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番外編12.俺に懐かない猫に好かれる方法を教えてくれ
134.お昼寝して作戦会議
しおりを挟む「キュウテ、よかったの?」
僕が聞くと、先頭を歩くキュウテの、ちょっとトゲトゲした声が返ってくる。
「いい!! 陛下なんかもう知らない!」
「……ど、どうしたの? いつもは陛下のこと、大好きなのに……」
「だって、ひどいんだ!! 陛下、僕以外の猫を連れてきたんだよ!」
「キュウテ以外の猫?」
「化け猫をもう一人、後宮に迎えるんだって!!」
「なんで……?」
「知らない!! 僕が同じこと聞いたら、お前が構ってくれないからだ、なんて言って、僕のせいにしたんだ!!」
「それならキュウテが構ってあげればいいんだよ!」
「やだ。陛下、しつこいんだもん。構ってくれって言われた時に構ってたら、僕の体がもたない! それに……」
「それに?」
「……ぼ、僕が構わなかったからって、他の人連れてくるなんてひどい!! 陛下は僕のことがいつも一番じゃなきゃだめだもん!!」
「キュウテ……」
彼はちょっと俯いて、涙目になってる。僕がなでなでしてたら、ロウアルさんがなぜか服を脱いで、キュウテに渡した。
突然シャツなんか渡されて、キュウテはびっくりしたのか涙を引っ込めてキョトンとしてる。
「……なに?」
「拭けよ。涙」
「……いらない」
「なんでだよ!!」
「だって……」
キュウテは泣き止んで、今度は笑ってる。よかった……
だけど、ロウアルさんは服を着て、呆れたように言った。
「だいたい、お前、わがままだろ」
「わがまま?」
「自分は構わないくせに一番好きでいろなんて! 好きでいてほしいんなら構えよ!」
「だ、だって嫌なの! わがままでもないー!! 僕が拗ねてたからって、他の猫連れてくるなんてひどい!! 絶対許さないーーーーっ!!!!」
キュウテのあまりの勢いに、ロウアルさんもびっくりしてる。
ぷいってそっぽを向いちゃうキュウテの手を、僕はギュって握った。
「すごい! キュウテ!! かっこいい!!」
「そ、そうかな?」
「そうだよ!! 僕、応援する!!」
「クラジュ……本当に?」
「うん!! 僕だって、オーフィザン様が他の人連れてきたら嫌だもん!! キュウテ! がんばって!!」
「クラジュー……ありがとうー……」
キュウテはうるうるしながら、僕の手を握り返してくれる。
僕だって、オーフィザン様には僕が一番じゃなきゃ嫌だもん!! キュウテの気持ちはよく分かる。
「おい……」
呼ばれて振り向くと、ロウアルさんが怖い顔して立ってた。
「お前ら! 俺のフィッイルはどうなったんだよ!!」
「え!? あ、そうだった!! ごめん……」
すっかり忘れちゃうところだった……僕ら、ロウアルさんの相談に乗るために来たんだ。
「じ、じゃあ、えーっと……そうだ!! 今日はキュウテが来るから、ダンドがクッキーいっぱい焼いてくれてるんだ! 僕のお部屋にあるから行こう!!」
「クッキー!! 行く!!」
僕が提案したら、キュウテは喜んでくれたけど、ロウアルさんは不満そう。
「待てよ! なんだよ! クッキーって!! 俺のフィッイルはどうした!?」
「クッキー食べながら作戦会議するんだよ! 行こう!!」
僕らが手を引くと、ロウアルさんは戸惑いながらもついてきてくれた。
三人でお部屋まで来ると、キュウテは早速ベッドに飛び込んで、ころんて転がってる。晴れた日のお部屋は、太陽の光がいっぱい入ってきて、すっごくぽかぽかなんだ。
「クラジュのお部屋って、最高ー。眠くなるーー…………」
うとうとしだすキュウテを見てたら僕も眠い……
「ぼ、僕もお昼寝するっ……!」
彼の横に飛び込んで、僕も丸くなる。あああーー…………ぽかぽかあったかいいーーー…………眠い……
急に眠くなってきてお布団にすりすりしてたら、低い声でロウアルさんが言った。
「お前ら…………」
「ロウアルさんもお昼寝しようーー……お布団、あったかいよー……」
僕がお布団の上から言うと、ロウアルさんはなぜか怒鳴りだす。
「昼寝しにきたんじゃねえ!! 銀竜はそんな風にしょっちゅう寝たりしねえんだよ!!」
「で、でも……お布団…………きもちいいよお…………」
「……呑気な猫だな…………起きろーー!!」
彼が叫んだら、僕らが起きる代わりに、部屋のドアが開いた。
そこに立っていたのは、お茶とお菓子の乗ったワゴンを押してきてくれた兄ちゃん。
「ど、どうしました? ロウアルさん……」
「なんでもねえ……なんだ? クラジュの兄貴が何の用だ?」
「キュウテさんがお城から来ていると聞いて、お茶をお持ちしました。それに、お菓子も」
ワゴンの上には美味しそうなケーキと紅茶。わあああい!!!
「兄ちゃん!! ありがとう!!」
僕は駆け寄るけど、兄ちゃんはワゴンを遠ざけちゃう。
「クラジュ、何度も言っているだろう。壊れ物に近づいちゃいけないぞ」
「う、うん……ごめん……」
ううー……またドジすると思われてる……
「クラジュには、爆発してもいいように、オーフィザン様が作ってくれたカップがあるから、それ以外、触るなよ」
「兄ちゃん……僕、カップ爆発させたりしない……」
「いいや。お前ならやるかもしれない。お前が生まれた時から、俺はお前のドジを見てきたんだからな」
「う……」
うううー!! 言い返したいのにできないよ!!
兄ちゃんは、お部屋に浮いていたクッキーのかごを捕まえて、テーブルにきれいにお茶とお菓子と一緒に並べてくれた。
「じゃあな。クラジュ。ちゃんとお客様をおもてなしするんだぞ」
「兄ちゃんは食べないの?」
「俺はこれから行くところがあるんだ。壊れ物に近づくなよ。こ、こら! キュウテさんにあんまり近づくんじゃない!! 服を破いてしまったらどうするんだ!」
「兄ちゃん……僕、人の服破いたりしないよ……?」
「この前セリューさんの服を脱がしていたじゃないか」
「あ、あれは侵入者用の武器が動いちゃって……」
「とにかく、破くなよ。壊すなよ」
「はい……」
僕が返事をすると、兄ちゃんは僕の頭を撫でてくれて、キュウテたちに向き直る。
「キュウテさんもゆっくりしていってください。ロウアルさんも……」
ロウアルさんが顔を上げて兄ちゃんと目を合わせると、兄ちゃんは震えあがっちゃう。そして僕に近寄ってきた。
「く、クラジュ……ほ、本当に大丈夫か? ロウアルさんは竜族の中でも特に暴虐と言われる銀竜なんだぞ……」
「うん! ロウアルさんは何度も僕を助けてくれたんだから! 優しいんだ!」
「そ、そうか……何かあったら兄ちゃんを呼ぶんだぞ」
兄ちゃんは心配そうに言って、部屋を出ていった。兄ちゃんは少し心配性だ。
そして、ロウアルさんは、なぜか赤くなってて、腕を組んでそっぽを向いて言った。
「バカ猫……優しいとか言ってんじゃねえぞ…………」
「なんで? だって、ロウアルさん、僕らをいっぱい助けてくれたのに」
「俺がいつお前なんか助けたんだよ。俺はフィッイルしか助けねえぞ」
「でも、果樹園に竜が出た時、僕らを助けに来てくれたもん!」
「銀竜? 果樹園? ああ……そういえば、そんなことあったな。あん時は、フィッイルが危なかったから行っただけだ」
彼はそういうけど、お城で僕と一緒にいてフィッイルが危ない目にあった時だって、助けに来てくれた。フィッイルだって、本当はロウアルさんを頼りにしているんだと思うけどなあ……
キュウテは嬉しそうに微笑む。
「じゃあもう本当は仲良しなんじゃないの?」
僕もそう思うんだけど、ロウアルさんはますます沈んだ顔をする。
「そんなことねえよ……フィッイルはずっと、俺にだけ懐いてくれないんだ」
「な、なんで?」
僕が聞くと、ロウアルさんはますます暗い顔になっちゃう。
今度はキュウテが言った。
「銀竜だから怖いのかな?」
「んなことねえよ。群れの奴らには結構懐いてたんだから……」
「え? そうなの?」
「……俺以外の銀竜で、いきなり食いつかなかった奴らは、結構懐かれてた。抱っこだって大人しくされてたくせに、俺だけいつまでたっても、そばによるだけで嫌な顔されんだよ……」
「何か悪いことでもしたの?」
「フィッイル相手にするわけねえだろ! 好かれたくてがんばったのに、全然うまくいかねえんだよ!!」
「好かれたくてって……なにしたの?」
「あいつを群れに連れていったばかりの頃、仲良くなりたくてずっと後ろについて歩いたり、かまって欲しくて抱っこしたり、食事しに行こうって捕まえて連れて行ったり、一緒に寝たくて捕まえて抱っこしたまま寝たり……」
「えー……鬱陶しい……」
キュウテに冷たい目で言われて、ロウアルさん、かたまっちゃってる。相当ショックだったみたい。だ、大丈夫かな……急に顔色が真っ青になっちゃって、心配だよ……
「き、キュウテ……ロウアルさんもがんばってるんだし、あんまりひどいこと、言わない方が……」
「だって……ずっとつけまわされた怖いし、急に抱っこされたら嫌だし、捕まえて連れてくって何? 無理矢理抱っこなんて、痴漢みたい……」
「き、キュウテ!!」
慌てて止めたけど、ロウアルさんはますます真っ青。ガタガタ震えててもう死んじゃいそうだよ!!
「ち、痴漢!? 痴漢…………痴漢!? お、俺は……そんなつもりじゃ………………」
ガタガタ震えているロウアルさんを、キュウテは指差す。
「つもりじゃなくてもそんなのだめだよ! 仲良くなりたいなら、フィッイルが喜ぶことしてあげなきゃ!」
「喜ぶことってなんだ!? フィッイルが喜んだとこなんか見たことねえ! フィッイルは何したら喜ぶんだ?」
「なんでそんなことも知らないんだよ!! 好きならちゃんと知ってなきゃダメ!!」
「それは知らなきゃダメなのか!? さっきつけまわした俺を怖いっつっただろ!」
「ストーカーはだめだけど、それは知らなきゃダメ!!」
「そんなのいつもずっとついて歩かなきゃわかんねえだろ!」
「普段の会話で分かるじゃん!」
「会話ねえんだよ! 全然!!」
「なくても付け回さなくて、会話もするの!」
「無茶言うなー!! お前なんかに一人だけ懐かれなかった俺の気持ちは絶対わかんねえ!!」
ど、どうしよう……二人とも怒鳴り出しちゃった。
困ったなあ…………フィッイルがいつも喜んでるものって……なんだろう……
「そ、そうだ! フィッイルはダンドのクッキーが好きだよ!!」
僕が手を叩いて言うと、ロウアルさんもキュウテも、僕に振り返ってくれる。
「クッキー持って行って、フィッイルのお気に入りの場所で一緒にお昼寝しよう!! フィッイルはお昼寝も大好きだから、きっと喜ぶよ!!」
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