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三章
18.すみません……
しおりを挟む「すみませんっ……!」
耐え切れなくなって離れると、イウリュースは、逃げられちゃったと言って、微笑んでいた。
逃げたわけじゃなく、そばにいるのが苦しかっただけだ。
「に、逃げたんじゃないです…………あ、えっと……俺、パティシニルに、使い魔つけてるんです。探すなら、あいつから探しませんか?」
「護衛の時のくせ?」
「そんなところです…………気づいてたんですか?」
知られていたとは思わなかった。
あの部屋から飛び出す寸前に、パティシニルには、場所を感知する使い魔をつけた。普段、ヴィルイの護衛中につけているのと同じものだ。
護衛中に魔物が出た時にヴィルイが勝手に逃げ出したり、森を歩いている途中に素材に夢中になったヴィルイがフラフラ歩いて行ったり、護衛を頼んでおいて「危険だ危険だとうるさいぞ」とへそを曲げて勝手に走り出すヴィルイを見失うことを避けるためだった。ヴィルイといつも一緒にいるパティシニルにもつけているのだが、そのおかげで、あの短い時間でも、彼に向かって使い魔を飛ばすことができた。しかし、それにイウリュースが気づいているとは思わなかった。
「……クレッジは真面目だね。押し付けられてるのに、護衛のやり方も、いつも丁寧だし……」
「……あの……」
「……なに?」
「ヴィルイの護衛だったら、俺にもできます。イウリュースさんが専属になること、ないんです」
「俺が嫌なんだよ。クレッジがヴィルイの護衛してるの」
「なんで……」
なぜそんなに頑なに言うのかと考える。イウリュースがそうまでしてヴィルイの護衛をする必要はないはずだ。
(そんなに……ヴィルイの護衛につきたいのか? …………確かに普段から、一緒にヴィルイの護衛してるけど……そういえばイウリュースさん、俺がヴィルイの護衛するって叫んでた。ギルドでも……あ、あれ?)
そう考えたところで、クレッジは、赤面した。
考えてみれば、イウリュースはいつも、ヴィルイの護衛がしたいと言っていた。
そして、クレッジがヴィルイと一緒にいると、いつも彼は駆け寄ってきていた。
(今朝だって、イウリュースさんは俺を心配してついてきてくれた。いつものバレバレな演技で俺に駆け寄って来てくれた………………そ、そうとばかり思ってた……)
自分のことを心配してくれているんだとばかり思っていたが、そうではなかったのかもしれない。
何しろクレッジの隣には、いつも護衛の依頼で一緒にいる、ヴィルイがいたのだから。
(まさか…………イウリュースさん、ヴィルイのこと、そんなに護衛したかったのか? 普段ついてくるのも、ヴィルイを護衛したかったからなのか? ……え…………も、もしそうだったら………………俺、めちゃくちゃ恥ずかしい勘違いしてたんじゃ……俺、イウリュースさんが俺のこと、心配してくれてるんだって思ってたのに…………っ!! イウリュースさん…………ヴィルイを護衛したかっただけっ……!?)
一度そう考えると、ますますクレッジは真っ赤になってしまう。
護衛の時に、ヴィルイと言い合いをした時も、イウリュースは、クレッジではなく自分を連れて行けと言っていた。
ギルドでクレッジがいない間につかみあいになったときも、俺が護衛してやる、二人きりで誰もいないところへ行きたいと、そう言っていた気がする。
(だとしたら……邪魔なのは俺じゃないか……!! 俺……自分が追ってきてもらっているとばかり…………うわっ……!! 馬鹿だろ俺っ……!
は、恥ずかしいっ……!!)
ついに真っ赤になって俯いてしまう。すると、イウリュースが顔を覗き込んできた。
「クレッジ……? どうしたの?? そんなに真っ赤になって…………」
「す、すみません…………お、俺……へ、変な勘違いを…………」
「……勘違い?」
「は、恥ずかしい……すみません……俺……」
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