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12.手伝ってやろうか?
しおりを挟むついに、その時が来たんだと思った。ついに、僕は処分されるんだ。
本当はもっとずっと前に処分されるはずだったのに、ずっと先延ばしにされていたんだ。その時が来ただけ。
それなのに、やっぱり怖い。
生きていたいわけじゃない。生きていても、僕はずっと、すみで蹲ったまま何も言えずに俯いているんだろう。
だけど、どんな風であっても、死ぬのはやっぱり怖い。
怯える僕に、足音が近づいてくる。後ろからだ。
王子とは違う方から、誰かが近づいてくるのに気づいて、僕は、振り向こうとした。
けれど、それより早く背後から抱きしめられる。僕よりずっと大きくて、力強い腕だった。
「……マスター?」
何をされているんだ? なんで、これから処分される僕が、背後から抱きしめられているんだ。
僕のこと、殺しに来てくれたのか? だけど、それならこんなふうに抱きしめたりしない。
びっくりして見上げた僕に、レヴェリルインは、僕にしか聞こえない声で、囁いた。
「離れるな」
「へっ……!??」
まるで、くすぐるような声だった。
レヴェリルインは立ち上がり、広間に集まった面々と、驚く王子に向かって言った。
「処分はしない」
きっぱりと言われて、王子の顔が激しく歪んだ。
「なんだと……? では、貴様はそれと共に廃棄でいいと、そう言うのか?」
「構わない」
レヴェリルインはそう言って、王子から目を離さなかった。
だけど僕は気が気じゃない。
処分しない!? 何を言っているんだ!? 今、そんなこと言ってる場合じゃない。僕を処分しなかったら、城ごとレヴェリルインたちも殺すって言ってるのに!
僕は、レヴェリルインの服を掴んで、何度も首を横に振った。
けれど、レヴェリルインは何をされているのか、分からないようだ。
これじゃダメだ。ちゃんと言わないと。
震えながら口を開く。ひどく喉が渇いて、声が出なくなりそうだった。涙が出てくる。
殺されるのは怖い。だけど、このままレヴェリルインたちまで処分される方が嫌だ。
「……こ……ころして…………殺してっ……! ぼくをっ…………処分してっ……!」
「………………嫌だ」
「……な……なんでっ……!」
なんでだめなんだ? そんなに嫌なの!? だけど今は、嫌だなんて、そんなこと言ってる場合じゃない。僕を殺さなかったら、二人とも死ぬのに!!
廃棄処分が決まっていた僕を殺すだけでいいのに、レヴェリルインは僕から顔を背けてしまう。
僕は、ドルニテットに振り向いた。彼なら殺してくれるって思ったのに、ドルニテットまで、僕には手を出そうとしない。
「貴様のことは、俺が後で必ず処分してやる」
冷たくドルニテットに言われたけど、僕は意味が分からない。だったら今殺せばいいのに、なんでしないんだ!?
王子も驚いたようだ。こんな条件を出せば、レヴェリルインがすぐに僕を処分すると思っていたんだろう。
王子だけじゃない。広間に集まった貴族たちすべてが、驚いている。
思い通りにいかないばかりか、大勢の前で恥をかかされて、王子はレヴェリルインを怒鳴りつけた。
「……貴様らっ……! いいのか!? それを処分しなければ、貴様らは城ごと廃棄だ!! いいのか!? それで!!」
「やりたければ勝手にやれ」
平然と言うレヴェリルインを前に、ついに王子は微かに怯む。
「何を……気が狂ったか? 廃棄物一つの焼却で、命も身分も、何もかも助けてやろうと言っているんだぞ!! なぜ従えない!?」
「誰が聞くか。そんなもの」
「なんだとっ……!」
「コフィレグトグスを処分する気はない。諦めろ」
「ふざけるな!! なぜそんなものを庇う!? 見てみろ!! その薄汚れた姿を! 魔法も使えず、なんの役にも立たないただの屑だ! 今すぐ焼き殺せっっっ!!」
「嫌だ。何度も言わせるな」
「いいのか!? これまで築いてきた地位も、身分も、城も……何もかも失うんだぞ!! それを殺せっっ!! 魔法で骨の髄まで焼き尽くせ!! 命令だ! レヴェリルイン!!」
もう、王子は喚いているようだった。
広間がしんとなる。
みんなの視線は、レヴェリルインに注がれていた。
僕も、レヴェリルインに振り向いた。このままじゃ彼らまで殺される。だけど彼は僕を抱き寄せ、王子だけを見据えていた。
「こいつを殺すくらいなら、そんなもの、全て貴様にくれてやる」
「レヴェリルインっ……! なぜあくまで私に逆らう!?」
「逆らってるんじゃない。これを殺したくないだけだ。俺たちなら、何を失おうとも、すぐにもっといいものを手に入れることができる。だから、ここにあるものはお前にくれてやる。ありがたく受け取れ」
「貴様っ……!」
「……なんなら、手伝ってやろうか?」
そう言って、レヴェリルインが笑った。そのただならぬ様子に、みんながどよめき出す。
彼らが焦る中、レヴェリルインは、少し楽しそうにすら見えた。
「逃げろ」
「なんだと……?」
「今すぐ逃げろ。ここは俺が全て爆破する」
「何をっ……!」
「お前を手伝ってやろうと言うんだ。今すぐ逃げろ。もう、時間がないぞ」
そう言ったレヴェリルインの足元が光り出す。強い魔力を感じた。彼が魔力を呼んでいるんだ。それも、強力な破壊力を持っている。
誰かが叫んだ。
「ほ、本気だっ……本気で……ここをっ……!」
「うわああぁあああっ!!」
誰かが悲鳴を上げて逃げ出し、他の人たちもみんな逃げていく。パニックに陥った人たちは、ドアに殺到し、あるいは窓を開けて、中には窓を割って逃げ出す人もいた。
王子も顔色を変える。
「まさか……貴様っっ!! き、狂人めっ……!」
怒鳴りつけて、王子は護衛たちに連れられ、広間から逃げ出して行く。
あれだけの大人数がいて騒がしかった会場は、すっかり静かになってしまった。もうそこにいるのは、僕と、レヴェリルインとドルニテットだけ。
レヴェリルインは、呆然とする僕を抱き寄せた。
「覚えていろよ……」
「え!?」
覚えていろ!? 何を!? 命令に背いたこと!?
焦る僕の体が、レヴェリルインに抱きしめられる。
床の光がますます強くなっていく。その光が膨らんだかと思えば、体が吹き飛んでしまいそうな音がして、僕は、目を瞑った。
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