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64.そのことばかり、気になって

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 パチパチと、焚き火が燃えている。今日の晩ごはんは、焚き火で焼いた串焼きだ。焚き火で炙られた網の上で、肉と野菜を刺した串が焼けている。それを囲んで、僕らは夕飯の時間を迎えた。

 僕の隣のラックトラートさんは、串で焼けていく肉を見て、すごく楽しそう。

「僕、こう見えてお肉、大好きなんです! 一番最初に焼けた肉は、僕にください!」

 そう言い出しては、ドルニテットに「何でお前が最初なんだ」と言われている。

 その隣に座る僕は、向かい側で肉を焼いているレヴェリルインのことばっかり気になっていた。彼は焼けた肉をひっくり返しては「たくさんあるから喧嘩をするな」って言って、二人を宥めている。なんだか、レヴェリルインも楽しそう。普段あまり見せない顔で笑ってる。

 僕はそんな彼の顔を、両膝を抱いて座ってフードを深く被りながら、こっそり盗み見ていた。

 さっき勇気を出して「僕が焼きます」って言った時も断られてしまった。お前は食べていろって言われた。
 昨日だって全部作ってもらったし、僕も何かしたいのに……

 だけど、そんなの言い訳で、本当は隣に、そばにいきたかっただけかもしれない。

 それなのに、レヴェリルインのこと、まっすぐ見れない。また緊張しているのか?

 そんなことを考えながら、煙越しのレヴェリルインを見つめていたら、彼の隣にいるアトウェントラが、レヴェリルインに微笑んだ。

「レヴェリ様って、結構料理上手なんですね。城にいた頃とは、ずいぶん印象が違います」
「そうか……?」
「はい。なんだか楽しそうです」
「……そうだな」

 レヴェリルインがまた微笑んでる。隣にいるアトウェントラに。

 そんな様子が気になってしまう。そんなの、ただの従者の僕には関係ないはずなのに、さっきドルニテットに言われたことばかり思い出す。

 アトウェントラはずっと、レヴェリルインをレヴェリ様って呼ぶ。
 二人とも、知り合いではあるようだけど、そんなに親密な仲なのか?

 僕は従者なのに、これまでレヴェリルインのそばにいたことがなかった。彼が誰と仲がいいとか、そんなことも知らない。

 もう、彼のことを見ていられなくて、顔を背ける。そしたら、彼に呼ばれてしまった。

「コフィレグトグス」
「は、はい!!」

 慌てて、顔を上げる。そしたら、レヴェリルインは僕に、綺麗に焼けた串の乗った皿を渡してくれた。

「焼けたぞ。たくさん食べろ」
「は、はい……あ、ありがとうございます……」

 早速、皿を受け取る。たくさん肉が乗ってるそれは、全部、レヴェリルインが焼いてくれたものだ。僕もお腹が空いているし、すごく美味しそうなそれを見たら、食欲をそそられる。

 それでも、口に入れてしまうのも勿体ない。だって、レヴェリルインが僕にくれたものなんだ。

 じっと見下ろしていたら、レヴェリルインが首を傾げる。

「コフィレグトグス? どうした?」
「あ、い、いえ……い、いただきます……」

 慌てて口に入れる。自分が考えてたこと、隠すみたいに。
 彼が僕のために焼いてくれたって思ったら、すごく美味しい。なんだか体もあったかくなっていくみたい。だけどやっぱりなくなっちゃうのが寂しい。

 隣では、たくさん刺した肉に、ラックトラートさんがかぶりついていた。

「美味しいっ……! レヴェリルイン様、こんなこともできるんですねー……常識が欠如した乱暴者なんて言って、すみませんでした!」
「……そんなことを言っていたのか?」
「い、いえ……レヴェリルイン様の隠れた良識……ではなく、魅力に気づくことができて、きっと、レヴェリルイン様が愛する人も、レヴェリルイン様を好きになります!」
「…………そう思うのか?」
「はい! もちろんです! ところで、肉の串をもう一本もらってもいいですか?」
「……好きなだけ食え」

 そう言って、レヴェリルインは、ラックトラートさんに山盛りの肉を渡している。

 愛する人って何……? そんな人……いるのか?
 聞いたことない。レヴェリルインは貴族だし、求婚の話があったことは聞いたことあるけど、婚約したって話は聞かない。

 だけどレヴェリルイン、嬉しそうにしてないか? 好きな人が好きになってくれるって言われて嬉しいのか?? そんな顔するほど……!?

 僕にそんな顔しないのに……いや、待て。そもそも僕、レヴェリルインの顔なんて、ほとんど見てない。だって、顔を合わせるのが怖くて、俯いてばかりだった。もしかして、今顔を上げたら、レヴェリルインは少しくらい、こっちを見てくれるのか?

 レヴェリルインは隣にいるドルニテットに、肉の乗った皿を渡していた。
 ドルニテットはいつも、レヴェリルインの隣にいる。彼のことを尊敬しているみたいだし、城を爆破する直前も、二人でいた。

 って、僕は何でそんなことばっかり考えてるんだ。だいたい、レヴェリルインだって、いつか婚約者ができたりするんだし……

 煙越しのレヴェリルインのことばかり考えていたら、ドルニテットが僕を串で指して怒鳴った。

「兄上! 俺の話はまだ終わっていません! それから杖を取り上げてくれないと、俺は落ち着いて食事ができません! 取り上げるべきです!」
「それはコフィレグトグスのために作ったんだ。いずれかならず、コフィレグトグスに魔力を返すために」
「……なんでそう頑ななんですか……兄上は、そのグズのことを考えていなかったら優秀なんです。そのグズのことさえ忘れてくれれば……」

 ため息をつくドルニテットに、レヴェリルインは肉を渡している。

 僕……めちゃくちゃ邪魔者に見られている。

 ……だけど今は、レヴェリルインが僕に魔力を返すって言ってくれたことばかり嬉しい。本当は多分、ドルニテットの言うとおりなのに。僕はこの杖を返して、レヴェリルインのもとを去るべきなのに……僕が考えるのはレヴェリルインのことばかり。

 すると、レヴェリルインの隣のアトウェントラが、微笑んで言った。

「ドルニテット様とレヴェリ様は、はとても仲がいいんですね」
「おい、やめろ。誰がこいつと……」

 嫌そうな顔をするレヴェリルインから逃げるように、彼は腰を上げた。

「レヴェリ様も食べてください……僕、お酒を注いできます」

 そう言って彼は、席を立つ。テーブルのそばに積んだ箱に、お酒の瓶が入っていたはずだ。

 僕も立ち上がって、彼の後を追った。

「あ、あの…………ぼ、僕も……」

 僕も、レヴェリルインのために何かしたい。それに、人数分を一人で用意するのは大変なはずだ。
 だけど、そううまく言えない僕に、アトウェントラは振り向いた。

「一緒にする?」
「は、はいっ……!」
「じゃあ、行こ」

 そう言って、彼は何でもないことのように、僕の手を握った。
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