上 下
5 / 29
一章

5.約束を取り付けよう!

しおりを挟む

 クレッジは、剣を構えた。自らの体を魔力で強化して、剣に魔力を纏わせ切り掛かる。
 石の魔物を一刀両断にすることに成功したが、魔物は切られた程度では止まらずに、二つに分裂して、クレッジに向かって腕を伸ばしてきた。

(嘘だろっ……!!)

 まさか、伸びるとは思っていなかった。石に魔力が宿った魔物は、通常、伸びたりしない。魔力を多く含んだものは、思いがけない攻撃を仕掛けてくると聞いたことはあったが、こんな攻撃に出るとは思っていなかった。

 伸びてくる石の腕を切り払う。それ切り落とすことはできたが、その時には、クレッジの背後に、もう片方の腕が回り込んでいた。

 背後に回られているとは思わず、反応が遅れる。

 剣で自らの体を守ろうとしたが、背後のイウリュースが魔法を放とうとしているのに気づいて、クレッジは、自らを捨てて結界を張った。

 クレッジに夢中で、結界の中に閉じ込められ、逃げ場を無くした魔物は、イウリュースの魔法で凍りつき、光る砂の粒になって消えていく。

 イウリュースは、血相を変えて、クレッジの方に走ってきた。

「クレッジ!」
「……イウリュースさん……」
「怪我はない!? 大丈夫!?」
「……大丈夫です。すみません……ありがとうございます……」
「そんなこといいの」

(よくない……イウリュースさんの手を借りるつもりじゃなかったのに……もっと早く魔物に気づけるようにならないと、ダメだな……)

 そんなことを考えながら、ヴィルイにかけよる。依頼人の無事を確認しなくては。

 ヴィルイはパティシニルと共に既に歩き出している。しっかり「あの程度の魔物に何を戸惑っている!」と文句を言うことも忘れない。依頼人が無事でホッとした。元気に歩いているところを見ると、特に回復の必要もなさそうだ。

 クレッジは、イウリュースに振り向いた。すると、頬にひやっとしたものが当たる。氷のように冷たく冷えた、魔法薬の瓶だった。

「冷たっ……!!」
「だろー? あげるー」
「え? 俺はいいです。特に怪我してないし……イウリュースさん、使ってください」
「俺はもう飲んだ。魔力回復の効果があるから、クレッジも飲んでおくといいよ」
「…………ありがとうございます……」

 受け取って、瓶を開ける。しかし、その間も、瓶を握る手がめちゃくちゃ冷たい。

「なんでこんなに冷やしてるんですか……?」
「冷たい方が美味しいだろ?」
「……」

 もらったものを飲むと、あまりに冷たくて頭が痛くなりそうだ。

(ここまで冷たくしなくても……)

 魔法薬は、冷やしても温めても効果は変わらない。ちなみに冬は出来立てのコーンポタージュ並みに熱い魔法薬をもらった。少し舌を火傷したから覚えている。

(何か……お礼をしたい…………そもそも、俺、告白しようとしてたんだ……)

 そんなことを考えているクレッジの隣を、イウリュースが歩いている。彼はやはり、いつもと変わらない様子で、どこか飄々として見えた。

「クレッジはさー、あの下衆貴族に何か弱みでも握られてるの?」
「……そんなことありません」
「だって、男娼になれって迫られてるって聞いたよ? 本当なの?」
「本当です。でも、ヴィルイは単に、護衛の魔法使いを雇いたいだけです。だけど自分も魔法使いだから、魔法も一応使える程度の俺に頭を下げるの嫌みたいで、そんなふうに言うんです」
「……ふーーーん……そうかな……」
「本当は魔法使いをもっと雇いたいらしいけど、そうすると魔法が使えないって言われてるような気がするらしいです。お抱えの魔法使い増やして、パティシニルの負担を減らしたいんじゃないんですか……?」
「ふーん……」

 話しながらも、クレッジはずっとイウリュースを誘うことを考えていた。

(本当は、今日はギルドに行ってイウリュースさんを誘うはずだった。だけど……今、チャンスだろ……)

 クレッジは、俯いたまま口を開いた。

「…………あの、イウリュースさん…………えっと………………よかったらこの後、夕食……一緒に食べませんか? おごります……今回のお礼に……」

 たどたどしいが、なんとか言えた。そして返事が怖くて、しばらく俯いて待つ。すると、イウリュースの沈んだ声が聞こえた。

「えっと……ごめんね。夜は予定があって……」
「……そうですか……」

 こんなに落胆するとは思わなかった。ひどく落ち込む。

 しかしイウリュースは、肩を落とすクレッジに、快活に言った。

「代わりに、昼は?」
「え?」
「この依頼終わったら、二人でお昼ご飯、食べに行かない?」
「あ…………はい」
「いいのー? 嬉しい!! クレッジが誘ってくれるなんて、初めてだ」
「……いいんですか?」
「もちろんだろ? クレッジと食事できるんなら、こんなくそ依頼、すぐにやめて帰ろう! あのゲス貴族捨てて帰ろう!」
「……ダメです」

 けれど、クレッジの言葉を聞いている様子のないイウリュースは、ヴィルイに駆け寄って行く。

「ヴィルイー、帰るよー。昼だよ」
「ちっ……もう昼か……イウリュース! 貴様! 覚えていろよ!!」
「はー? 何をーー?」
「き、貴様っ!! 口には気を付けろっっ! 私は貴族だぞ!」
「だからーー? おーれだって貴族でーーす! 殺していい?」

 そんなことをいいながら、二人は歩いて行く。

 その間も、約束を取り付けることができて、クレッジの胸は苦しいくらいにドキドキしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。 無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して―― 最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。 死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。 生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。 ※軽い性的表現あり 短編から長編に変更しています

聖女の兄で、すみません! その後の話

たっぷりチョコ
BL
『聖女の兄で、すみません!』の番外編になります。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

片思いの練習台にされていると思っていたら、自分が本命でした

みゅー
BL
オニキスは幼馴染みに思いを寄せていたが、相手には好きな人がいると知り、更に告白の練習台をお願いされ……と言うお話。 今後ハリーsideを書く予定 気がついたら自分は悪役令嬢だったのにヒロインざまぁしちゃいましたのスピンオフです。 サイデュームの宝石シリーズ番外編なので、今後そのキャラクターが少し関与してきます。 ハリーsideの最後の賭けの部分が変だったので少し改稿しました。

周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)

ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子 天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。 可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている 天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。 水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。 イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする 好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた 自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語

拾われた後は

なか
BL
気づいたら森の中にいました。 そして拾われました。 僕と狼の人のこと。 ※完結しました その後の番外編をアップ中です

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

処理中です...