なんでも諦めてきた俺だけどヤンデレな彼が貴族の男娼になるなんて黙っていられない

迷路を跳ぶ狐

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四章

24.とんでもない勘違い馬鹿だ!

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 怒鳴りながらイウリュースは、飛びくる矢を切り払う。すべてイウリュースを狙ったものだが、ヴィルイは驚いたのか、震え上がっていた。パティシニルの方はともかく、ヴィルイは本当に戦えないらしい。

 イウリュースは、背後で震えるヴィルイに向かって叫んだ。

「後で殺すから、大人しく俺の後ろにいろ! こんな事態になったのも、お前のそのめんどくさい態度が全ての原因だろうが!! あいつを城に置いてくるのが心配だったんだろ!?」
「馬鹿を言うな!! いいか! それを人前で口にするんじゃないぞ!!」
「ほんっとうにめんどくせえな!!」

 叫びながら、飛んできた杭を切り払い、床からの攻撃は終わった。

 ヴィルイは、粉々になった杭の破片を見下ろしていた。

「これを……パティシニルが……」
「よほど俺に腹を立ててるんだろうな。くそ……なんでそんなに面倒なんだよ……そんな城にパティシニルを置いて来るのが心配で連れてきたんだろ? もう白状しろよ」
「そんなはずがないだろう!」
「お前な……俺だって、お前がそれを伝えようが伝えなかろうが、どうでもいいよ。だけど、言っとくけどあいつ、ここを追い出されるって言って悩んでたんだからな!!」
「そんなはずがない!! あいつは城に帰りたいんだ!! こんな山奥の屋敷で私の護衛でいるのが嫌なんだ!! 私がここまで連れてきてやった恩も忘れて恩知らずめ!! 帰りたいなら帰ればいいじゃないか!! そんなに帰りたいなら帰れ!! 悪かったな! こんなところに連れてきて!!」
「なんで俺に向かってキレてんだよ!! パティシニルに言えよっっ!! そんな城に帰りたいと思うはずないだろ!! あいつから聞いたのかそれ!!」
「あいつは陰で使用人に帰りたいと言ってるんだ!!!!」
「……さっき、ヴィルイに追い出されるって、すっっげーーーー追い込まれた顔してたけどな!」
「…………なんだと? ……それは本当か?」
「……本当だよ。アホらしい……とにかく、クレッジを変な風に誘うのやめろ。わがままとセクハラやめたら護衛と警備くらいしてやらなくもないから……」
「お前……私を殺しにきたんじゃなかったのか……?」
「……そのつもりだったけど、お前みたいな馬鹿殺したら俺が悪者みたいじゃないか……くそ……こんなはずじゃなかったのに……とりあえず、警備隊に連絡して……」

 そう言って、イウリュースは、今度は警備隊にこの状況を伝えるための使い魔を作ろうとした。

 しかし、ヴィルイが飛びかかってきて、お陰で作りかけた使い魔は消えてしまった。

「何すんだよ!!」
「警備隊を呼ぶなと言っているだろう! パティシニルが捕まったらどうしてくれる!! 頭の悪い冒険者め!!」
「……お前、本当にムカつくな…………だからって、このまま放って置いたら、ますます事態が悪化するだろうが。使用人だって、全くいないわけじゃないんだろ? どっかに拘束されているはずだ。そいつらを人質に取られたら、お前はどうするか知らないが、少なくとも俺やクレッジは手を出せない。冒険者が、依頼受けたばっかりの貴族のところで使用人を死なせたなんてことになれば、ギルドにだって迷惑がかかる。それに、パティシニルだって、結界を張った上で、罠の魔法も使っているんだぞ! 下手をすると、魔法に失敗して自らを傷つけるかもしれないんだ!!」
「そ、それは困るが……だ、だが、警備隊は呼ぶな!! こんなことが露呈したら、あいつはまた城で居場所を失う!!」
「知らねーよ!! そもそもお前が素直に、城に帰りたいなら帰っていいし、いたいならいればいいって言えば解決するんだろうが!! めんどくせえんだよ!!」
「いたいならいていいなんて言ってない! 帰りたいなら恩知らずな奴隷は消え失せろと言っているんだ!!」
「……だったら警備隊呼んでいいだろ?」
「そ、それはダメだ!!」
「どっちなんだよ!! 本当にめんどくせえ!!」

 怒鳴りながら、イウリュースは、自分目掛けて飛び出してくる杭だの矢だのを、魔法で撃ち落とした。

「さっきから見てみろ! お前もいるのに、パティシニルの罠は俺ばっか狙ってくるだろ! 恨んでるなら、お前を狙うんじゃないのか?」
「……」
「それにお前は、パティシニルがここからいなくなって、そんな城に帰って、それでいいのか? あいつが一人でそんな城に帰ればどうなるか、お前にだってわかるだろ?」
「…………」
「……どうせカッとなって怒鳴って後に引けなくなったんだろ? バーカ……」
「な、なんだと!!」
「大人しく俺の後ろにいろ。ゲス貴族。優しい勇者の俺が、パティシニルのところまで送って行ってやるよ」
「ぶっ……」

 急にヴィルイは、肩を震わせ噴き出している。こちらは親切で言っているのに、それを笑うとは、どう言う了見なのか。

 イウリュースは、即、ヴィルイに掴みかかった。

「何笑ってんだてめえ」
「お前ほどの痛い勘違い男も珍しいなあと思っただけだ。優しい勇者……貴様、自分で言っていて恥ずかしいとは思わないのか?」
「思うわけないだろ。それに、俺が思ってるんじゃなくて、クレッジがそう思ってくれてるんだよ」
「ははははは!! とんでもない勘違い馬鹿だ!! 貴様など優しい勇者どころか、だいぶ変な人だ!」
「なんだとてめえ!!」

 イウリュースはますます力を込めてヴィルイに掴みかかるが、ヴィルイは意に介さない。

「この暴力勘違い男め!! 寝言をほざいている暇があるなら、さっさとパティシニルを探せ!! グズ!!」
「てめえ……やっぱりここで殺すっ!!」

 そんな風に喚いていると、床から次々、杭が飛び出してくる。
 それに驚いたのか尻餅をついてしまうヴィルイの前に立って、イウリュースは叫んだ。

「てめえ、後で殺すから、大人しく俺の後ろにいろ!」
「黙れ!! 暴力的な冒険者め!!」
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