど、今では寝ても覚めてもダストのことを考えている。

 そろそろ、朝食の用意をしなきゃ。

 2LDKの部屋はダストと一緒に住むために、ダストが選んで僕が借りた。ダストの意見だけで借りた部屋だけど、この広いキッチンは僕のお気に入り。

 とろとろの卵をいっぱいかけたオムライスに、ケチャップでいつも描いているダストの似顔絵を描き上げ、ついでに魔法もかけて、完成度を上げる。

 ちょっと離れたところから眺めて、出来栄えを確認。

 完璧だ。本物には敵わないけど、その次くらいに格好いい。

 最後にサラダを盛り付けて、ダストが待っている彼の部屋に急いだ。

 ダストの部屋は、キッチンを出てすぐ。部屋のドアをこんこんノックしながら、僕は中にいるはずのダストに声をかけた。

「ダスト。朝食、できたよ。特製ダストオムライス」

 だけど、誰も出てこない。

 いつも自分の部屋のベッドでテレビ見ながら寝てるのに。どこか行ったのかな……

「ダスト……どこ……?」

 呼びながら、トイレや洗面所、おふろに玄関まで確認したけど、いない。せっかくのオムライスが冷める……

「なんだよ……トラシュ……」

 あ、いた。僕の部屋から出てきた。
 ダストは綺麗な金髪で、背が高くて、とっても優しいけど、ちょっと朝が苦手。そして、僕の部屋でよく寝てしまう。

「ダスト、朝ご飯。特製ダストオムライス」
「いらね。出かけてくる」
「……どこ……行くの?」
「パチンコ」
「……またかよ……オムライスは……?」
「ん? 食うよ」

 ダストは振り返って、僕が持っていた皿の上に乗ったオムライスの真ん中を、スプーンですくって食べてくれる。

「じゃあな」

 彼は、僕に手を振って家を出て行った。

 ダストの仕事はギャンブラー見習い。まだ見習いでお金ももらえないから、ギャンブル代は全部僕が出している。

 小柄で非力な僕だけど、魔法が使えるから、魔物退治の仕事で稼げる。

 ここは、しょっちゅう魔物が暴れ回り、魔物の魔力で汚染された砂で砂嵐が起こる、危険な街。

 人族の僕が生きるには難しい街だけど、彼がいるから僕は毎日楽しい。

 ダストが出かけるのは寂しいけど、彼がいつも行くパチンコ屋なら、全部知っている。仕事中に監視しておかなきゃ……

 ダストは仕事で忙しいみたいだし、残ったオムライスは僕が食べるか。大切なダストオムライスだから。

 リビングに戻って、ダイニングテーブルにつく。

 ダストは出かけてしまったけど、テーブルの上には、僕がいっぱい撮ったダストの写真がずらっと並んでいる。

 ん……? 十個あるはずの写真立てが、五つしかない。中央に並べていたはずのそれが、全部テーブルの端に避けられている。

 ダストだな……

 ここにあるのは、僕のお気に入りのダストの写真。二人で撮ったのも、僕が勝手に撮ったのもある。
 それを、ダストはよく邪魔だと言って、テーブルの端にどけてしまう。一体何が邪魔なのか……

 写真立てをきれいに並べなおしていたら、また異変。大事なダストの写真が端からなくなっていく。何かと思えば、いつの間にか勝手に部屋に入ってきていた男が、持っているゴミ袋に、僕の大切な写真たてを次々放り込んでいた。

「何をしているんですか!! フュイアルさん!!」

 怒鳴りつけても、勝手に家に入ってきて勝手にリビングのテーブルの横に立ったフュイアルさんは、怒る僕を無視して、写真たてを全部ゴミ袋に放り込んでしまう。

「捨てるよ」
「捨てません。返してください」
「もうない」

 フュイアルさんがゴミ袋を開いて見せてくる。そこにはもう、ダストの写真も写真立てもない。魔法でどこかへやってしまったんだ。

「返してください。魔法で元に戻せますよね?」
「焼き尽くした。二度と出てこない」
「……」

 最低だ。フュイアルさんはいつもこういうことをする。

 フュイアルさんは、人の姿をしているけど、正体は魔族。真っ赤な炎みたいな長髪に、金色の目、凶悪な人相をしていて、いつも真っ黒な服を着ている。強力な魔法をいとも簡単に操ることができるから、こうしてたまに勝手に僕らの部屋に入ってくる。一応、僕の職場の上司でもある。

 この人がこうやって入ってくるから、ダストはよく怒って出て行ってしまう。お気に入りのダストの写真まで焼かれてしまうし、もう、僕が魔法でこの男を焼いてやるっ!!!!

 怒りを込めて放った全力の炎の魔法は、あっさりフュイアルさんに吹き散らされる。フュイアルさんの魔法は強力。僕では歯が立たない。

 僕は、魔法の鎖でぐるぐる巻きにされてしまった。

「離せよっ!!! おい!!」

 くっそ……外れない!!

 床に転がされて、もがきながら見上げると、フュイアルさんは勝ち誇った笑みを浮かべ、僕を見下ろしていた。

「トラシュにその鎖は外せない。大人しく、あの男と別れろ」
「またその話っ……別れません! 絶対に!!」
「……トラシュは人と付き合わない方がいいし、ダストはトラシュを利用しているだけだよ?」
「利用なんてしてません。なんでダストを悪く言うんですか?」
「ダスト。二十五歳。無職。現在トラシュのマンションに同棲という名目で居候中。生活費など、金は全てトラシュが出している。趣味、ギャンブル。トラシュが貢いだ金額、五百万。全てギャンブルに注ぎ込まれている。別れな」
「だから、なんでですか?」
「……今言ったことだけで、なんで別れろって言うか、分かるんじゃない?」
「分かりません。僕はダストが好きです。ダストも僕が大好きです。別れる理由なんてありません」
「あるでしょ。トラシュにもダストにも。ありすぎで溢れかえってるでしょ」
「ないです! 帰れっ! 不法侵入だっ!!!!」

 思いっきり怒鳴ると、怒らせてしまったらしく、フュイアルさんの目が冷気を帯びる。

「それなら無理やり連れて行く……」
「え? あ……や、やめろっ!!」

 制止した時には、もう遅い。

 フュイアルさんは、僕に向かって手を伸ばしてくる。またいつもみたいに魔法を使う気だ。

 すぐに逃げ出したかったけど、僕が逃げるための魔法を使うより、フュイアルさんが僕に魔法を浴びせる方が早くて、僕は気を失ってしまった。
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