64 / 105
64.そのことばかり、気になって
しおりを挟むパチパチと、焚き火が燃えている。今日の晩ごはんは、焚き火で焼いた串焼きだ。焚き火で炙られた網の上で、肉と野菜を刺した串が焼けている。それを囲んで、僕らは夕飯の時間を迎えた。
僕の隣のラックトラートさんは、串で焼けていく肉を見て、すごく楽しそう。
「僕、こう見えてお肉、大好きなんです! 一番最初に焼けた肉は、僕にください!」
そう言い出しては、ドルニテットに「何でお前が最初なんだ」と言われている。
その隣に座る僕は、向かい側で肉を焼いているレヴェリルインのことばっかり気になっていた。彼は焼けた肉をひっくり返しては「たくさんあるから喧嘩をするな」って言って、二人を宥めている。なんだか、レヴェリルインも楽しそう。普段あまり見せない顔で笑ってる。
僕はそんな彼の顔を、両膝を抱いて座ってフードを深く被りながら、こっそり盗み見ていた。
さっき勇気を出して「僕が焼きます」って言った時も断られてしまった。お前は食べていろって言われた。
昨日だって全部作ってもらったし、僕も何かしたいのに……
だけど、そんなの言い訳で、本当は隣に、そばにいきたかっただけかもしれない。
それなのに、レヴェリルインのこと、まっすぐ見れない。また緊張しているのか?
そんなことを考えながら、煙越しのレヴェリルインを見つめていたら、彼の隣にいるアトウェントラが、レヴェリルインに微笑んだ。
「レヴェリ様って、結構料理上手なんですね。城にいた頃とは、ずいぶん印象が違います」
「そうか……?」
「はい。なんだか楽しそうです」
「……そうだな」
レヴェリルインがまた微笑んでる。隣にいるアトウェントラに。
そんな様子が気になってしまう。そんなの、ただの従者の僕には関係ないはずなのに、さっきドルニテットに言われたことばかり思い出す。
アトウェントラはずっと、レヴェリルインをレヴェリ様って呼ぶ。
二人とも、知り合いではあるようだけど、そんなに親密な仲なのか?
僕は従者なのに、これまでレヴェリルインのそばにいたことがなかった。彼が誰と仲がいいとか、そんなことも知らない。
もう、彼のことを見ていられなくて、顔を背ける。そしたら、彼に呼ばれてしまった。
「コフィレグトグス」
「は、はい!!」
慌てて、顔を上げる。そしたら、レヴェリルインは僕に、綺麗に焼けた串の乗った皿を渡してくれた。
「焼けたぞ。たくさん食べろ」
「は、はい……あ、ありがとうございます……」
早速、皿を受け取る。たくさん肉が乗ってるそれは、全部、レヴェリルインが焼いてくれたものだ。僕もお腹が空いているし、すごく美味しそうなそれを見たら、食欲をそそられる。
それでも、口に入れてしまうのも勿体ない。だって、レヴェリルインが僕にくれたものなんだ。
じっと見下ろしていたら、レヴェリルインが首を傾げる。
「コフィレグトグス? どうした?」
「あ、い、いえ……い、いただきます……」
慌てて口に入れる。自分が考えてたこと、隠すみたいに。
彼が僕のために焼いてくれたって思ったら、すごく美味しい。なんだか体もあったかくなっていくみたい。だけどやっぱりなくなっちゃうのが寂しい。
隣では、たくさん刺した肉に、ラックトラートさんがかぶりついていた。
「美味しいっ……! レヴェリルイン様、こんなこともできるんですねー……常識が欠如した乱暴者なんて言って、すみませんでした!」
「……そんなことを言っていたのか?」
「い、いえ……レヴェリルイン様の隠れた良識……ではなく、魅力に気づくことができて、きっと、レヴェリルイン様が愛する人も、レヴェリルイン様を好きになります!」
「…………そう思うのか?」
「はい! もちろんです! ところで、肉の串をもう一本もらってもいいですか?」
「……好きなだけ食え」
そう言って、レヴェリルインは、ラックトラートさんに山盛りの肉を渡している。
愛する人って何……? そんな人……いるのか?
聞いたことない。レヴェリルインは貴族だし、求婚の話があったことは聞いたことあるけど、婚約したって話は聞かない。
だけどレヴェリルイン、嬉しそうにしてないか? 好きな人が好きになってくれるって言われて嬉しいのか?? そんな顔するほど……!?
僕にそんな顔しないのに……いや、待て。そもそも僕、レヴェリルインの顔なんて、ほとんど見てない。だって、顔を合わせるのが怖くて、俯いてばかりだった。もしかして、今顔を上げたら、レヴェリルインは少しくらい、こっちを見てくれるのか?
レヴェリルインは隣にいるドルニテットに、肉の乗った皿を渡していた。
ドルニテットはいつも、レヴェリルインの隣にいる。彼のことを尊敬しているみたいだし、城を爆破する直前も、二人でいた。
って、僕は何でそんなことばっかり考えてるんだ。だいたい、レヴェリルインだって、いつか婚約者ができたりするんだし……
煙越しのレヴェリルインのことばかり考えていたら、ドルニテットが僕を串で指して怒鳴った。
「兄上! 俺の話はまだ終わっていません! それから杖を取り上げてくれないと、俺は落ち着いて食事ができません! 取り上げるべきです!」
「それはコフィレグトグスのために作ったんだ。いずれかならず、コフィレグトグスに魔力を返すために」
「……なんでそう頑ななんですか……兄上は、そのグズのことを考えていなかったら優秀なんです。そのグズのことさえ忘れてくれれば……」
ため息をつくドルニテットに、レヴェリルインは肉を渡している。
僕……めちゃくちゃ邪魔者に見られている。
……だけど今は、レヴェリルインが僕に魔力を返すって言ってくれたことばかり嬉しい。本当は多分、ドルニテットの言うとおりなのに。僕はこの杖を返して、レヴェリルインのもとを去るべきなのに……僕が考えるのはレヴェリルインのことばかり。
すると、レヴェリルインの隣のアトウェントラが、微笑んで言った。
「ドルニテット様とレヴェリ様は、はとても仲がいいんですね」
「おい、やめろ。誰がこいつと……」
嫌そうな顔をするレヴェリルインから逃げるように、彼は腰を上げた。
「レヴェリ様も食べてください……僕、お酒を注いできます」
そう言って彼は、席を立つ。テーブルのそばに積んだ箱に、お酒の瓶が入っていたはずだ。
僕も立ち上がって、彼の後を追った。
「あ、あの…………ぼ、僕も……」
僕も、レヴェリルインのために何かしたい。それに、人数分を一人で用意するのは大変なはずだ。
だけど、そううまく言えない僕に、アトウェントラは振り向いた。
「一緒にする?」
「は、はいっ……!」
「じゃあ、行こ」
そう言って、彼は何でもないことのように、僕の手を握った。
10
お気に入りに追加
222
あなたにおすすめの小説
猫が崇拝される人間の世界で猫獣人の俺って…
えの
BL
森の中に住む猫獣人ミルル。朝起きると知らない森の中に変わっていた。はて?でも気にしない!!のほほんと過ごしていると1人の少年に出会い…。中途半端かもしれませんが一応完結です。妊娠という言葉が出てきますが、妊娠はしません。
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
なんでも諦めてきた俺だけどヤンデレな彼が貴族の男娼になるなんて黙っていられない
迷路を跳ぶ狐
BL
自己中な無表情と言われて、恋人と別れたクレッジは冒険者としてぼんやりした毎日を送っていた。
恋愛なんて辛いこと、もうしたくなかった。大体のことはなんでも諦めてのんびりした毎日を送っていたのに、また好きな人ができてしまう。
しかし、告白しようと思っていた大事な日に、知り合いの貴族から、その人が男娼になることを聞いたクレッジは、そんなの黙って見ていられないと止めに急ぐが、好きな人はなんだか様子がおかしくて……。
【魔導具師マリオンの誤解】 ~陰謀で幼馴染みの王子に追放されたけど美味しいごはんともふもふに夢中なので必死で探されても知らんぷりします
真義あさひ
BL
だいたいタイトル通りの前世からの因縁カプもの、剣聖王子×可憐な錬金魔導具師の幼馴染みライトBL。
攻の王子はとりあえず頑張れと応援してやってください……w
◇◇◇
「マリオン・ブルー。貴様のような能無しはこの誉れある研究学園には必要ない! 本日をもって退学処分を言い渡す!」
マリオンはいくつもコンクールで受賞している優秀な魔導具師だ。業績を見込まれて幼馴染みの他国の王子に研究学園の講師として招かれたのだが……なぜか生徒に間違われ、自分を呼び寄せたはずの王子からは嫌がらせのオンパレード。
ついに退学の追放処分まで言い渡されて意味がわからない。
(だから僕は学生じゃないよ、講師! 追放するなら退学じゃなくて解雇でしょ!?)
マリオンにとって王子は初恋の人だ。幼い頃みたく仲良くしたいのに王子はマリオンの話を聞いてくれない。
王子から大切なものを踏みつけられ、傷つけられて折れた心を抱え泣きながら逃げ出すことになる。
だがそれはすべて誤解だった。王子は偽物で、本物は事情があって学園には通っていなかったのだ。
事態を知った王子は必死でマリオンを探し始めたが、マリオンは戻るつもりはなかった。
もふもふドラゴンの友達と一緒だし、潜伏先では綺麗なお姉さんたちに匿われて毎日ごはんもおいしい。
だがマリオンは知らない。
「これぐらいで諦められるなら、俺は転生してまで追いかけてないんだよ!」
王子と自分は前世からずーっと同じような追いかけっこを繰り返していたのだ。
好きな人の婚約者を探しています
迷路を跳ぶ狐
BL
一族から捨てられた、常にネガティブな俺は、狼の王子に拾われた時から、王子に恋をしていた。絶対に叶うはずないし、手を出すつもりもない。完全に諦めていたのに……。口下手乱暴王子×超マイナス思考吸血鬼
*全12話+後日談1話
ヘタレな師団長様は麗しの花をひっそり愛でる
野犬 猫兄
BL
本編完結しました。
お読みくださりありがとうございます!
番外編は本編よりも文字数が多くなっていたため、取り下げ中です。
番外編へ戻すか別の話でたてるか検討中。こちらで、また改めてご連絡いたします。
第9回BL小説大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございました_(._.)_
【本編】
ある男を麗しの花と呼び、ひっそりと想いを育てていた。ある時は愛しいあまり心の中で悶え、ある時は不甲斐なさに葛藤したり、愛しい男の姿を見ては明日も頑張ろうと思う、ヘタレ男の牛のような歩み寄りと天然を炸裂させる男に相手も満更でもない様子で進むほのぼの?コメディ話。
ヘタレ真面目タイプの師団長×ツンデレタイプの師団長
2022.10.28ご連絡:2022.10.30に番外編を修正するため下げさせていただきますm(_ _;)m
2022.10.30ご連絡:番外編を引き下げました。
【取り下げ中】
【番外編】は、視点が基本ルーゼウスになります。ジーク×ルーゼ
ルーゼウス・バロル7歳。剣と魔法のある世界、アンシェント王国という小さな国に住んでいた。しかし、ある時召喚という形で、日本の大学生をしていた頃の記憶を思い出してしまう。精霊の愛し子というチートな恩恵も隠していたのに『精霊司令局』という機械音声や、残念なイケメンたちに囲まれながら、アンシェント王国や、隣国のゼネラ帝国も巻き込んで一大騒動に発展していくコメディ?なお話。
※誤字脱字は気づいたらちょこちょこ修正してます。“(. .*)
【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜
N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間)
ハーレム要素あります。
苦手な方はご注意ください。
※タイトルの ◎ は視点が変わります
※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます
※ご都合主義です、あしからず
甥っ子と異世界に召喚された俺、元の世界へ戻るために奮闘してたら何故か王子に捕らわれました?
秋野 なずな
BL
ある日突然、甥っ子の蒼葉と異世界に召喚されてしまった冬斗。
蒼葉は精霊の愛し子であり、精霊を回復できる力があると告げられその力でこの国を助けて欲しいと頼まれる。しかし同時に役目を終えても元の世界には帰すことが出来ないと言われてしまう。
絶対に帰れる方法はあるはずだと協力を断り、せめて蒼葉だけでも元の世界に帰すための方法を探して孤軍奮闘するも、誰が敵で誰が味方かも分からない見知らぬ地で、1人の限界を感じていたときその手は差し出された
「僕と手を組まない?」
その手をとったことがすべての始まり。
気づいた頃にはもう、その手を離すことが出来なくなっていた。
王子×大学生
―――――――――
※男性も妊娠できる世界となっています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる