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9.覚えてろ
しおりを挟む隠れてろって言われたけど、その命令は聞けない。だって、このままじゃレヴェリルインまで処分される。
命令に背いた僕に、レヴェリルインは冷たい目を向ける。その目から顔を背けて、僕は、王子の方に向かおうとした。
それでも、すぐにレヴェリルインに腕を掴まれ、止められてしまう。
「どこへいく?」
「……」
「ここにいろ」
ビクビクしながらも、首を横に振った。
ここにいろと言ってくれたことは嬉しい。
だけど、だからって、ここにはいられない。レヴェリルインたちまで、僕の巻き添えになってほしくない。
それでも、レヴェリルインが離してくれない。
腕を掴まれたまま、恐る恐るふりむけば、レヴェリルインはめちゃくちゃ怖い顔をして、僕を引き寄せた。
いつも彼が何か言って、僕が「はい」って答える時より、ずっと距離が近づいて、僕は焦った。
一体、どうしたっていうんだ。彼だって、僕の処分なんて、したくないはずなのに。
「処分はしないと言っただろう……後で覚えていろよ」
「は……はい…………」
ビクビクしながら答えたら、レヴェリルインは僕を離してくれた。そして僕をベッドのほうに突き飛ばす。
どうしよう……こんなに怒らせるつもりじゃなかったのに……
レヴェリルインは、王子と対峙して言った。
「これの管理を言い渡されているのは俺です」
「知っている。そして、あなたがそれの管理から外されることも。いつまで経ってもそんなものの処分すらできずにここを堕落させたあなたたちは、今日で全てを失う。地位も、爵位も、城も、名声も、全てだ。それを私は助けてやろうと言っているんだ。それなのに、感謝するどころか断ると言うのか? それを渡せ。そうすれば助けてやる」
「お断りします」
「……城もろとも吹っ飛ばされたいか? あなただけじゃない。兄弟たちも、あなたのその間抜けな判断の巻き添えだ。家族を守りたいなら、それを差し出せっっ!!」
「お断りします。俺の家族は肝が据わっていますから。俺の決断ひとつで怯えたりしません」
「そうか……」
王子は、今にもレヴェリルインに飛びかかってきそう。
このままじゃまずい。王子の言うとおり、レヴェリルインたちが何もかも失ってしまう。
どうせ処分されるのに……なんで庇うんだっ! 僕の処分を他の人に任せる気なら、それが王子だって、いいじゃないか。
このまま僕を処分しないせいで、レヴェリルインたちまで処分されてしまったら……
僕は我慢できなくなって、レヴェリルインの隙を見て、王子の方に走った。
だけどすぐにレヴェリルインが気づいて僕を捕まえてしまう。
だから、なんで止めるんだ。もう止めないでほしいのに。
どれだけ暴れても、レヴェリルインは僕を離してくれなかった。
隣にいるドルニテットまで、何も言わない。彼なら僕を突き出してくれそうなのに、どうしちゃったんだ。今のうちに処分しておこうって、さっきは言ってたのに。
王子は、揉み合う僕たちを見て、呆れたように言った。
「……全く、こんな屑ばかりの城だったとは…………しかし、それでも私はあなたたちを見捨てられない。だから……仕方がないな。こうするしかない」
そう言って、王子が後ろに向かって合図を送ると、控えていた護衛たちが、一斉に剣を抜く。その全てが、レヴェリルインたち二人に向けられて、僕はますます焦った。このままじゃ、二人が殺されてしまう。
僕のせいで、こんなことになるなんてっ……!
レヴェリルインが構えようと、僕の手を離した隙を見て、僕はもう一度、王子の方に走った。
それを見逃さなかったのか、王子が魔法の鎖で僕を縛り上げる。そのまま、僕は魔法で王子の方に引き寄せられた。
「おいっ……!」
僕に手を伸ばそうとしたレヴェリルインを、隣にいたドルニテットが止める。彼がそうしていなかったら、レヴェリルインは、王子の連れてきた護衛たちの剣にかかって、その腕を切り落とされていただろう。
僕を捕まえた王子は、満足げに笑う。
「よく来たな……物分かりの悪い方ではなくて、助かった」
「……」
顔を合わせない僕に、王子は可愛くないとつぶやいた。
「お前のことは、パーティーの席でバラバラに破壊してやる」
「……」
「……行くぞ」
答えないことが気に障ったらしく、王子は冷たく言って、レヴェリルインたちに向かって顔を上げた。
「あなたたちにも来てもらう。そこで最後のチャンスをやろう。会場に集まった方々の前で選ぶといい。私に従うか、それとも、全て失うか」
けれど、ドルニテットは返事もせずに王子を睨んだまま。レヴェリルインは、王子ではなく、僕の方を睨んでいた。
「コフィレグトグス……覚えていろよ」
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