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二章

11.優しい顔をしていたい

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 一方、クレッジと別れたイウリュースは、クレッジから見えないところまで歩いて人混みに紛れ、そこからは走って路地裏に入った。

 誰もいない狭い路地裏で、背の高い建物の壁に寄りかかる。そして、胸を押さえた。

 まだドキドキしている。それでも、クレッジから離れることができて、少し安心した。

 ホッとしたら、足の力が抜ける。そのまま座り込んでしまう。

「あっぶなかったーー……」

 安心して吐露した声は、思ったより大きかった。
 クレッジに聞かれていなかったか、キョロキョロして確認するが、遠くまで走って彼から離れているので、もちろんどこにも彼の姿はない。

 ホッとする。

 けれど、突き放されて驚いているクレッジの顔まで思い出してしまい、胸が痛んだ。

(危ないところだった…………)

 必死になってイウリュースを止めるクレッジを見ていたら、抱きしめてしまいそうだった。

 いや、それだけでは足りない。唇も何もかも全部、自分のものにしたくなる。

 本当は、クレッジを突き放したくなんかなかった。
 二人で、甘いものでも食べに行って、それから、夜まで一緒にいたかった。彼と行きたい店なら、いくつも考えてある。そのうちのいくつかは、クレッジといつか二人で食事をすることを考えながら、一人で回って下見をしてある。
 その後は、二人で家に帰りたい。イウリュースの家は、以前、空き家に住み着いた魔物を退治する依頼を受けた時にもらったものだ。依頼人は、いつのまにか自分が所有していた屋敷に住み着いた強力な魔物にほとほと困っていて、イウリュースがそれらを一掃したのを見て、とても安心していた。
 一人で住むには広い屋敷だったが、彼といつか二人で一緒に住むことを考えたら、手狭な気がした。

 あのままクレッジに見つめられていたら、彼がどう言って拒絶しようが、もう離せなくなっていたかもしれない。

 本当はそうしたい。彼を自分のものにしたい。

 しかし、それではダメだ。

 イウリュースは立ち上がった。

 すると、狭い路地裏にいるイウリュースに気づいて、大通りから誰かが入ってくる。知り合いの剣術使いのノスタルゴルだ。

「イウリュース? 何してんだ? お前」
「……うわっ……! びっくりした……お前かよ……」
「……こんなところにいるってことは、やめたのか?」
「……何をだよ……」
「クレッジに言いよる貴族のところに行くんだろ?」
「もちろん。行くよー」

 そう言って、イウリュースは、壁に寄りかかった。

 憎たらしいヴィルイのことを思い出すと、同時にクレッジのことを「しつこい」などという心にもない言葉で突き放した時のことを思い出してしまい、もう一度胸を押さえた。

「俺の……大事なクレッジのためだから……」
「……怖い顔になってんぞ」
「いいよ。別に。今はクレッジいないから」

 そう言って、イウリュースは空を見上げた。

 クレッジの前では、優しい顔をしていたい。
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