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一章
4.いざという時は
しおりを挟むイウリュースのことばかり考えながら森を行くと、ヴィルイは道端に生えている魔法の植物を見つけたらしい。楽しそうに、不気味なまだら模様の草をむしろうとしてる。魔法薬を作るためのものだが、それ自体は毒を持っている。依頼人に怪我はさせられない。
クレッジは、ヴィルイの隣にしゃがむと、それに魔法をかけて無毒化してから回収した。
「どうぞ」
「……そういう真似をしなくていいと言っているだろう!! 護衛は余計な真似をするなっっ!!」
ヴィルイは、何がそんなに腹立たしいのか、大股で歩いて行く。そんなふうに不用意に前に進んでいったら危ない。案の定、転んでいる。イウリュースが足をかけた気がしたが、気のせいだと思うことにした。
(そろそろ切り上げていいか)
依頼は昼がくるまで。加えて、雲が増えてきた。雨が降るらしい。
ざあざあと、葉擦れの音がした。木漏れ日が差してくる。ひどく暑かった。
敵だ。
直感的に、そう思った。
クレッジは、背中に担いだ大剣を抜いて、ヴィルイまで走った。
「ヴィルイ様……俺の後ろに」
「な、なんだ!? 敵が出たのか!?」
「はい。俺の後ろにいて、動かないでください。絶対に俺の前に出ないで、俺から離れないでください」
「な、なんだと!? そんなに危険なものがいるのか!?」
パティシニルも、ヴィルイの後ろでじっとしている。どちらかといえば、パティシニルの方が、危険がわかっているからか、守りやすい。ヴィルイのように、人を盾がわりにしながら興味本位で魔物の方をチラチラ見ていると、護衛対象なのに、ひどく邪魔に思えてくる。
イウリュースが面倒臭そうに言う。
「真面目だなー。そんな奴、ちょっと怪我でもさせるくらいがちょうどいいのに」
「……依頼ですから……あの! これは俺の仕事なので……」
「じゃあ俺も、今から出てくる魔物倒して素材回収して行く。素材回収の依頼、引き受けてるし」
それ嘘ですよね? と言っても無駄なのは知っている。それに、魔物は既に近くにいるらしい。
背後でまだぶつぶつ言っているヴィルイを気にしながら剣を握って、イウリュースに視線で合図を送る。
イウリュースに憧れている冒険者は多い。彼は、仲間の剣術使いたちと共に、山間の小さな町を押しつぶすくらいにまで成長した魔物を討伐したことで、勇者だと称えられてる。爵位も与えられて、誰もが尊敬するような人なのに、やけに気さくで、いまだにクレッジにも会ってくれる。正義感の強い、クレッジにとっては憧れの人だった。
そんな人と並んで剣を構えていると、自然と高揚する。
イウリュースに向かって、頭で背後のヴィルイたちを指して合図を送る。最優先に考えるのは依頼人、そういう合図だ。冒険者同士、小さな合図だけで、意思の疎通はできる。
最悪の場合、自分は依頼人のために動くし、イウリュースには、もしもの時はヴィルイを守ってほしい。
しかし本音では、いざという時にはイウリュースを優先してしまいそうだった。
イウリュースが、先ほどまでとは違う目で頷くのを確認してから、気配を探る。
微かに、水の粒がクレッジの頬に飛んできた。スライムかと思ったが、木々を押し倒し、飛びかかってきたのは、大きな石の魔物だった。石を積み上げてできた巨人ような姿をしたそれは、クレッジたちに向かって石の拳を振り下ろしてくる。
最近魔物が増えているというのは、本当だったらしい。
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