161 / 174
番外編16.オーフィザン様とデート!
161.俺の猫だ!
しおりを挟むかなり怒っているらしいオーフィザン様は、僕を離して、ほっぺにキスしてくれて、そのあと、すごく乱暴に部屋のドアを開いた。
バンって、すごく大きな音がして、僕だったら震え上がりそうなのに、ドアの向こうにいた王様は、そんなのものともしない。
むしろ、一緒にいた二人の護衛の方が驚いたようで、陛下が止めてくれなかったら、多分剣を抜いていたんだろう。
それもそのはず、オーフィザン様は今にも陛下に魔法をかけちゃいそうな顔をしているんだから。
それなのに、オーフィザン様が出て来て嬉しそうな顔をしている陛下の額に、オーフィザン様は、杖の先を向けて言った。
「一分やるから言い訳をしろ。終わったら殺してやる」
「オーフィザン、それでは言い訳の意味がないじゃないか。どうした? 今日は随分とご機嫌斜めだ」
「……お前が来たからだ。帰れ。晩餐会まで城には来るなと言ったのはお前だろう!!」
「落ち着け、オーフィザン。あれは、先に城の外で秘密裏に会いたいという意味だ。こうして会えて嬉しいぞ」
「……俺は全く嬉しくない。帰れ。これから俺はクラジュとデートに行く」
「猫とデートもいいが、それはこっちの用事をすませてからにしてくれ」
「お前の話など、どうでもいい。夜には城に行く。それまではデートだ。邪魔をするならお前をここで殺す」
オーフィザン様が物騒なことを言い出しちゃうから、王様の隣の二人が、緊張した様子で腰に下げた剣に手をかける。
こ、このままじゃ喧嘩になっちゃう!
僕は慌てて、二人の間に入った。
「ま、待ってください! オーフィザン様!! 僕、デートは後でも……大丈夫です……」
本当は、すごく楽しみにしていたから残念だけど、こうしてここまで陛下が来たのは、何か大事な用があったからかもしれない。だったら、僕は我慢しなきゃだよね……
耳と尻尾をしゅんってさせながら言ったら、オーフィザン様が僕の頭を撫でてくれた。
「お前が我慢を重ねることはない。この男の言うことが無茶苦茶なんだ」
オーフィザン様に睨まれて、さすがの陛下も少し後ろに下がる。
「お、落ち着け……オーフィザン……何も、お前たちのデートを台無しにしようなどと、命知らずなことを考えているわけじゃない。話はすぐ終わる」
「…………少しだけだぞ」
そう言って、オーフィザン様は陛下を中に招き入れた。
オーフィザン様が入れてくれて、陛下はほっとしたみたい。
「お前がここへ来たことは、すでに城で話題になっている」
「だったら今すぐ城に出向いてやる。面倒なことを終わらせて、俺はクラジュとデートに行く」
「まあ待て。こっちにも、用意というものがある。ちゃんと準備をしてからでないと、お前が広間に入った時や晩餐会に、誰を呼んだか、何の話をしたんだと、後で問題になるんだ」
「なんて面倒なんだ……もうこの際、お前にだけ話して帰る。魔物の件だが、報告書の形式がどうこう言うなら、お前たちだけでなんとかしろ。もう報告書は書かない」
「待て待て待て待て! 落ち着け! それに関してはお前次第だ。今夜の晩餐会でその話をしてくれればいい。数人脅して……ではなく、話をしておいてほしい貴族のリストをセリューに渡している」
「……俺の執事に勝手な真似をするな」
「お前に渡したところで丸めて捨てるだろう?」
「だったらお前は何をしに来たんだ? わざわざ、こんなところまで」
「……城では話せないことなんだ」
「なんだ? さっさと言え」
「一つは、さっきの話を覚えておけと言うことだ。晩餐会では、キュウテとブレシーをつけるが、クラジュはできるだけそばに置いておいてくれ」
「分かっている。お前は俺が、俺の大事な猫を手放すと思うのか?」
「いいや、そうじゃない。だが、注意はしてやれ」
「お前に言われるまでもない」
「では、ここからは、もっと大事な話だ」
「なんだ? 勿体ぶらずに早く話せ」
オーフィザン様に促されて、陛下は周りをキョロキョロしてから、オーフィザン様に向き直った。
「……例の、猫じゃらしの話だ」
「それか……あれなら、もう二度と作らない。俺の猫が嫌がるんだ」
「そう言うな! 一本くらい余ってないのか!?」
「ない。諦めろ」
「オーフィザン! 頼む!! 一本でいいんだ!!」
「しつこいぞ」
にべもなく断っちゃうオーフィザン様だけど、陛下だって諦めない。
「オーフィザン! 頼む! 最近キュウテが全然相手をしてくれないんだ!」
「キュウテが?」
「ああ……何か怒っているみたいなんだが…………呼んでも全く振り向いてくれないし、夜になるとどこかへ行ってしまうし……」
しゅんとなる陛下は、本当に困っているみたいだ。なんだか可哀想……キュウテは陛下のこと大好きだし、嫌いになったりしないと思うんだけどなぁ……
「あ、あの……陛下」
恐る恐る声をかけたら、陛下は今にも泣き出しそうな顔で、僕に振り向いた。
「どうした? クラジュ……」
「え、えーっと……キュウテ、怒ったりしてないと思います。キュウテは陛下のこと大好きだし……えっと……」
「ありがとう。オーフィザンの猫は優しいな……」
嬉しかったのか、僕の頭を撫でてくれる陛下。
う、嬉しいけど、オーフィザン様、怖い顔してるし、もしかしてこういうのが原因でやきもち焼かれちゃったんじゃないかな?
「ひゃっ……!」
いきなり耳に指を入れられて、体がびくってなっちゃう。びっくりして見上げたら、陛下は微笑んで言った。
「すまない。キュウテを触っているような気になってしまった」
「……え、えっと……僕より、キュウテに謝った方がいいです……なんとなく、そんな気がします。キュウテだって、本当は寂しいんだと思います!」
「クラジュ……ありがとう。いったん私は城に帰る。だが、諦める気はないぞ」
陛下が、オーフィザン様に少し挑戦的な目で言うけど、オーフィザン様は僕を抱き寄せて、陛下を睨みつけた。
「これは俺の猫だ……触るな。あの猫じゃらしも、何度来ようが、ないものはない。あれがあると、俺がクラジュに嫌われる」
「お前はもうそれだけ懐かれているんだからいいだろう。こっちはキュウテに口もきいてもらえないんだぞ」
「知るか。それはお前がそんな調子でいるからだ。行くぞ。クラジュ」
「おい! 待てオーフィザン! クラジュにかまけて、さっき話したことを忘れるなよ!! あの猫じゃらしを欲しがる奴は、他にたくさんいるんだからな!」
「分かっている」
素気なく言って、オーフィザン様は僕の手を握って、部屋を出ていった。
11
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください
東院さち
BL
ラズは城で仕える下級使用人の一人だ。竜を追い払った騎士団がもどってきた祝賀会のために少ない魔力を駆使して仕事をしていた。
突然襲ってきた魔力枯渇による具合の悪いところをその英雄の一人が助けてくれた。魔力を分け与えるためにキスされて、お礼にラズの作ったクッキーを欲しがる変わり者の団長と、やはりお菓子に目のない副団長の二人はラズのお菓子を目的に騎士団に勧誘する。
貴族を嫌うラズだったが、恩人二人にせっせとお菓子を作るはめになった。
お菓子が目的だったと思っていたけれど、それだけではないらしい。
やがて二人はラズにとってかけがえのない人になっていく。のかもしれない。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…

禁断の祈祷室
土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。
アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。
それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。
救済のために神は神官を抱くのか。
それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。
神×神官の許された神秘的な夜の話。
※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。

釣った魚、逃した魚
円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。
王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。
王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。
護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。
騎士×神子 攻目線
一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。
どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。
ムーンライト様でもアップしています。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる