24 / 29
四章
24.とんでもない勘違い馬鹿だ!
しおりを挟む怒鳴りながらイウリュースは、飛びくる矢を切り払う。すべてイウリュースを狙ったものだが、ヴィルイは驚いたのか、震え上がっていた。パティシニルの方はともかく、ヴィルイは本当に戦えないらしい。
イウリュースは、背後で震えるヴィルイに向かって叫んだ。
「後で殺すから、大人しく俺の後ろにいろ! こんな事態になったのも、お前のそのめんどくさい態度が全ての原因だろうが!! あいつを城に置いてくるのが心配だったんだろ!?」
「馬鹿を言うな!! いいか! それを人前で口にするんじゃないぞ!!」
「ほんっとうにめんどくせえな!!」
叫びながら、飛んできた杭を切り払い、床からの攻撃は終わった。
ヴィルイは、粉々になった杭の破片を見下ろしていた。
「これを……パティシニルが……」
「よほど俺に腹を立ててるんだろうな。くそ……なんでそんなに面倒なんだよ……そんな城にパティシニルを置いて来るのが心配で連れてきたんだろ? もう白状しろよ」
「そんなはずがないだろう!」
「お前な……俺だって、お前がそれを伝えようが伝えなかろうが、どうでもいいよ。だけど、言っとくけどあいつ、ここを追い出されるって言って悩んでたんだからな!!」
「そんなはずがない!! あいつは城に帰りたいんだ!! こんな山奥の屋敷で私の護衛でいるのが嫌なんだ!! 私がここまで連れてきてやった恩も忘れて恩知らずめ!! 帰りたいなら帰ればいいじゃないか!! そんなに帰りたいなら帰れ!! 悪かったな! こんなところに連れてきて!!」
「なんで俺に向かってキレてんだよ!! パティシニルに言えよっっ!! そんな城に帰りたいと思うはずないだろ!! あいつから聞いたのかそれ!!」
「あいつは陰で使用人に帰りたいと言ってるんだ!!!!」
「……さっき、ヴィルイに追い出されるって、すっっげーーーー追い込まれた顔してたけどな!」
「…………なんだと? ……それは本当か?」
「……本当だよ。アホらしい……とにかく、クレッジを変な風に誘うのやめろ。わがままとセクハラやめたら護衛と警備くらいしてやらなくもないから……」
「お前……私を殺しにきたんじゃなかったのか……?」
「……そのつもりだったけど、お前みたいな馬鹿殺したら俺が悪者みたいじゃないか……くそ……こんなはずじゃなかったのに……とりあえず、警備隊に連絡して……」
そう言って、イウリュースは、今度は警備隊にこの状況を伝えるための使い魔を作ろうとした。
しかし、ヴィルイが飛びかかってきて、お陰で作りかけた使い魔は消えてしまった。
「何すんだよ!!」
「警備隊を呼ぶなと言っているだろう! パティシニルが捕まったらどうしてくれる!! 頭の悪い冒険者め!!」
「……お前、本当にムカつくな…………だからって、このまま放って置いたら、ますます事態が悪化するだろうが。使用人だって、全くいないわけじゃないんだろ? どっかに拘束されているはずだ。そいつらを人質に取られたら、お前はどうするか知らないが、少なくとも俺やクレッジは手を出せない。冒険者が、依頼受けたばっかりの貴族のところで使用人を死なせたなんてことになれば、ギルドにだって迷惑がかかる。それに、パティシニルだって、結界を張った上で、罠の魔法も使っているんだぞ! 下手をすると、魔法に失敗して自らを傷つけるかもしれないんだ!!」
「そ、それは困るが……だ、だが、警備隊は呼ぶな!! こんなことが露呈したら、あいつはまた城で居場所を失う!!」
「知らねーよ!! そもそもお前が素直に、城に帰りたいなら帰っていいし、いたいならいればいいって言えば解決するんだろうが!! めんどくせえんだよ!!」
「いたいならいていいなんて言ってない! 帰りたいなら恩知らずな奴隷は消え失せろと言っているんだ!!」
「……だったら警備隊呼んでいいだろ?」
「そ、それはダメだ!!」
「どっちなんだよ!! 本当にめんどくせえ!!」
怒鳴りながら、イウリュースは、自分目掛けて飛び出してくる杭だの矢だのを、魔法で撃ち落とした。
「さっきから見てみろ! お前もいるのに、パティシニルの罠は俺ばっか狙ってくるだろ! 恨んでるなら、お前を狙うんじゃないのか?」
「……」
「それにお前は、パティシニルがここからいなくなって、そんな城に帰って、それでいいのか? あいつが一人でそんな城に帰ればどうなるか、お前にだってわかるだろ?」
「…………」
「……どうせカッとなって怒鳴って後に引けなくなったんだろ? バーカ……」
「な、なんだと!!」
「大人しく俺の後ろにいろ。ゲス貴族。優しい勇者の俺が、パティシニルのところまで送って行ってやるよ」
「ぶっ……」
急にヴィルイは、肩を震わせ噴き出している。こちらは親切で言っているのに、それを笑うとは、どう言う了見なのか。
イウリュースは、即、ヴィルイに掴みかかった。
「何笑ってんだてめえ」
「お前ほどの痛い勘違い男も珍しいなあと思っただけだ。優しい勇者……貴様、自分で言っていて恥ずかしいとは思わないのか?」
「思うわけないだろ。それに、俺が思ってるんじゃなくて、クレッジがそう思ってくれてるんだよ」
「ははははは!! とんでもない勘違い馬鹿だ!! 貴様など優しい勇者どころか、だいぶ変な人だ!」
「なんだとてめえ!!」
イウリュースはますます力を込めてヴィルイに掴みかかるが、ヴィルイは意に介さない。
「この暴力勘違い男め!! 寝言をほざいている暇があるなら、さっさとパティシニルを探せ!! グズ!!」
「てめえ……やっぱりここで殺すっ!!」
そんな風に喚いていると、床から次々、杭が飛び出してくる。
それに驚いたのか尻餅をついてしまうヴィルイの前に立って、イウリュースは叫んだ。
「てめえ、後で殺すから、大人しく俺の後ろにいろ!」
「黙れ!! 暴力的な冒険者め!!」
20
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。
あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。
だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。
よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。
弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。
そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。
どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。
俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。
そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。
◎1話完結型になります

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています


ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
「頭をなでてほしい」と、部下に要求された騎士団長の苦悩
ゆらり
BL
「頭をなでてほしい」と、人外レベルに強い無表情な新人騎士に要求されて、断り切れずに頭を撫で回したあげくに、深淵にはまり込んでしまう騎士団長のお話。リハビリ自家発電小説。一話完結です。
※現在、加筆修正中です。投稿当日と比較して内容に改変がありますが、ご了承ください。

番だと言われて囲われました。
桜
BL
戦時中のある日、特攻隊として選ばれた私は友人と別れて仲間と共に敵陣へ飛び込んだ。
死を覚悟したその時、光に包み込まれ機体ごと何かに引き寄せられて、異世界に。
そこは魔力持ちも世界であり、私を番いと呼ぶ物に囲われた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる