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17.これがあの伯爵?
しおりを挟む僕は、レヴェリルインから子犬を受け取って、自分が抱っこしているものを見下ろした。僕の手の中にいるのは、一生懸命尻尾を振っている小さな犬にしか見えない。真っ白で、毛はふわふわ。ポメラニアンの子供みたい。そして、僕を見上げて、キャンって鳴く。
可愛いい……やっぱり子犬だ。
これが、あの伯爵……?
僕が知っている伯爵は、レヴェリルインと同じくらい背が高くて、王都や貴族の間で噂になるほどの美男子だ。そして、魔法の腕は国で一二を争うほど。なるべく口を開かず外を散歩しているだけなら、その容姿と物腰の柔らかさで、すごくモテるらしい。
だけど、求婚の話はまるでない。政略結婚の話はいくつかあったけど、相手の家が逃げたらしい。初対面の時に「どうせなら一族で俺の破壊の道具になってみない?」と言って、相手をしばらく凍らせたようだ。
どう見ても犬にしか見えなくなった、小型犬の伯爵は、レヴェリルインを見上げてワンって言って尻尾を振った。
「助かった……ありがとう。レヴェリ」
「……っっ!!!!」
びっくりした…………しゃべるなんて、思わなかった。びっくりしすぎて、子犬を落としちゃうところだった。
「もう、あそこで殺されるのとかと思った。持つべきものは、出来の良い弟だな。レヴェリ」
そう言って、尻尾を振る犬の声は、確かに伯爵の声だ。会議やパーティーのたびに場を凍らせては、レヴェリルインとドルニテットに会場の外につまみ出される人には見えない。
僕も、レヴェリルインについて会場に行ったことは少しだけあるけど、あの場所にはもう二度と行きたくない。
そして、そんな場を収めてきたのが、レヴェリルインとドルニテット。
レヴェリルインは、今にも殺してしまいそうな目で、犬になった伯爵を睨んでいる。
「……クリウールトに渡せば、お前を処分されるかもしれなかったからな」
「レヴェリ。第五王子を呼び捨てにしてはいけないよ」
「……お前はこれから、その姿でコフィレグトグスのそばにいろ。魔物が出たら、そいつに力を貸すんだ」
「は!? お、おい……冗談はやめてくれ……」
「嫌だというならお前を馬にして馬車馬として売る。お前が横領した金の分を稼いでこい」
「は!!?? え!!??」
ビクッと震える犬を、後ろからドルニテットが抱き上げる。
「兄上、そんな面倒なことをしなくても、このまま猟犬でいいでしょう。魔物を追わせていれば、そのうち魔物たちが引き裂いてくれます」
「じ、冗談はやめてくれ……笑えないぞ。レヴェリ! ドルニ!!」
喚く伯爵だけど、レヴェリルインもドルニテットも、ジーーっと冷たい目で伯爵を見下ろしているだけ。本気でやりそう。
伯爵は僕の後ろに隠れてしまう。
「わ、分かった……そばにいる……だから、そんな目をするのはやめてくれ……二人とも、怒っているのか?」
「お前が魔法の研究のために賜った金を全部着服した上に、貴族たちから預かった魔法具まで売り払ったせいで、俺たちはこんなことになってるんだぞ。馬車馬にしないだけ、ありがたいと思え」
レヴェリルインに冷たく言われて、子犬は項垂れてしまう。
横領の話、本当なんだ……しかも、他の貴族まで怒らせてるんじゃ、あの広間の空気も納得だ。そして、レヴェリルインたちの怒りももっとも。
だけど……その子犬を渡された僕は、ど、どうしたら良いんだろう……
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