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番外編12.俺に懐かない猫に好かれる方法を教えてくれ
138.頑張るもん!
しおりを挟むなんとか芝からは逃げられたけど、僕らが今いるのは高く伸びた芝の上。ついさっきまで僕らがいたお城の庭は遥か下だ。
その上、芝が風に吹かれてゆらゆら揺れ出した。お、落ちる!!
「ふ、フィッイルーー!! このままじゃ落ちちゃうよ!! なんとかしてーー!!」
芝にしがみついて振り向くけど、フィッイルも僕と同じように、芝を必死に掴んでる。
「ぼ、僕だってなんとかできるならしてるよ! バカ猫!」
「なんで!? だってさっきフィッイル空飛んでたじゃん!!」
「飛んでたけど今飛べないの! ま、また、魔法うまく使えなくなった……お、落ちるーー!!」
「フィッイル!! 大丈夫!? こ、こうなったらこのまましがみついて降りよう!」
「はああああああ!? 木にも登れないお前が何言ってるの!?」
「登れなくても下りられるもん!!」
「絶対無理だよ!! 落ちる!」
「できるもん! フィッイル! 下りてロウアルさんに会いに行こう!」
「さっきからなんなの!? なんで僕をロウアルに会わせたがるの!?」
「そ、それは……後でロウアルさんが話すもん! 僕絶対言わないから!」
「何その意地!? なんで今そんなに意地になってるんだよ!」
「そ、それも言えないんだけど……えっと……そうだ!! フィッイルがロウアルさん呼べばいいんだよ!! そしたら絶対来てくれるから!!」
「はっ……!? い、嫌だよ!」
「なんでそんなに嫌がるの!? ロウアルさん、フィッイルのことすごく好きだよ!!」
「僕だって別に嫌いじゃないけど、いちいち怖いんだよ!」
「で、でもっ……ロウアルさん、フィッイルのこと、誰より大事に思ってるよ?」
「…………」
フィッイルは黙って俯いちゃう。フィッイル、強情!!
彼の話をしていたら、フィッイルを呼ぶ声がした。遠くから聞こえた竜の羽音が一気に近づいてきて、巨大な竜が僕らのところまで飛んでくる。
「フィッイルーーーー!!」
本当に一瞬で、頭だけで僕の身長を超しちゃうくらい大きな竜が、鼻先まで近づいてきて、僕までびっくり。フィッイルはもっとびっくりしたのか、しがみついてた手を離しちゃった。
「わ!! わああああーー!!」
「フィッイルっ!?」
落ちていくフィッイルを、ロウアルさんは背中で受け止める。
「お、おい!! フィッイル!? 大丈夫か!? ちゃんといるか!?」
「うっ……ううーー!! なんで来るの!? 呼んでない!!」
「は!? ご、ごめんっ……な、なんで泣いてるんだ!? 怖かったのか!?」
フィッイルが泣き出しちゃって、ロウアルさん、またあたふたしてる。
だけど、僕だけまだ芝の上だよーー!!
「ろ、ロウアルさん!! 僕も!! 僕も乗せてーー!!!」
「あ……ああ……わりい…………」
僕もそっちに飛び移ろうとしたけど、あ、あれ?! なんだか足元がふらふらするよ?
足元の芝が、さっきより大きく揺れる。大きな芝が急にまた育ちだしたんだ!
「わわわわわ!」
「お、おい!! クラジュ!?」
芝は急にグラって揺れて、僕は芝の上から放り出されちゃう。
「わっ……わああああ!! お、落ちるーーーっ!!」
屋根より高いところから真っ逆さまに落ちて、怖かったけど、すぐにロウアルさんが僕を背中で受け止めてくれた。
「大丈夫か? クラジュ」
「う、うん……ありがとう…………わああああ!! ロウアルさん!! 芝!! 芝!!」
「芝?」
彼の周りの芝が一気に伸びて僕らを取り囲み、ロウアルさんの頭の上から一斉に向かってくる。
このままじゃ、僕ら、芝に潰されちゃう!
僕はフィッイルと抱き合って震え上がる。
だけど、ロウアルさんが羽を振ると、飛びかかってきた芝は羽にあっさり切り裂かれて、すぐに大人しくなった。
すごい……
あんなに伸びて、僕らに襲いかかってきていた芝が、全部綺麗に刈り取られちゃった。
「すごいー……すごい!! すごいよ! ロウアルさん!! 芝、全部おとなしくなった!!」
「は? なにがだよ……ただの芝だろ? 大丈夫か? クラジュ」
「うん!! ありがとう! ロウアルさん!!」
「礼なんていらねえよ。芝切ったくらいで。自分で降りられるか?」
「う……ま、まだちょっと……地面が遠いかな……」
「仕方ねえな……待ってろ。抱っこしておろしてやるから」
「え!? でも……」
僕はフィッイルに振り向いたけど、彼は立ち上がって、僕に背を向けた。
「僕は自分で降りる……」
「ふ、フィッイルっ……! でも……」
「ここからなら地面まで近いし、僕なら降りることができるよ」
「そ、そうじゃなくて……待って!」
僕はフィッイルに飛びついて彼を止めて、ロウアルさんに振り向いた。
もうあんまり地面まで遠くないし、ここからだったら、木登りも得意なフィッイルには、地面まで飛び降りるのも怖くないのかもしれないけど、フィッイルだってすごく怖い思いしたはずだもん!
「ろ、ロウアルさん!! 僕は大丈夫!! 一人で降りるから、ロウアルさんはフィッイルを抱っこしてあげて!!」
「は!? でも、お前、一人でなんか降りられないんだろ?」
「大丈夫! 見てて!!」
本当はちょっと怖いけど……僕、ロウアルさんのお手伝いするんだもん!
「えーい!!」
思いっきり飛び降りようとした僕の体を、後ろから誰かが抱きとめてくれた。振り向くと、背中の竜の羽を広げたオーフィザン様が、僕をギュって抱きしめてくれてる。オーフィザン様も飛んできてくれたんだ!
「お、オーフィザン様ぁ……」
「クラジュ……またやったな?」
「ううー……ごめんなさい……」
「仕様のないやつだ……」
オーフィザン様はそう言いながらも、僕を抱きしめて微笑んでくれた。
その顔を見たら、怖かったこと全部消えちゃう。尻尾をいっぱい振って、ギュって抱きついた。
オーフィザン様も僕を抱きしめながら、ロウアルさんに振り向く。
「お前はフィッイルを抱き上げて降りてこい」
「は!? でもっ……!」
「嫌なら俺がするぞ」
「ざけんな!! 誰が他のやつにっ……!」
「だったらお前が連れてこい」
「……っ!」
言われて、ロウアルさんは背中のフィッイルに振り返る。
フィッイルは、自分で降りるなんて言ってたけど、さっき芝に襲われたことがよほど怖かったのか、まだ震えてロウアルさんの背中から降りられないでいる。
聞こえないかなって思ったけど、僕は小声でロウアルさんに頑張れって言ってみた。
ロウアルさんは、一回俯いてから顔を上げる。
「フィッイル…………お、おろしてやる! じっとしてろよ!!」
声はめちゃくちゃ裏返ってて、すごく緊張してるみたいだけど、ロウアルさんは、背中の竜の羽だけをそのまま残して人の姿になって、フィッイルを抱き上げた。
「こ、怖くないか……?」
「怖い……」
「……ごめん……また怖がらせて…………」
「そうじゃない!! 早く下に降りる!!」
「わ、分かった!」
フィッイルは震えながらも、彼の腕の中でじっとしている。
フィッイルの猫さんたちも無事で、ロウアルさんの背中に乗って、ニャーニャー鳴いていた。
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