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番外編12.俺に懐かない猫に好かれる方法を教えてくれ
133.お手伝いします!
しおりを挟むお昼過ぎのオーフィザン様のお部屋は、今日も気持ちいい。僕はソファの上で、オーフィザン様に尻尾をブラッシングしてもらっていた。
今日は王都から陛下がキュウテを連れてきてくれて、久しぶりに彼にも会えて、すっごく嬉しい。
静かで、ぽかぽかあったかくて、のんびりした時間。
キュウテは猫耳をピンって動かしながら、クッキー食べてる。たまに陛下が手をだそうとすると、長い猫の尻尾で、その手を払ってた。
僕はオーフィザン様に膝枕してもらってお昼寝。オーフィザン様は僕の尻尾をブラッシングしながら楽しそう。
オーフィザン様に尻尾を綺麗にしてもらうの、大好きなんだ。だけどくすぐったくて、ついつい尻尾を震わせちゃう。
「クラジュ」
「はい……クッキー!!」
オーフィザン様は、僕の大好物のクッキーを、一枚摘んで魔法で高く上げてしまう。
そんなに高くあげられたら取れないよ! さっきまで、僕にあーんでクッキー食べさせてくれてたのに、なんでくれないの!?
クッキー欲しくて、ついついそれに夢中になっちゃう。いつの間にか、さっき綺麗にしてもらったばっかりの尻尾は勝手に揺れてるし、オーフィザン様の体を登るようにして、クッキーに手を伸ばしちゃう。
だけどオーフィザン様は、さっきみたいにあーんってしてくれない。
うううー! クッキー、欲しいよう!!
ソファに座ったオーフィザン様の肩に手を置いて、クッキーに向かって手を伸ばしちゃう。
なんだかオーフィザン様、すっごく楽しそう。
「クラジュ……いい子でブラッシングされたら、ご褒美にやる」
「本当ですか!? 約束ですよ!?」
オーフィザン様は、にっこり笑ってくれる。
わあい。クッキー、もらえるんだ!!
「約束してやるから、膝に来い」
「はい!!」
オーフィザン様のお膝に頬をすりすりしながら、尻尾を立てる。ブラシをかけやすくしたつもりだったんだけど、オーフィザン様には尻尾を下ろすように言われちゃう。
「撫でながらやったほうがやりやすい」
「え!? じ、じゃあ……頭も撫でてください……」
「頭の耳はもうブラシをかけたぞ」
「ううー……ダメですか?」
僕、オーフィザン様になでなでされるの、大好きなのに……
しゅんってなってたら、オーフィザン様は僕の頭に手を置いた。
「オーフィザン様?」
「……仕様のない猫だ」
「だって……なでなで、嬉しいもん…………」
オーフィザン様は「仕方ない」なんて言いながらも微笑んで、僕の頭を丁寧に撫でてくれる。
うわあああ! 気持ちいいよう……
つい、うっとりしちゃう。オーフィザン様も嬉しそうだし、ずっとこうしていたい。
そしたら、ソファの向こう側に座った陛下が、微笑んで言った。
「お前たちは相変わらず、仲がいいな」
すると、オーフィザン様は嬉しそうに言う。
「だろう? 俺の猫は特に俺に懐いているからな」
「だろうな……べったりじゃないか」
「羨ましいか?」
「……可愛いのは認めるが、羨ましくはない。俺には世界一可愛いキュウテがいる」
そう言って、陛下はキュウテに手を伸ばすけど、キュウテはプイってそっぽを向いて、陛下からちょっとだけ離れちゃう。
キュウテは陛下のこと大好きで、いつもはあんなことしたりしないのに。どうしたんだろう……今日は機嫌が悪いのかな?
陛下もキュウテに避けられちゃって、ちょっと悲しそう。
それなのに、オーフィザン様はまるで得意になったみたいに言う。
「ずいぶんご機嫌斜めのようじゃないか。嫌われたか?」
「……そうじゃない。今は少し機嫌が悪いだけだ。気まぐれなところも、こいつは可愛い。そういうお前こそ、クラジュのドジを全く防ぎきれていないではないか。この部屋に来るときに、庭で芝の世話をしていた男が、クラジュのせいで芝生に穴があいたと嘆いていたぞ」
うう…………それを言われると……
頭の耳がペタンって垂れちゃう。頭を抱えて、僕はオーフィザン様の影に隠れた。
昨日は、兄ちゃんにもらった大事なぬいぐるみを庭に落としちゃって、探しているうちに芝を抜いちゃって、めちゃくちゃ怒られた。いつも芝の世話をしている人たちには「ねこ草食いにきたのか!? 出てけ!!」って怒鳴られちゃったもん。
「それは俺がすぐに魔法で元に戻した。だいたいお前は、クラジュのドジを全て防ぐことが可能だと思うのか? クラジュはドジも合わせて可愛いんだ。世界一可愛いのは俺の猫だ」
「いいや。俺の猫だ」
なぜか睨み合っちゃうオーフィザン様と陛下。
なんで喧嘩してるんだろう。みんな可愛いじゃダメなの?
それより、僕はオーフィザン様が久しぶりにブラッシングしてくれたのに、手を止めちゃってちょっと悲しい……
ソファの上のキュウテも、ふんってしてるけど、チラッて陛下の方を見たりして、寂しそうにしているのに。
陛下は、オーフィザン様との、俺の猫がっていう言い合いに夢中みたい。
キュウテの方に行こうとしたら、遠くから竜の羽音が聞こえてきて、いきなり窓ガラスが破壊され、中に大きな竜が飛び込んできた。
「わああああああ!!!!」
「な、なにっっ!?」
びっくりして声を上げる僕とキュウテ。
ソファの上で、怖くて震えちゃう僕を、オーフィザン様が抱きしめて守ってくれて、テーブルを挟んで反対側のソファでは、今にも泣きそうなキュウテを、陛下が背中の後ろに隠していた。
テーブルに置いてあったクッキーのカゴはひっくり返って、クッキーが落ちちゃってる。
陛下もオーフィザン様も、割れた窓の方を睨んでいた。
粉々になった窓ガラスの破片の真ん中にいたのは、今飛び込んできた大きな竜。この部屋はかなり広いのに、それが埋まっちゃいそうな大きな体に鋭い牙。金色の目は、まるで獲物を狙っているかのようで、震えあがっちゃいそう。銀竜のロウアルさんだ。
彼はちょっと乱暴なところもあって、たまにこういうことをするけど、悪気があってやってるんじゃなくて、銀竜には、邪魔なものを壊して中に入るっていうのは、普通のことらしい。
困ったところもあるけど、僕らのことを何度も助けてくれた優しい人なんだ。
ロウアルさんは、びっくりしている僕らを見下ろして言った。
「俺の猫が俺に懐かない。どうしたらいい?」
ええっと……なんの話だろう……
ロウアルさんが俺の猫って言うなら、多分、フィッイルのことなんだろう。
だけど懐かないって、なんで? だってフィッイルは、ロウアルさんのこと、あんなに頼りにしてるのに。
それでも、ロウアルさんは真剣みたい。人の姿になって、ソファの前まで来ると、仁王立ちになって同じことを聞いてくる。
「俺の猫を俺に懐かせる方法を教えろ」
「帰れ。馬鹿」
一言で冷たく言って、オーフィザン様は僕を抱き寄せ、魔法で壊れた部屋を直す。あっという間に部屋は元どおりだ。
僕のことも、ソファの向こう側に座っていた陛下とキュウテのことも、オーフィザン様が魔法で守ってくれたみたい。僕らはみんな無傷。破壊の音が聞こえたらしく、セリューが部屋に飛び込んできたけど、オーフィザン様が大丈夫だと言って、紅茶を用意するように言うと、部屋の様子を心配しながらも出て行った。
あっさりオーフィザン様に追い払うようなことを言われたロウアルさんは、ちょっと怒ってるみたい。
「邪険に扱うな!! 俺だけフィッイルに嫌われてんだぞ! なんとかしろ!!」
「知らん。お前が懐かれていないのはお前自身の問題だろう」
「俺が何したっていうんだよ! 少しは話聞けよ!」
「……うるさい奴だ…………」
ため息をつくオーフィザン様だけど、出て行けとは言わない。
なんでも、フィッイルがロウアルさんのところにいることになったのは、オーフィザン様のせいらしい。
だから、こうしてよくオーフィザン様は二人の世話を焼いている。
嫌々しているだけだって、オーフィザン様は言うけど、本当は二人が心配だからなんだ。
オーフィザン様はいつも意地悪だけど、本当は優しい。だから僕はオーフィザン様が好き。
「とりあえず、座れ。そして、部屋を壊すのはやめろ」
オーフィザン様が言うと、ロウアルさんは、テーブルの前にどかっと座る。
「いいぞ! 俺がフィッイルに懐かれる方法教えたらな!」
窓が壊れたことがまだ怖くて、僕とキュウテはそれぞれオーフィザン様と陛下にギュってしがみついたまま。そんな僕らを指して、ロウアルさんは声を荒らげた。
「なんでお前らの猫だけそんなに懐いてるんだ!! 俺だってフィッイルに懐かれたくてがんばってるのに!! 懐かれる魔法でも使ってるんだろ!!」
すると、オーフィザン様は首を横に振る。
「俺はそんな真似はしない。驚かすお前が悪いだけだ」
「んなことしてねえよ!! 俺はフィッイルが大好きだし、フィッイルにはいつも優しくしてる! なんでダメなんだよ!!」
「やり方が問題なんだろう。アドバイスは終わりだ」
「は!? もうか?! 早すぎだろ! それじゃどうしていいかわかんねえ!」
「だったら諦めろ」
冷たく言われて、ロウアルさんは言葉を失う。なんだかかわいそうだ。
「お、オーフィザン様!! そ、そんなの……あんまりです!!」
つい、僕は口を挟んじゃった。ロウアルさんはフィッイルと仲良くなりたいだけなのに!! オーフィザン様、ひどいもん!
「僕が協力します!! ロウアルさんが怖がられないようにしてみせます!!」
「本当か!? クラジュ!」
ロウアルさん、嬉しそう。ロウアルさんは銀竜だし、城の中でも、怖いって言う人も多いけど、僕もフィッイルも、よくロウアルさんに助けてもらってるんだ。その彼がこんなに困ってるんだもん! 僕だって、お手伝いしたい!!
だけどオーフィザン様は怖い顔になっちゃう。
「……クラジュ。そんなことはしなくていい。お前はここにいて、俺に可愛がられていろ」
「い、嫌です! オーフィザン様、ひどいです! ロウアルさんが困ってるのに!!」
「……放っておけ」
「絶対に嫌です!! 僕がロウアルさんの力になります! 行こう!! ロウアルさん!!」
僕が彼の腕を引っ張って部屋を出て行こうとすると、オーフィザン様は待てってうるさいし、陛下は笑い出した。
「ははっ……ふられたな、オーフィザン。可愛い猫に好かれているのは俺の方だ」
陛下は得意げにそう言って、フィッイルを抱き寄せようとしたけど、フィッイルはその手からするって逃げていっちゃう。
「僕もクラジュたちと一緒に行きます」
「お、おい! キュウテ!? お前は俺のそばにいればいい! おい!!」
キュウテは陛下の言うことなんかまるで聞かず、僕らの方に走ってくる。
「行こー。クラジュ! ロウアルさん!!」
彼は僕らを連れて、去り際に残された二人に向かって舌を出して、部屋の扉を閉めちゃった。
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