上 下
31 / 105

31.約束だ

しおりを挟む

 狸耳の人は震え上がっていたけど、警備隊の人は、レヴェリルインと距離をとって、彼を睨みつけた。

「な、何もしてねえって言ってるだろっ! そ、そもそもっ……お前はもう、伯爵の弟じゃないだろ!」
「ああ、そうだ。だから気兼ねなくこんなこともできる」

 そう言ってレヴェリルインは、魔法で呼び出した鎖で警備隊の人をぐるぐる巻きにすると、無理矢理奥の扉に放り込む。そして、震えている狸耳の人の襟首を掴んで、扉の向こうに連れていく。

 僕は慌てて、その後を追った。

 なんでレヴェリルインはこんなことしてるんだ!? どうしよう……僕はどうしたらいいんだ!??

 焦りながら、止めることもできなくて、僕はずっと、レヴェリルインについて行った。

 彼は狸耳の人を連れて、鎖で縛った警備隊の人を無理矢理奥の部屋に連れていく。
 そして、さっきの部屋までくると、縛った男を突き飛ばしてしまった。

 床に倒された警備隊の人は、倒れたままレヴェリルインを睨みつける。

「いた……な、なにしやがるっ……!」

 それを見て慌てた狸耳の人が、倒れたままの警備隊の人を庇うように駆け寄った。

「あ、あのっ……城爆破と貴族虐殺の件なら記事にしてないから助けてくださいっ……!」
「そんなことより、俺の従者と何を話していた?」
「え!? き、記事のこと、怒ってるんじゃ……」
「そんなものは知らん。俺の従者と何を話していた? 何かしたのか?」
「な、な、何か? ちょ、ちょっと締め上げただけで何も……」
「……締め上げた?」
「…………ち、違うんです……僕ら何も……わ、悪気があった訳じゃなくて……」

 怖いのか、彼の声はだんだん小さくなっていく。
 怯えるその人を庇うように、今度は警備隊の人が声を上げた。

「やめろっ……! そいつに手を出したのは俺だ!! やりたきゃ俺をやれよ!!」
「……手を出した?」
「ひっ……!」

 二人とも、レヴェリルインを見上げて震えている。

 こんなことしていたら、レヴェリルインはますます誤解されちゃう!
 僕はなんとか勇気を振り絞って、レヴェリルインに駆け寄った。

「あ、あのっ……あ、ま、マスター!! や、やめっ……あ、あの……やめてくださいっ!」

 レヴェリルインはすぐに僕に振り向いてくれる。彼が険しい顔をしていて、僕の身体がビクッと震えた。

 けれど、彼は心配そうに、優しく僕の頭を撫でてくれる。

「……どうした?」
「……ぇ……?」
「震えている」
「ぁ……」

 本当だ。僕の手、ずっと震えたままだ。

「え、えっと…………あの、あ……ご、誤解……されちゃうから……」
「誤解?」
「あ……」

 これじゃダメだ。ちゃんと説明しなきゃ。だけど、どうやったら伝わるんだ?

 レヴェリルインが酷い人のように言われるのは嫌だ。僕が話しかけた二人にも、わかってほしい。レヴェリルインは、僕を助けてくれたんだって。

 だけどうまく伝わらなくて、ますます焦る。何か言わなきゃ、説明しなきゃならないのに。

 口籠もっていると、レヴェリルインは僕の頭を優しく撫でてくれた。

「……怯えなくていい」
「え……?」
「あの二人に何かされたんじゃないのか?」
「え!? あ、な、何も……されてないです……」
「締め上げられたんじゃないのか?」
「あっ……それは……されたけど、い、いいんです!! あなたが誤解される方がっ……ダメです!」
「誤解? 俺が?」
「貴族たちを虐殺したって……」
「……」

 レヴェリルインは少し考えて、狸耳の人に振り向いた。

「つまり、お前たちが、俺が城を爆破した件について話していて、それをコフィレグトグスが止めに入ったのか?」
「ま、まあ……そうです……」

 狸耳の人が頷くと、レヴェリルインは、そうかって言って、僕を見下ろした。

「……俺が、噂されるのが嫌だったのか?」
「え!!?? は、はい……」

 答えると、レヴェリルインはまた、僕の頭を撫でてくれる。な、なんだか嬉しそう?? 噂されていたのに。

 けれど彼はもう険しい顔をしていなくて、狸耳の人たちに振り向いた。

「本当なら、少し仕置きしてやりたいが、俺の従者は乱暴なやり方が嫌いなんだ。今回だけ許してやる」
「あ、ありがとうございます!」

 狸耳の人は顔を綻ばせるけど、警備隊の人は不満そう。

 レヴェリルインは、そんな二人のことは気にせず、僕の頭をずっと撫でている。

「俺の噂を止めたかったのは……可愛いが、あまり無茶をするな。何かあれば、すぐに俺を呼べばいい」
「は、はいっ!」
「……約束だぞ。お前を傷つけられたくない」
「え……」

 レヴェリルイン、ずっと心配そう……僕を傷つけられたくないって……そんな風に思ってくれてるんだ……

 そうか……僕を心配してくれているんだ。だから、こんなことを言うんだ。

 あ……っ!! そうか! さっきだって、助けてくれたんだ!
 僕があの警備隊の人に怒鳴られているのに気づいてきてくれたんだ。お礼、言わなきゃっ……!

 だけど顔を上げた時には遅くて、レヴェリルインは狸耳の人たちに向き直ってしまう。

 慌てた僕は、レヴェリルインの服を掴んでしまった。

「あ、のっ……さ、さっきありがとう……ございまし、た……」
「さっき?」

 レヴェリルインは不思議そうに首を傾げている。なんのことを言われているのか、分からないんだ。

「あ、あのっ……さ、さ、さっき、店で……あの、僕が怯えてた時……ふ、二人と話していた時です! ありがとうございました……」

 だいぶ間が抜けたお礼になったけど、レヴェリルインは微笑んでくれる。

「そんなことはいい。ただし、約束を覚えておくんだぞ」
「はい!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

猫が崇拝される人間の世界で猫獣人の俺って…

えの
BL
森の中に住む猫獣人ミルル。朝起きると知らない森の中に変わっていた。はて?でも気にしない!!のほほんと過ごしていると1人の少年に出会い…。中途半端かもしれませんが一応完結です。妊娠という言葉が出てきますが、妊娠はしません。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

なんでも諦めてきた俺だけどヤンデレな彼が貴族の男娼になるなんて黙っていられない

迷路を跳ぶ狐
BL
 自己中な無表情と言われて、恋人と別れたクレッジは冒険者としてぼんやりした毎日を送っていた。  恋愛なんて辛いこと、もうしたくなかった。大体のことはなんでも諦めてのんびりした毎日を送っていたのに、また好きな人ができてしまう。  しかし、告白しようと思っていた大事な日に、知り合いの貴族から、その人が男娼になることを聞いたクレッジは、そんなの黙って見ていられないと止めに急ぐが、好きな人はなんだか様子がおかしくて……。

【魔導具師マリオンの誤解】 ~陰謀で幼馴染みの王子に追放されたけど美味しいごはんともふもふに夢中なので必死で探されても知らんぷりします

真義あさひ
BL
だいたいタイトル通りの前世からの因縁カプもの、剣聖王子×可憐な錬金魔導具師の幼馴染みライトBL。 攻の王子はとりあえず頑張れと応援してやってください……w ◇◇◇ 「マリオン・ブルー。貴様のような能無しはこの誉れある研究学園には必要ない! 本日をもって退学処分を言い渡す!」 マリオンはいくつもコンクールで受賞している優秀な魔導具師だ。業績を見込まれて幼馴染みの他国の王子に研究学園の講師として招かれたのだが……なぜか生徒に間違われ、自分を呼び寄せたはずの王子からは嫌がらせのオンパレード。 ついに退学の追放処分まで言い渡されて意味がわからない。 (だから僕は学生じゃないよ、講師! 追放するなら退学じゃなくて解雇でしょ!?) マリオンにとって王子は初恋の人だ。幼い頃みたく仲良くしたいのに王子はマリオンの話を聞いてくれない。 王子から大切なものを踏みつけられ、傷つけられて折れた心を抱え泣きながら逃げ出すことになる。 だがそれはすべて誤解だった。王子は偽物で、本物は事情があって学園には通っていなかったのだ。 事態を知った王子は必死でマリオンを探し始めたが、マリオンは戻るつもりはなかった。 もふもふドラゴンの友達と一緒だし、潜伏先では綺麗なお姉さんたちに匿われて毎日ごはんもおいしい。 だがマリオンは知らない。 「これぐらいで諦められるなら、俺は転生してまで追いかけてないんだよ!」 王子と自分は前世からずーっと同じような追いかけっこを繰り返していたのだ。

好きな人の婚約者を探しています

迷路を跳ぶ狐
BL
一族から捨てられた、常にネガティブな俺は、狼の王子に拾われた時から、王子に恋をしていた。絶対に叶うはずないし、手を出すつもりもない。完全に諦めていたのに……。口下手乱暴王子×超マイナス思考吸血鬼 *全12話+後日談1話

ヘタレな師団長様は麗しの花をひっそり愛でる

野犬 猫兄
BL
本編完結しました。 お読みくださりありがとうございます! 番外編は本編よりも文字数が多くなっていたため、取り下げ中です。 番外編へ戻すか別の話でたてるか検討中。こちらで、また改めてご連絡いたします。 第9回BL小説大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございました_(._.)_ 【本編】 ある男を麗しの花と呼び、ひっそりと想いを育てていた。ある時は愛しいあまり心の中で悶え、ある時は不甲斐なさに葛藤したり、愛しい男の姿を見ては明日も頑張ろうと思う、ヘタレ男の牛のような歩み寄りと天然を炸裂させる男に相手も満更でもない様子で進むほのぼの?コメディ話。 ヘタレ真面目タイプの師団長×ツンデレタイプの師団長 2022.10.28ご連絡:2022.10.30に番外編を修正するため下げさせていただきますm(_ _;)m 2022.10.30ご連絡:番外編を引き下げました。 【取り下げ中】 【番外編】は、視点が基本ルーゼウスになります。ジーク×ルーゼ ルーゼウス・バロル7歳。剣と魔法のある世界、アンシェント王国という小さな国に住んでいた。しかし、ある時召喚という形で、日本の大学生をしていた頃の記憶を思い出してしまう。精霊の愛し子というチートな恩恵も隠していたのに『精霊司令局』という機械音声や、残念なイケメンたちに囲まれながら、アンシェント王国や、隣国のゼネラ帝国も巻き込んで一大騒動に発展していくコメディ?なお話。 ※誤字脱字は気づいたらちょこちょこ修正してます。“(. .*)

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

甥っ子と異世界に召喚された俺、元の世界へ戻るために奮闘してたら何故か王子に捕らわれました?

秋野 なずな
BL
ある日突然、甥っ子の蒼葉と異世界に召喚されてしまった冬斗。 蒼葉は精霊の愛し子であり、精霊を回復できる力があると告げられその力でこの国を助けて欲しいと頼まれる。しかし同時に役目を終えても元の世界には帰すことが出来ないと言われてしまう。 絶対に帰れる方法はあるはずだと協力を断り、せめて蒼葉だけでも元の世界に帰すための方法を探して孤軍奮闘するも、誰が敵で誰が味方かも分からない見知らぬ地で、1人の限界を感じていたときその手は差し出された 「僕と手を組まない?」 その手をとったことがすべての始まり。 気づいた頃にはもう、その手を離すことが出来なくなっていた。 王子×大学生 ――――――――― ※男性も妊娠できる世界となっています

処理中です...