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番外編15.どうしたんですか?
154.約束です!
しおりを挟むまだ眠いまま、目を擦って起きる。すぐそばには、オーフィザン様の優しい笑顔。
いっぱい愛された夜が明けて、昨日はいつのまにか寝ちゃっていたんだ。
あったかい布団の中にいる僕を、隣にいるオーフィザン様が撫でてくれている。
「ふああ? オーフィザンさまあ?」
オーフィザン様は、先に起きていたらしく、僕のすぐ隣に座って、目を覚ました僕を見下ろしている。そして、目が合うと微笑んでくれた。
「起きたか……」
「はい……」
起きた……けど、せっかくだし寝ているふりしておけばよかった。
だってオーフィザン様、せっかく僕のことを撫でてくれてたのに、手を止めちゃった。
今日はすごくいいお天気みたいで、まだ朝早いのに、外からは明るい光が差し込んできてる。
眩しい……
笹桜さんたちが来てから数日が経って、急に暖かくなってきた。庭の雪も溶け始めて、ついに春を迎える頃。
城の中も忙しくなってきて、故郷に帰っていた人たちも戻ってきた。
オーフィザン様のもとには、いろんなところから魔法の道具を依頼する手紙が届き始めているらしい。
だから、ここ最近のオーフィザン様は忙しい。その分、朝はずっと二人でいてくれる。
オーフィザン様の隣でその顔を見てたら、もっとそばに行きたくなる。
「まだ……少し眠いです…………」
「クラジュ?」
ぎゅうってしがみつくと、オーフィザン様は、僕のことを優しく撫でてくれる。
朝のオーフィザン様は、いつもすっごく僕に優しいんだ。
「……今日は昼から迎えに行く」
「え? ダメです」
「………………なぜだ?」
聞かれて、僕は起き上がった。
「だって、今日は大事な約束があるんです!!」
「約束? 誰とだ?」
「ブレシーたちとです! 今日は、一番日当たりの良いお部屋で、みんなで日向ぼっこするんです」
「………………ブレシーと?」
「はい! フィッイルと、あと、雨紫陽花さんたちとも!!」
彼らとの約束を思い出すと、自然と笑顔になっちゃう。
以前はあんまり遊んでくれなかったフィッイルも、最近はよく僕と、日当たりの良い部屋でお昼寝してくれる。
雨紫陽花さんたちも、あったかいところでのんびりするのが好きらしく、今日はみんなで日向ぼっこの約束なんだ。
すごく楽しみ。尻尾もゆらゆら揺れちゃう。
「……やけにブレシーに懐いているな……」
「はい! だってブレシー、優しいから好きです!」
「すっ……っ!? …………そうか…………………」
オーフィザン様の顔が曇っていく気がして、僕は恐る恐るその顔を見上げた。
「オーフィザン様……? ダメですか?」
「いいや。そんなことはない……」
「本当ですか!? ありがとうございます!!」
僕が笑顔でお礼を言うと、オーフィザン様も微笑んでくれる。
優しく頭を撫でてもらえて、すごく幸せ。目を閉じてその手に身を任せちゃう。
「オーフィザン様…………」
「…………俺に懐くにはずいぶん時間がかからなかったか……?」
「……え? 何か言いましたか?」
オーフィザン様の声が聞こえた気がして、顔をあげるけど、オーフィザン様は僕から顔をそむけちゃう。
「……いいや…………なんでもない………………楽しんで来い」
「はい! ありがとうございます!」
「夜は部屋で待っていろ」
「え? 無理です」
「……まだ何かあるのか…………?」
「笹桜さんが、一緒に食事をしようって誘ってくれたんです! 雪も溶けて、庭の花が綺麗だし、オーフィザン様の魔法で、庭の噴水のあたりは暖かいから、そこで食事をしようって。フィッイルやブレシーも一緒に!」
「……そうか…………」
「そうだ!! オーフィザン様も、ご飯の時はお仕事ないですよね!? 一緒に食べませんか!?」
「……そうだな……」
「本当ですか!?」
うわああああ! オーフィザン様とお食事できる!!
僕が笑うと、オーフィザン様は僕の頭を撫でてくれる。
オーフィザン様の手、あったかくて気持ちいい……
「オーフィザン様……約束です……」
「……ああ……約束だ。必ず行く……」
うわああああい!! 今日は夜、オーフィザン様と一緒だ! いつもより早く会える!!
すごく嬉しくて、もう一回約束ですって繰り返したら、オーフィザン様も約束だって言ってくれた。
今日の夜は、オーフィザン様と食事ができる!
それを考えたら、オーフィザン様との朝の時間が終わっちゃう時も、いつもより寂しくなかった。
お部屋を出ていくオーフィザン様を笑顔で見送った僕は、クッキーがたくさん入ったかごを持って、みんなが待っている部屋に急いだ。
お部屋のドアを開くと、ベッドの上のフィッイルが僕に振り向く。
「クラジュ? 遅いよー」
彼はお布団の上であくびしている。
その隣では、雨紫陽花さんがお布団の中で丸くなっていた。
窓辺では笹桜さんとブレシーが、お茶を飲みながら本を読んでいる。
出窓では、小鳥くらいに小さくなったロウアルさんが、クッションの上で眠そうにしていた。
もうみんな集まっていたんだ!!
僕は、持ってきたクッキーのかごを、フィッイルに見せた。
「ダンドに会ったら、クッキー焼いてくれるって言うから、もらってきたの!! 見て!! クッキー、いっぱいだよ!!」
このクッキーは、フィッイルも大好きなんだ。
カゴから甘い匂いがして、フィッイルもすぐに起き上がる。
「クッキー!? 偉いじゃんバカ猫!!」
「え、偉いんだからバカ猫じゃないもん……」
「じゃあ今日はクラジュって呼んであげる! 早くクッキー!」
フィッイルが嬉しそうにしてくれて、僕はクッキーのかごをベッドの上に置いた。
早速彼は、クッキーに手を伸ばす。
「お腹空いてたんだー。いいもの持ってきたじゃん」
「フィッイルずるい! 僕もーー!!」
僕が手を伸ばしたら、フィッイルはクッキーを一枚つまんで、僕に食べさせてくれる。
「ふあああーー。美味しい……ありがとうーー。フィッイルーー」
「またこのクッキー焼いてもらってよー。お前が言えばあのシェフは焼くんだから」
「そんなことないよ。いつもは僕が言っても、そんなに焼いてくれないもん。だけど、今日は笹桜さんたちがいるから特別なんだって!」
二人でクッキーをつまんでいたら、笹桜さんも近づいてくる。
「なんだそれは? お菓子か?」
「はい!! 僕が一番好きなクッキーなんです! 笹桜さんも、食べてみてください!!」
僕が差し出したクッキーを、笹桜さんも美味しそうに頬張る。
「うまいな……ここの厨房で作られたものか?」
「はい! ダンドがいつも焼いてくれるんです!」
「……そうか……美味いな……夕飯も楽しみだな」
「そうだ!! 夜のご飯、オーフィザン様も来てくれるそうです!」
「オーフィザンが? 仕事が忙しいんじゃなかったのか?」
「いつもはそうなんですけど、今日は来てくれるって言ってくれたんです!!」
「……嬉しそうだな。クラジュ」
「はい!!」
だって、オーフィザン様とお食事、久しぶりだし、今日は外でご飯だから、なんだか特別な感じだもん!!
夜の楽しみな予定のことを話していたら、フィッイルが、嫌そうに言った。
「あいつ、来るの? いつもはそんなこと、言わないくせに」
「オーフィザン様、一緒にって言ったもん! 約束って言ったもん!」
「来なかったりしてー」
「そんなことないもん!! フィッイル意地悪ーー!!」
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