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52.相変わらずですね

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 裏通りに降りた僕らは、アトウェントラの案内で、魔法薬を受け取ったという剣術使いの家に急いでいた。スキノレールとリフィノセスという腕の立つ二人で、リフィノセスはすぐに目を覚ましたらしいけど、スキノレールの方は、魔物に襲われた時に、魔物の力が体に入り込んでしまい、目を覚まさないらしい。

 レヴェリルインは、歩きながら、彼らを捕らえてしまったものについて話してくれた。

「おそらく、魔物と戦った時に、気づかないうちにその体の一部が体に潜り込んだのだろう」
「え、えっと……じゃあ……その人、そのせいで動けないん……ですか?」

 僕がたずねると、レヴェリルインはあっさり首を横に振る。

「そうなったとしても、ずっと寝込んだままだと言うのはおかしい。なにより、あのコエレシールの焦り具合からすると、奴らがギルドを潰すために仕組んだと考えて、間違いないだろう。どうせ、クリウールトの差金だろうな」

 それを聞いて、僕の隣を歩いていたアトウェントラは肩を落とす。

「やっぱり、そうなのかな……レヴェリ様、本当に力を貸していただけるんですか?」
「ああ。代わりに、俺が魔法薬を回収してコエレシールたちを黙らせたら、お前たちは俺に力を貸せ」
「それは……構いませんけど……レヴェリ様がそんなことを言うのは、初めてですよね? 僕、なんだか嬉しいです」
「……うるさい」

 そう言って、レヴェリルインは、すぐに顔を背けてしまうけど、なんだか嬉しそう。

 アトウェントラとは、顔見知りかな……ずっと「レヴェリ様」って呼んでる。なんだか歩く時の距離も近い気がする。いいな……

 僕も、もう少しそばに行きたい。さっきだってあっさりレヴェリルインに後ろに下げられちゃったのに、図々しいのかもしれないけど……

 さっきのことを思い出すと凹む。震えてただけで、結局何もできてない。もう少し役に立てたら、僕もあんな風に横に並べたりするのか……?

 そんな風に考えながら、前を歩くレヴェリルインとアトウェントラの後ろ姿を見ていたら、今度は、ラックトラートさんが、手帳を持ってアトウェントラに近づいていく。

「ウェトラさん!!」
「うわっ……! びっくりした……」
「驚かせてしまってすみません!! 僕はたぬきさん新聞の記者で、ラックトラートと申します!」
「は? え? たぬき?? ああ、あの……嘘か本当かわからない記事書いて人魚族を怒らせたタブロイドか……」
「嘘か本当かなんて言わないでください! 僕ら、たぬきさん新聞は嘘なんかつきません!!」
「……魔法ギルドの記者と喧嘩して追い出された奴らがやってるって聞いたけど……」
「その情報こそがせです! 誰に聞いたんですかそれ!! 僕は、編集長の人柄に惚れ込んで、はるばるこの街にやってきたんです!! 今回のことは、僕が取材させていただきます!!」
「えー、記事にはしないで欲しいなあ……コエレシールも困るだろうし……」
「で、では……お、お話だけでも聞かせてください!! 魔法薬を借りたって、本当なんですか?」
「正確に言うと、魔法薬じゃなくて、それを作るための魔法具。それが今、リフィノセスたちの家にあるはずなんだ。使い捨ての魔法具だったけど、魔力をほとんど使わなくても魔法薬を作れる、便利なものだっと言われて借りたんだ」
「使い捨て? 一体いくつ借りたんですか?」
「えっと……十個くらいかな……」
「じ……し、失礼ながら、魔族の術で作られたものとなれば、かなり貴重なものです。それを……十個も? その魔法薬を返せって言われてるんですか?」
「うん……だけどもう全部使っちゃったし、どうしようもないんだよね……」

 すると、レヴェリルインが首を傾げて言った。

「なぜそんなものを借りたんだ? 魔物と戦った傷なら、ものにもよるが、普通の薬で足りるはずだ」
「……貴重だなんて、僕たちにはそんなこと分かりません。僕たちは魔法使いじゃないんです。知り合いの商人に相談したら、だったらいいものがある、返すのもいつでもいいって言うから……そしたら使い捨てのものだし、今更魔法薬を返せ、なんて言われても、僕にはどうしようもありません」
「……その話だけを聞けば、おそらく、詐欺を働かれたんだろうな……貴重ではあるがお前には不要なものを、返すことができないと知りながら貸し出している。最初から、お前を嵌める気だったんだ。なぜそれなら、こっちに話してこなかった?」
「……そんなの、できるわけありません。伯爵の力を借りるなんて、剣術使いたちが黙っていません。だからこそ、剣術使いの街と言われた、隣町の商人の力を借りたんです。彼は昔、僕が港町にいた頃の知り合いなんです。だから信じたんだけど、魔法使いギルドからのものだったなんて……」
「それで、その魔法薬を作るために借りた魔法具とやらはどこへ行った?」
「返しました。もう使えなくても、大事なものだから返して欲しいって言われたので」
「証拠を持っていかれたな」
「……馬鹿だったと思っています……やっぱり僕じゃ、ダメだったのかな……」

 そう言って、僕の少し前を歩くアトウェントラが俯く。それがひどく切なく見えた。なんだか、あの城にいた時の自分を見ているようで。

「…………ぁ……」
「え?」

 蚊の鳴くような声だったのに、アトウェントラは僕に振り向いた。隣にいたレヴェリルインも、少し前を歩いていたドルニテットも、ラックトラートさんも。

 そ、そんなにみんな振り向くなんて思わなかった……

 みんなに振り向かれて、一気に緊張する。だ、だけど、先に声をかけたのは僕だ。

「……あっ……あの…………だ、め……なんかじゃない……です……」
「……え?」

 アトウェントラは、不思議そうに首を傾げている。当然だ。だって突然、初対面の僕にこんなこと言われてるんだから。彼だって、僕にこんなこと言われるいわれ、ないんだろうけど……

「ありがとー。可愛い子だね」
「へ!??」

 顔を上げたら、アトウェントラは僕を見下ろして微笑んでいた。

「君……レヴェリルインの従者って、本当?」
「えっ……!? あ……は、はい……」
「ふーん……小さくて可愛いから、レヴェリ様の子供かと思った」
「ええっっ!?? ち、違っ……違い……ます……ぼ、ぼく、僕……ほ、本当に従者なんです!!」
「冗談だよ。僕はアトウェントラ。ウェトラって呼べばいいよ。君は?」
「あっ……え、えっと……コフィレグトグスって言います……す、好きに……呼んでくれていいです……」

 や、やった……今度はちゃんと挨拶できた……

 なんだか嬉しい僕に、アトウェントラは顔を近づけてくる。

「じゃあ、コフィレでいい?」
「あ、は、はいっ……!」
「コフィレは、魔法使いなの?」
「え!? あ、えっと……僕は、ま、魔力、なくて……魔法も、つ、使えないんです……」
「そうなの? だけど、さっき、魔法の杖、持ってたよね?」
「あっ……持ってはいますが…………魔法を使うことはできなくて……」
「そうなの? え!!? じゃあ、魔法使えないのに、さっきコエレシールに立ち向かっていったの!?」
「……はい……」

 やっぱり無謀すぎたのかな……今思うと、めちゃくちゃ無謀だった。

 けれど、アトウェントラは微笑んで、僕の頭を撫でてくれた。

「ありがとう……レヴェリ様は可愛い従者がいていいなー。僕にも仕えてよ」
「え!!? え……」

 僕にもって……それは無理だ。それに、やけに体も顔も近づけてきて怖い。僕、ずっとだんだん離れていっているのに、その度に彼もだんだん近づいてきて、二人して道の端に近づいていってる。

 すると、アトウェントラのくびねっこを後ろからレヴェリルインが掴んで、僕から離してくれた。

「いい加減にしろ。ウェトラ。俺の従者が怯えている」
「ちょっ……! レヴェリ様! 離してください!! 僕はただ、彼がビクビクしてるから……レヴェリ様にいびられてないか、聞き出そうとしたくらいです! なんでそんなに怒ってるんですか?」
「誰がいびるだ!! お前はそんな風だから誤解されるんだ!!」

 ついに怒鳴り合いになるレヴェリルインとアトウェントラ。ラックトラートさんが呆れたように、相変わらずですねーって言ってた。
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